2025年8月12日、TSMCは6インチ(150㎜)ウエハ製造を今後2年間で段階的に廃止する計画と、8インチ(200㎜)への生産能力集約の方針を示した。これは市場環境に沿った長期戦略の一部で、業績目標は据え置き、顧客と調整し円滑な移行を図るとしている。
TSMCは台湾で6インチ工場1拠点・8インチ工場4拠点を運営し、先端ノードは12インチ(300㎜)で量産する体制だ。この方針は150mmで製造してきたアナログ/電源/車載向けの一部ポートフォリオを、200㎜または300㎜へ再配置するシグナルとして各社の移管計画を具体化させつつある。
本稿では、このTSMCの動きについて①どこへ移すか、②いつ・どう切り替えるか、③車載“再認証”の段取りという3点をベースに、年末〜年明けの実行計画として整理する。
「150㎜ウエハの幕引き」と「200㎜ウエハへ集約」を2026年明けに

TSMCは、150㎜ウエハへの新規投資を抑え、そして約2年の時間軸で段階廃止を進める方針を示している。この計画において、2026年初週の時点で重要なのは、最終発注(LTB)と最終出荷量をSKU(最小の在庫管理単位)で確定し、顧客・販社・外注先まで共有を済ませることだ。またTSMCは、顧客と一緒に“安定成長”したいという意向を強く持っている。
「200㎜、300㎜、外部委託」の三択を使い分ける

200㎜(8インチ)は、アナログ/電源/ミックスドシグナルで親和性と確実性が高い。2026年第一四半期に試作、そして上半期内の再承認から下期の本番切り替え、を見据えた設計が現実的だ。
300㎜(12インチ)へ早期に移行することは、将来の生産量や原価、歩留まり面で大きなメリットがある。しかし一方で、設計・テスト・パッケージの再定義範囲が広くなってしまうため、そのための時間がかかる。このため、短期の戦略ではなく、中長期の競争力設計として、200㎜の戦略とは別の目標として判断するほうが無難である。
外部委託(他ファウンドリ/IDM/OSAT)は、当座のキャパ確保と多ソース化に有効である。課題はレシピ移管・特性差の吸収・品質責任の分担・顧客側の再承認だ。このため、売上目標と実績見込みの差を埋めるための計画として暫定利用し、その後に自社の200㎜/300㎜へ戻るという二段設計が、2026年上期の供給リスク低減に効果的であろう。
150㎜から200㎜移管コストの可視化

150㎜から200㎜への移管プロジェクトは、D(設計)/P(工程)/Q(品質)の3つの面で管理すると仕事が進みやすくなるだろう。
• 設計 マスク再設計、レイアウト最適化、Pcell/SPICEモデルの差し替え、コーナー設定を再定義する。
• 工程 拡散・成膜・フォト・エッチ・金属配線の条件再最適化、プローブ/ファイナルテスト条件を更新する。
• 品質 信頼性再試験(温度サイクル、HAST、HTOL等)とEarly Life(初期市場監視)を強化。
この場合、かかるコストと時間は、「試作の回数」と「信頼性」によって左右される。評価項目・合否基準の事前合意と、設計手直し×信頼性プリチェックの並行でリードタイムを削るのが、2026年上期の切り替え成功率を決定するだろう。
“200㎜ウエハ集約”の受け皿——欧州がキャパ拡張へ

200㎜ウエハへの需要集中は、受け皿(キャパシティ)の混雑を招く。これに対応する施策として、欧州では2025年時点で次の二つが進行中だ。
• 独Infineon(インフィニオン):EUがドイツ政府の補助9億2,000万ユーロを承認。ドレスデンの工場を産業・車載の中核拠点として整備。
• 米国GlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ):11億ユーロの追加を発表。ドレスデン工場で、2028年末までに年100万枚超を目標とする計画を示した。
このように、200㎜/300㎜の成熟〜ミックスドシグナルで欧州の受け皿は厚みを増しつつある。一方、自動車向け半導体は2025年中盤以降に一部で伸び鈍化が報じられ、足元の需給は一服感がある。年明け〜上期は、ライン確保→評価ロット→再承認→本番切り替え、を前倒しで組みやすいタイミングとなる。
レガシー製品の棚卸しと再配置へ

TSMCの150㎜段階廃止は、レガシー製品の棚卸しと再配置を迫ることになる。また、200㎜集約と、必要に応じた300㎜へのシフトは中期の供給安定と原価見通しを改善することになる。これに対する施策として、欧州では拠点増強が進んでいる。これが、2026年上期の移管推進に追い風となるだろう。
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