パワー半導体の変革期が到来
近年、電力効率の向上や脱炭素化の潮流を受け、パワー半導体市場は劇的な変化を遂げている。従来のシリコン(Si)に加え、シリコンカーバイド(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)といった次世代半導体材料が登場し、熾烈な競争が繰り広げられている。これらの材料は、自動車産業、再生可能エネルギー、産業機器などの幅広い用途での採用が進み、市場の勢力図を塗り替えつつある。
本記事では、シリコン、SiC、GaNの技術特性を比較しながら、それぞれの市場動向や主要プレイヤーの戦略を分析し、パワー半導体の未来について考察する。
パワー半導体の技術と市場動向

1. シリコン(Si):成熟技術の限界と進化
シリコンは長年にわたりパワー半導体の主流として君臨してきた。その最大の強みは、製造技術の確立と低コスト性にある。しかし、スイッチング速度や耐圧性能において限界が見え始めており、高効率化が求められる次世代アプリケーションでは不利な状況が生まれている。
それでも、シリコンIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)は依然として市場の主要技術であり、特に高電圧用途では2020年代半ばまで安定した需要が続くと予測されている(出典:Yole Developpement)。
2. シリコンカーバイド(SiC):EV時代の覇権を狙う
SiCはシリコンに比べてバンドギャップが約3倍広く、電力損失を大幅に低減できる。そのため、電気自動車(EV)や高電圧電源、鉄道インフラなどの分野で急速に採用が進んでいる。
TeslaをはじめとするEVメーカーがSiC MOSFETを積極的に採用し、SiCの市場規模は2022年の約10億ドルから2030年には60億ドルを超えると予測されている(出典:Gartner)。主要プレイヤーにはWolfspeed(旧Cree)、STMicroelectronics、Infineonが名を連ね、各社が生産能力の増強を進めている。
しかし、SiCは製造コストが高く、基板の欠陥密度が依然として課題である。特にSiCウェハの供給不足は、市場成長のボトルネックになっている。
3. ガリウムナイトライド(GaN):高周波・高効率化で新市場を切り拓く
GaNはSiCよりもさらに高いスイッチング速度を持ち、5G通信、データセンター、急速充電器などの分野で急成長している。特に、データセンター向けの電源供給や消費電力削減に寄与し、AmazonやGoogleといったクラウド企業がGaN採用に関心を示している。
市場規模は2022年時点で約8億ドルだが、2028年には20億ドル規模に成長すると見られている(出典:Omdia)。主要メーカーにはNavitas Semiconductor、Transphorm、EPCなどがあり、特に米国勢が強みを持っている。
GaNは低電圧帯(< 600V)で特に強みを発揮するが、高電圧用途ではSiCに劣る点が指摘されており、適用領域の広がりが今後の課題となる。
パワー半導体の未来展望

シリコン、SiC、GaNはそれぞれ異なる特性を持ち、用途ごとに棲み分けが進んでいる。短期的にはSiが引き続き市場の中心を担うが、EV・再生可能エネルギーの拡大とともにSiCの成長が加速する。一方、GaNは低電圧・高周波領域で新たな市場を切り拓き、データセンターや5G通信での活用が拡大すると見られている。
今後の鍵を握るのは、コスト削減と大量生産技術の確立である。各社の投資動向や技術革新のスピードが、パワー半導体市場の勢力図を塗り替える可能性が高い。
読者の皆様は、これらの動向を見極め、どの技術が自身の事業に最適なのかを検討する必要がある。2025年以降、次世代パワー半導体の覇権争いがどのような展開を見せるのか、引き続き注視したい。