ガスセンサーの校正:過去、現在、そして近未来

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背景

SEMIのMSIG(MEMS & Sensors Industry Group)に所属するデバイスワーキンググループでは、MEMSベースのガスセンサー用の市場導入障壁の軽減に積極的に取り組んでいます。2022年には、ガスセンサー製品のデータシートのガイドラインであるSEMI MS14-ガスセンサーの重要パラメータに関するガイド[1, 2]を開発し、その標準化と採用の促進ガスセンサーの製品データシートのガイドラインを定めることで、標準化と採用の改善を図っています。

本稿では、ガスセンサーとは何か、またその校正方法や制限について、ガスセンサーはどのように校正されるのか、ガスセンサーの限界は何か、そしてさらに、MEMSベースの次世代ガスセンサーが推進するイノベーションを取り上げます。用語は、さまざまなセンシングコミュニティで最も一般的で受け入れられているものを使用します。

ガス検知素子からガス検知システムへ

図1は、ガス検知に関連する主なコンポーネントを示したものです。最も基本的なコンポーネントであるガス検知素子は、ガス濃度の変化に反応します。これは追加のエレクトロニクスのないアナログ回路であり、通常は、抵抗、電流、光度、電圧といった1つの出力しかありません。ガスセンサーと呼ばれることもありますが、ガス検知素子という用語が、様々な分野で最も一般的に受け入れられているものとして推奨されます。

図1:ガスセンシング関連コンポーネント

ガス検知素子を、信号調整モジュール、A/Dコンバータ、あるいは最近ではオンボード・エッジデータプロセッサなどの付加電子回路につなげる場合があります。MEMS微細加工技術をつかうと、複数のガス検知素子と電子回路コンポーネントを集積回路モジュールとして製造することが可能です。こうした素子は米粒ほどの大きさです。

このような組み合わされた素子は、ガスセンサー、ガスセンサーシステム、ガスセンサーモジュールと呼ばれます。推奨される用語はガス検知モジュールです。

ガス検知モジュールを、電源管理、通信、マンマシンインタフェースなどの付加的な電子コンポーネントに接続する場合があります。また、ソフトウェアやファームウェアを追加し、筐体にパッケージすることで、完結したガス検知機器を作ることも可能です。このようなガス検知器は、スタンドアロン型、据え置き型、ハンドヘルド型、ウェアラブル型のシステムとして設計することも、より大きなシステムに組み込むこともできます。ガス検知器は一般的にガス検知器の他に、ガスモニター、ガスセンサーノードとも呼ばれますが、推奨される用語はガス検知器です。

ガスセンサーの校正

ガスセンサーの校正では、ガス検知素子、モジュール、または検知器に、アプリケーション固有の条件下でさまざまな濃度の標準ガスを導入します。次に、出力を標準ガスに対して調整し、出力と濃度が一致したときに、センサーは校正されます。

校正によって、不確かさ、非線形性、テストガスの種類と濃度の情報、また周囲の湿度や温度や対象外のガスによる干渉などのパラメータが得られます。CoGDEM Guide to Gas Detection [3] が、一般的な校正ルーチンと校正に影響を与える要因について説明しています。産業安全市場にサービスを提供する企業も、必要な機器と校正技術について説明し、ガイドラインとチュートリアルを提供しています[4-6]。

ガス検知器は、ガス濃度を正確に報告するために、想定された使用条件下で使用する必要があります。このような条件の例としては、屋内、都市地域の屋外、工業地域の屋外、呼気分析があります。精度とは、センサーの読み取り値が実際のガス濃度とどれだけ一致するかを指します。校正計画においては、これらの条件のすべての定量的影響を考慮する必要があります。図2は、さまざまなガス検知器の精度レベルを説明するもので、完全実施要因と一部実施要因の両方の校正計画を示しています[7]。2種類の計画により、校正のコストと複雑さを管理することができます。

図2:完全実施要因計画および一部実施要因計画の構成例と、ベンチマークとセンサー応答の相関プロット

校正パラメータはガス検知器に保存され、測定した応答をガス濃度に変換します。産業用安全ガスセンサーで従来から使われるアルゴリズムに加え、多変量機械学習アルゴリズムも登場しています。新しいアルゴリズムは、ガス検知素子からの応答に加えて、干渉ガス、温度、湿度、気圧などの補助センサーから入力される文脈情報を組み入れることができます。この補助データは、ガス検知モジュール本体、ガス検知器本体、またはクラウド経由で入手が可能です。校正には追加のステップが必要で、時間とコストもかかるため、量産型ガス検知器の総生産コストに大きく影響しますが、校正の時間とコストを削減する高度なアルゴリズムを使った新しいアプローチが登場しています[8, 9]。

すべてのガス検知器が個々のガス濃度を報告するわけではありません。ガス検知アプリケーションによっては、ガス濃度が特定の閾値に達したことのみを検知する場合もあり、住宅用一酸化炭素警報器はその一例です。オゾン、一酸化炭素、二酸化窒素、二酸化硫黄、粒子状物質(PM2.5/PM10)の5種類の汚染物質濃度を正確に測定して、複数の空気質指標値を提供するガス検知器もあります[10]。このような検知器は、通常は、都市地域の屋外で使用されます。

新分野への採用を阻む単一出力のガス検知素子の限界

現在利用可能なアンペアメトリック電気化学センサー、半導体酸化金属化学抵抗器、ペリスタ、熱伝導式センサーなどのガスセンサーの多くは、1930年代から1970年代にかけて開発されたガス検知原理を利用しています。これらの技術革新によって、カナリアを使って一酸化炭素を検知し、マイナーズランプを使って炭坑内のメタンを検知した時代から、大きな進歩がもたらされました。初期のセンサーは、高濃度ガスを測定する検知素子の強い信号に依存していました。その後、技術者たちは基本的な設計原理は変えずに、検知素子を小型化していき、今日でも同じ検知方法が、安全用途で特定のガスの比較的高濃度の検知をするために広く使われています。

ただし、単一出力のガス検知素子では、同様のセンサー信号を生じる様々なガスを数学的に区別することはできません。また、センサー信号に影響を与える対象ガス以外のソースを区別することもできません。さらに、測定ガス濃度が小さくなるにつれて、検知素子の応答ドリフトや空気中の他のガスの影響が顕著になり、検知精度が低下します。

このため、米国環境保護庁は最近、既存のガス検知器には、データを収集・解釈する前に理解すべき固有の限界があることを強調しています[11]。Nature Perspective誌はまた、周囲の干渉が単一出力のガスセンサーからのデータを「本質的に無意味なもの」にしかねないと指摘しています[12]。

次世代MEMSガスセンサー: 正確かつ安定したガスセンシング・ソリューション

ガスセンサーのメーカーは、化学的に複雑な環境において、ハードウェアのサイズや消費電力を増加させることなく、低濃度のターゲットガスに対して長期間にわたり正確な性能を維持できるソリューションを開発しています[13–15]。

これらのソリューションの元となっている、ガスクロマトグラフィー、質量分析、レーザー分光法などの従来の検出器は、一つまたは複数の独立応答係数を使って、すばらしいガス認識能力を実現しています。独立応答係数とは、検出器内で制御して変化させる係数を指し、例えばガスクロマトグラフィーにおける保持時間、質量分析における質量電荷比、レーザー分光法における波長などが挙げられます。

これらの従来型検出器は比較的大型で高価なものですが、化学的に複雑な環境における精密な多種ガス検出において大きな社会貢献をしており、これまでに3件のノーベル賞を受賞しています[16]。

SEMI の MSIG デバイスワーキンググループは、このような大型で高価な従来型ガス検出器の数学的原理を小型ガスセンサーでエミュレートする可能性を探っています[17, 18]。単一出力のガス検知素子の限界を超え、多様な動作シナリオにおいて正確なガス検知を維持することが、私たちが目指すところです。

現在、科学者や技術者たちは、周囲の干渉を抑制または排除し、安定性を高め、消費電力を削減する測定条件下で、1つまたは複数のガス検知素子を動作させる次世代の小型ガス検知器の設計に取り組んでいます。

ガス検知の精度と安定性を高めるために、金属酸化物ガス検知素子は、温度変調[19](例:Bosch、Renesas、3S Technologies)、誘電体励起[20](例:GE Vernova)、または光活性化[21](例:N5 Sensors)を用いたガス検知モジュールによって変調されます。

小型電気化学センサーはバイアス変調を利用し、複数の周波数によるインピーダンス強化読み出し[15]を組み込んでいます。一方、音響共振型の検知素子は、温度変調と複数の高調波に対するインピーダンス強化読み出しによって制御されます[22]。さらに、安定した複数素子・複数ピクセル・複数モードのガス検知素子は、異なる検知原理を組み合わせることで、同じ現象からより多くの情報を取得し、正確な応答を提供します。

図3に、SWaP-C(サイズ、重量、電力、コスト)を最小化しながら、性能面で従来の大型で高価な分析機器に匹敵する次世代ガスセンサーの概念を示します[23]。

図3:次世代ガスセンサーの概念

結論

次世代のガス検知器は、単一出力のガスセンシング素子の限界を克服し、高度なアルゴリズムとマルチモーダルセンシング技術を統合することで、多様で複雑な環境で高性能を提供することを約束します。これらのイノベーションは、環境モニタリングの安全性と品質を向上させるだけでなく、さまざまな業界に新たな用途を開くでしょう。ガスセンシング分野が進化し続ける中、これらの技術の可能性を最大限に引き出すには、学際的な協力と継続的な研究が重要になります。

Radislav A. Potyrailoは、GE Vernova Advanced Researchのシニアプリンシパルサイエンティストです。

Andreas Schützeはザールラント大学の教授です。

Sreeni Raoは、Interlink Electronicsの製品管理担当副社長兼環境センシング担当GMです。

Christian Meyerは、ルネサスエレクトロニクス株式会社のアプリケーションエンジニアリング担当シニアマネージャーです。

Paul Careyは、SEMIのMEMS & Sensors Industry Groupのディレクターです。

参照文献

1. SEMI MS14 – Guide for Critical Parameters of Gas Sensors. SEMI: 2022; https://store-us.semi.org/products/ms01400-semi-ms14-guide-for-critical-parameters-of-gas-sensors.

2. Rao, S.; Potyrailo, R.; Sakauchi, R.; Carey, P., SEMI MS14-0422 Standard: Critical Parameters of Gas Sensors For Emerging Applications. SEMI Advanced Sensors Seminar Series: 2023; p https://www.semi.org/sites/semi.org/files/2023-05/SEMI-Gas%20Std%20Webinar%20V14_230531.pdf.

3. Greenham, L., The CoGDEM Guide to Gas Detection. ILM Publications: 2012.

4. Gas Detector Calibration Procedures, Requirements and Tips,  Industrial Scientific 2025, https://www.indsci.com/en/blog/gas-detector-calibration.

5. Gas Detector Bump Test: Bump Testing and Calibration of your Gas Monitors,  PK Safety 2025, https://pksafety.com/blogs/pk-safety-blog/bump-testing-and-calibration-of-your-gas-monitors.

6. What Are Calibration and Bump Tests for Portable Gas Detectors: Key Differences and Ways to Help Streamline Compliance,  MSA 2024, https://blog.msasafety.com/what-are-calibration-and-bump-tests-for-portable-gas-detectors/.

7. Ryan, T. P., Modern Experimental Design. Wiley: Hoboken, NJ, 2007.

8. Fonollosa, J.; Fernandez, L.; Gutiérrez-Gálvez, A.; Huerta, R.; Marco, S. Calibration transfer and drift counteraction in chemical sensor arrays using direct standardization,  Sens. Actuators B 2016, 236, 1044-1053.

9. Robin, Y.; Amann, J.; Schneider, T.; Schütze, A.; Bur, C. Comparison of Transfer Learning and Established Calibration Transfer Methods for Metal Oxide Semiconductor Gas Sensors,  Atmosphere 2023, 14, (7), 1123.

10. Technical Assistance Document for the Reporting of Daily Air Quality – the Air Quality Index (AQI),  US Environmental Protection Agency 2014, EPA-454/B-24-002.

11. Barkjohn, K. K.; Clements, A.; Mocka, C.; Barrette, C.; Bittner, A.; Champion, W.; Gantt, B.; Good, E.; Holder, A.; Hillis, B. Air Quality Sensor Experts Convene: Current Quality Assurance Considerations for Credible Data,  ACS ES&T Air 2024, 1, (10), 1203–1214.

12. Austen, K. Pollution patrol,  Nature 2015, 517, 136-138.

13. Bur, C.; Bastuck, M.; Spetz, A. L.; Andersson, M.; Schütze, A. Selectivity enhancement of SiC-FET gas sensors by combining temperature and gate bias cycled operation using multivariate statistics, Sens. Actuators, B 2014, 193, 931-940.

14. Schütze, A., Keynote: High performance gas measurement systems – bridging the gap between sensors and analytics. IEEE International Symposium on Olfaction and Electronic Nose (ISOEN), Grapevine, TX, May 12-15: 2024.

15. Potyrailo, R. A. In Cross-Pollination of Electronics and Mathematics: Unlocking New Horizons in Ambient Gas Sensing, SEMI MEMS and Sensors Technical Congress (MSTC) 2025, Georgia Institute of Technology, Atlanta, GA, March 26-27, 2025.

16. The Nobel Foundation 2025, https://www.nobelprize.org/prizes/lists/all-nobel-prizes/.

17. Potyrailo, R. A.; St-Pierre, R.; Crowder, J.; Scherer, B.; Cheng, B.; Nayeri, M.; Shan, S.; Brewer, J.; Ruffalo, R. First-order individual gas sensors as next generation reliable analytical instruments, Appl. Spectrosc. 2023, 77, (8), 860–872.

18. Potyrailo, R. A.; Shan, S.; Cheng, B. Individual Optical Multi-Gas Sensors as Next Generation Second-Order Unobtrusive and Continuous Operation Analytical Instruments,  Microchim. Acta 2025, Special Issue in Memory of Otto S. Wolfbeis, DOI: https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-6234291/v1.

19. Schütze, A.; Sauerwald, T., Dynamic operation of semiconductor sensors. In Semiconductor Gas Sensors, Elsevier: 2020; pp 385-412.

20. Potyrailo, R. A.; Go, S.; Sexton, D.; Li, X.; Alkadi, N.; Kolmakov, A.; Amm, B.; St-Pierre, R.; Scherer, B.; Nayeri, M.; Wu, G.; Collazo-Davila, C.; Forman, D.; Calvert, C.; Mack, C.; Mcconnell, P. Extraordinary performance of semiconducting metal oxide gas sensors using dielectric excitation,  Nat. Electron. 2020, 3, 280–289.

21. Deb, S.; Mondal, A.; Reddy, Y. A. K. Review on development of metal-oxide and 2-D material based gas sensors under light-activation,  Current Opinion in Solid State and Materials Science 2024, 30, 101160.

22. Potyrailo, R. A., Tutorial:  Next generation of gas sensors: anticipated and unanticipated advantages over last-century sensor designs. IEEE SENSORS, Vienna, Austria, Oct 29 – Nov 01: 2023.

23. What is SWaP-C?,  NSTXL National Security Technology Accelerator 2022, EPA-454/B-24-002.

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