AI半導体が変革する自動運転の未来

自動運転技術はここ数年で飛躍的な進化を遂げているが、完全自動運転(レベル 5)の実現には依然として高い壁が存在する。その障壁の一つが、リアルタイムかつ高精度な認識と意思決定を支える半導体の処理能力だ。
これに対し、AI半導体各社ともこの障壁にただ手をこまねいているばかりでは当然ない。処理能力の問題についてはGPU(Graphics Processing Unit)や専用アクセラレータ(TPU、NPU など)といったAI半導体の進化が鍵を握ると思われる。各社ともそれぞれ独自の新製品や新技術の開発に邁進している。
本記事では、自動運転におけるAI半導体の現状やそして本格的なブレイクスルーがいつ訪れるのかを探る。
自動運転実現にAI 半導体はどこまで寄与?
まずは、自動運転の現状とAI半導体がその現状にどこまで寄与しているか見ていこう。

1. レベル 3の実用化が進む自動運転
現在の自動運転システムは、レベル 2(部分運転自動化)およびレベル 3(条件付き運転自動化)の実用化が進んでいる。例えば、米国の電気自動車メーカーTesla(テスラ) の「 Autopilot」 や「 Waymo 」といった自動運転タクシーは、一部の条件下で自律走行が可能だが、完全自動運転には至っていない。主な課題は以下の点に集約される。
- 認識精度の向上:カメラ、LiDAR、レーダーの融合処理による環境認識
- リアルタイム性:ミリ秒単位での意思決定を可能にするプロセッシング
- エネルギー効率:バッテリー駆動車に適した低消費電力な AI 推論エンジン
2. 圧倒的なシェアを占めるNVIDIA の GPU
次に、自動運転向けAI 半導体の動向を見てみよう。ここでは、NVIDIA の GPU が圧倒的なシェアを占めるが、特定用途向けのカスタムアクセラレータ(TPU や NPU)の台頭が著しい。
NVIDIA の「Orin」や次世代「Thor」チップは、高い演算能力を誇り、多くの自動運転プラットフォームに採用されている(出典:NVIDIA 公式サイト)。
また、Tesla は独自の AI チップ「Dojo」を開発し、自動運転データのトレーニング効率向上を目指している。さらに、米国Google 傘下の自動運転車の配車サービスを提供する企業Waymo(ウェイモ) や Amazon の子会社で「Mobility as a Service」を提供する自律走行車を開発する企業Zoox も自動運転向け AI 半導体の開発を加速している。
3. AI 半導体の進化がもたらすブレイクスルーのタイミング
では、完全自動運転へのブレイクスルーはいつになるのか?今後の展開を予測する。
2030 年:自動運転レベル 4 の拡大へ
2025 年には、NVIDIA の次世代 AI チップ「Thor」が登場し、商用レベル 4 自動運転の立ち上げが本格化すると予測される。矢野経済研究所は、2030年にはレベル4の世界搭載台数は80万台、2035年は606万5,000台に増加すると予測している。
2035 年:レベル 5(完全自動運転)実現か?
そして、レベル 5 の実現には、さらなるデータ処理能力と電力効率の向上が必要となる。また、量子コンピューティングや 3D IC 技術の進展が鍵を握るため、遅くとも2035年にはレベル5の立ち上げが始まると弊社は予測する。(参考・引用:「自動運転システムの世界市場に関する調査を実施(2024年)」矢野経済研究所 )
もうそこまで来ている完全自動運転のブレイクスルーを生む日

AI 半導体の進化は、自動運転技術の発展と密接に結びついている。今後もNVIDIA、Tesla、Googleといった企業の動向を注視しながら、新たな技術ブレイクスルーがどこで生まれるのかを見極めることが重要だ。
これで見てきたように2030年にはレベル 4 の自動運転の本格化が始まり、2035年にはレベル 5 が現実のものとなる可能性がある。これを見越して、半導体メーカーはどの技術に注目すべきかを慎重に検討する必要がある。
もちろん、完全自動運転にAI 半導体が担う役割は重要なものであることは間違いない。完全自動運転のブレイクスルーを生む日は、すぐそこまで来ているのかもしれない。