パワー半導体の進化がもたらす産業変革
パワー半導体の重要性が高まっている。電力効率の向上はエネルギー消費の削減、カーボンニュートラルの実現、次世代モビリティや産業機器の進化に直結するからだ。特に電動車(EV)、再生可能エネルギー、データセンターの分野では需要が急増し、パワー半導体の性能向上が求められている。
本記事では、パワー半導体の基本概念から、代表的なデバイスであるトランジスタ、MOSFET、IGBT の違いを解説し、それぞれの特性を比較することで最新の技術動向を探る。

トランジスタ、MOSFET、IGBT の性能と用途比較
1. パワー半導体の基本概念

パワー半導体は高電圧・大電流を制御する半導体デバイスであり、電力変換やモーター制御、電源管理などで使用される。
市場規模は 2023 年時点で約 220 億ドルに達し、2030 年には 500 億ドルを超えると予測されている(出典:Yole Development)。この成長を支えるのは EV や再生可能エネルギー分野での需要拡大である。
2. トランジスタ:基本的なパワーデバイス
トランジスタは電流増幅やスイッチング機能を持つ半導体素子である。バイポーラトランジスタ(BJT)は高速スイッチング性能を持つが、ベース電流の損失が大きく、近年では MOSFET やIGBT の登場により用途が限られている。
3. MOSFET:低電圧・高速スイッチング向け
MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)は、低消費電力で高効率なスイッチングが可能なデバイスである。シリコン(Si)ベースのものから、最近ではシリコンカーバイド(SiC)を使用した高耐圧型が登場し、EV や産業機器での採用が進んでいる。
市場では SiC MOSFET のシェアが急増し、2024 年には MOSFET 市場全体の 30%を占めると予測されている(出典:IC Insights)。
4. IGBT:高電圧・高電力向けの決定版
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は、MOSFETの高速スイッチングとBJTの高耐圧性能を組み合わせたデバイスである。
市場動向として、シリコンカーバイド(SiC)ベースのIGBTの開発が進んでおり、2025年以降、従来のシリコンIGBTからSiC IGBTへシフトすると予測される(出典:SEMI)。
転換期を迎えるパワー半導体

パワー半導体市場は、SiC や GaN(ガリウムナイトライド)などの新素材技術の進化により、大きな転換期を迎えている。特に EV や再生可能エネルギー分野では、エネルギー効率を向上させるために、SiC MOSFET や SiC IGBT の採用が加速している。
また、日本のパワー半導体メーカーも市場競争に参入しており、ローム、三菱電機、富士電機などが SiC 技術に注力している。政府の支援も追い風となり、日本勢が今後どのような戦略を取るのかが注目される。
これから訪れる第5次産業革命に与える影響とは
今後の展望としては、SiC や GaN を活用した次世代パワー半導体の拡大やEV や産業機器向けの新技術開発、そして市場競争の激化とメーカーの技術戦略などが予測される。
そして、これらパワー半導体の進化や技術革新が、第4次産業革命の延長線にある「第5次産業革命(インダストリー5.0)」や、バイオテクノロジーを活用した「バイオエコノミー社会」にどんな影響を与えるかを予測し、今後のビジネスチャンスを見極めることが求められるだろう。