TSMC、米国で4nm稼働開始 2nmは台湾に集中、二段構えの布陣へ

SEMICON.TODAY
この記事を読むのにかかる時間: 3

2025年、台湾の半導体戦略は「最先端ノードは台湾内で維持」「海外はN-1で展開」の2本柱が一段と明確になった。これと歩調を合わせ、TSMCは米アリゾナへの投資計画を総額1,650億ドルへ拡大し、ファブ3棟に加えて先端パッケージ拠点2カ所とR&Dセンターを含む体制を示した。

同年1月にはアリゾナでの4nm生産開始が報じられ、米国内での先端ロジック供給の実装が動き出した。

TSMCは「最先端技術の導入は台湾が先行する」との基本姿勢を改めて明言している。

本稿では、台湾の半導体について①「島内死守」とN-1展開の背景、②アリゾナのノード構成と先端実装の受け皿、③2nm以降の技術前提が示すボトルネック、の順に整理する。

「最先端工程は台湾で」——経営戦略と国内投資の継続

TSMCは、2025年1月、「米アリゾナ新工場が台湾国内より先に最先端技術を得ることはない」と発表した。理由は、規制手続や許認可、建設・人材・供給網の条件が台湾国内と大きく異なるためである。これは実質的に「N(最先端)は台湾」という同社の運用方針の再確認だ。

さらに2025年3月には、台湾・高雄での新ファブと雇用計画が報じられ、2nm世代の量産を含む国内キャパシティの強化が確認された。すなわち、初物の歩留まり確立とコア技術の保持は台湾、海外は段階導入という役割分担が事実ベースで見えてきた。

TSMCが米国向けに累計1,650億ドルの投資計画

TSMCは2025年3月、米国向けに追加1,000億ドルの投資を公表し、累計1,650億ドルの計画を示した。内訳は新規ファブ3棟、先端パッケージ2拠点、R&Dセンター。米国アリゾナでは4nmの生産開始が2025年1月に確認されており、米国の前工程はN4から立ち上げ、N3を経てN2は2028年の目標が示されている。

導入順序や立上げ時期は許認可・資機材・人材の条件で変動し得るため、「N-1から段階導入」という基本設計を前提に計画するのが現実的だ。先端パッケージについても米国内整備が進み、民間投資に対する政府支援が表面化している。前工程と実装を国内で接続できれば、AIサーバ向けのリードタイム短縮と物流リスク低減に直結する。

2nm以降はBSPDNの導入がポイントに

2nm以降は、GAA(Gate-All-Around)に加えて半導体チップの裏面から電源を供給する電源供給ネットワーク技術である「BSPDN(Backside Power Delivery Network:背面給電)」の導入がポイントになる。

TSMCのA16(1.6nm)は、ナノシートとBSPDNを統合し、ロジック密度と性能の改善を掲げる技術プラットフォームとなる。これに合わせ、成膜・エッチ・メタル系の装置構成、通電・冷却・クリーン度などファシリティ要件の再設計が必須になる。

一方で、HBM同封を含む2.5D/3Dの先端実装は、帯域効率(例:Gbps/W)と歩留まりを左右する最終工程であり、前工程の移管タイミングと表裏一体だ。米国内の高密度実装拠点の整備は、地産地消の最短動線を作る鍵となる。A16はTSMCの技術ロードマップ上の節目だが、米国内での量産時期は現時点で確定的ではない。まず台湾で初期量産・歩留まりを固め、海外へ段階的に移すというアプローチが妥当である。

N(台湾)で固めた工程をN-1(米国)へ横展開できるかが鍵

2025年の一連の動きは、最先端は台湾で立ち上げて守り、米国ではN-1から段階導入し先端実装まで国内で接続する、という二正面作戦の「実装段階」入りを示した。アリゾナの4nm生産開始(2025年1月)は米国内の先端ロジックの出発点であり、TSMCの1,650億ドル計画(2025年3月)は前工程×パッケージ×R&Dを束ねた長期の供給体制を方向付けた。

日本の装置・材料ベンダーにとっては、BSPDNを前提にした装置世代・レシピの提案力、二層供給と同等性検証の標準手順、三位一体ローテによる立上げTATの短縮が勝負所になる。N(台湾)で固めた工程をN-1(米国)へ滞りなく横展開できるか——この“運用の型”を握った企業が、案件獲得と継続受注を勝ち取ることができるのだ。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク

TOP
CLOSE
 
SEARCH