なぜ90 年代の製造技術が今も生き続けるのか。その理由と背景を探る

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なぜレガシー半導体は今も重要なのか?

微細化が進む半導体産業は最先端のテクノロジーが求められ、最新鋭の設備や装置が必要である――半導体産業というものを考えたとき、こう浮かぶのが普通であろう。そして、これは間違っていない。このため、5nm や 3nm といった最先端プロセスが話題となるのが通常だ。
しかしながら90 年代に確立された製造技術がいまだに産業の基盤を支えていることも事実なのだ。そして、この現象は単なる技術の遅れではなく、産業構造や経済合理性によるものである。
本記事では、いわゆる「レガシー半導体」の存続理由を探り、半導体産業への影響を考察する。

レガシー半導体が残る3つの理由とは

1. 信頼性の高い成熟技術を引き続き利用するから

レガシー半導体は、自動車、産業機器、医療機器などの市場で重要な役割を果たしている。これらの分野では長寿命が求められ、設計変更にかかるコストが高いため、信頼性の高い成熟技術が引き続き利用される。例えば、車載用半導体は AEC-Q100 規格に適合する必要があり、新技術への移行にはコストと時間がかかる。そのため、28nm や 45nm のプロセスが現在も主流であり、新興企業もこれらの技術を活用して市場参入を進めている。

(出典:SEMI「Automotive Semiconductor Market Outlook 2024

2. 製造コスト削減のため設備を再利用するから

先端ノードへの移行には高額な製造装置が必要だが、レガシー半導体の製造ラインはすでに減価償却が完了しており、低コストでの生産が可能である。
また、90 年代の製造装置は中古市場で流通し、新興国のファウンドリで再利用されている。特に中国や台湾のファウンドリは、200mm ウェハを用いた成熟プロセスを活用し、グローバル市場で競争力を維持している。

(出典:Gartner「Semiconductor Equipment Market Trends 2023

3. 各国の政府が支援しているから

各国政府は半導体の国内生産を支援しており、レガシー半導体もその対象となっている。米国のCHIPS Act では、90nm 以上のノードに対しても補助金が提供され、中国も独自の成熟プロセスを強化する政策を進めている。
特に安全保障の観点から、ミッションクリティカルな分野ではレガシー半導体の安定供給が不可欠とされ、日本政府もロジック半導体の供給強化を目的とした支援を行っている。

(出典:経済産業省「半導体産業政策の展望

レガシー半導体には未来はあるか?

このように、レガシー半導体は単なる「古い技術」ではなく、産業全体の安定供給を支える基盤とさえ言える。先端ノードの高コスト化に伴い、逆に低コスト化のため成熟プロセスの活用も進んでおり、パワーデバイスや MEMS 技術との融合による新たな市場も生まれている。

おわりに

今後、半導体業界は「先端ノード」と「成熟ノード」の共存がより明確になり、企業戦略も二極化するだろう。レガシー半導体の価値を見直し、戦略的に活用することで、企業は持続的な成長を遂げることができるのだ。

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