High NA EUV時代到来! 日米のフォトレジスト開発競争を征するのは?

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2025年、本格展開予定のASML製「High NA(高開口数)EUV露光装置」。この新技術は高性能チップの単一パターニング(多重露光なし)を実現し、半導体微細化における“コスト×精度”のブレークスルーとなる。これに伴い、従来のNA=0.33系では限界が見えつつあったフォトレジストが、NA=0.55の世界に適応すべく、世界中の材料ベンダーが競争を加速させている。

High NA EUV とは、開口数(Numerical Aperture)を0.55まで高めた次世代露光技術で、解像度を従来比で約1.7倍向上させるとされる。ASMLは2025年の量産装置出荷を目指しており、それに対応する新たなレジスト材料の開発が、半導体製造のボトルネックを握る重要課題となっている。
(参考:ASMLのHigh NA EUVロードマップ

本記事では、High NA対応に先行する“レジスト(光を感光する材料)”開発の最新動向を、日米の主要プレイヤーごとに軸に解説し、技術的優位性と今後の展望を考察する。

米:金属酸化物系レジストで先行するInpria

High NA EUV対応レジストの最前線に立つのが、JSRの子会社である米Inpriaだ。同社は、従来の有機系材料に代わる金属酸化物レジスト(MOR)の開発で知られ、高感度・高解像度・高エッチング耐性という三拍子を武器に、高開口数(NA=0.55)の露光環境における有力選択肢として存在感を示している。

2025年4月のSPIE学会では、Inpriaが手がけるMORが「業界目標レベルの感度と粗さ制御を実現した」と発表され、大きな注目を集めた。

Inpriaのレジストは、32nmピッチのコンタクトホールや18nmピッチのラインパターン形成において、ASMLのHigh NA EUV露光装置との組み合わせで高い成果を上げており、量産レベルでの採用に向けた加速が期待されている。韓国SK hynixとはすでに共同開発体制が組まれており、韓国勢からもMORの有効性は着実に評価されつつある。

MORは従来型の化学増幅型レジスト(CAR)と比べ、構造がシンプルで反応過程のばらつきが少ないため、LWR(Line Width Roughness)などの制御においても優位性を発揮する。今後の量産運用においては、感度と解像度の両立に加え、欠陥密度の低減やコスト最適化といった現場視点での課題解決が問われることになる。

日:CARとMORの「二刀流」戦略を推進

一方、日本企業としては東京応化工業(TOK)がこの分野では、これまでのEUV量産ラインで広く使われてきた化学増幅型レジスト(CAR)において強みを持っている。とりわけ酸拡散制御技術やパターン安定性の高さに定評があり、EUV露光向けの製品群は既に複数の大手ファウンドリで採用実績がある。High NA時代に向けても、既存技術の改良と並行して、新規材料系の研究も水面下で進んでいるとみられる。

JSRはInpriaの技術を取り込みながら、MORの量産対応に向けた整備を進めている。量産管理や品質保証といった“プロセス信頼性”において日系企業が持つ強みを背景に、MORの工業化フェーズを着実に支えていく構えだ。

また、欧州のAZと連携している日本のゼオンも、ポリマー設計や材料安定性の面で独自の工夫を凝らし、存在感を示している。特に、EUV露光における“エレクトロンブラー(電子散乱による輪郭の曖昧さ)”や“分子量揺らぎ”といった現象に対応するため、ポリペプチド系や単純構造ポリマーを用いた材料設計が注目されている。

勝負の火蓋が切られたHigh NA EUV対応フォトレジスト開発

ここで、High NA EUV対応フォトレジスト開発動向を、技術面からもう少し深掘ってみてみよう。

High NA EUVでは、従来に比べてさらに精緻なパターン転写が求められる。露光の微細化は、同時にレジストの感度(どれだけ少ない光で反応するか)、解像度(パターンの再現精度)、LWR(線幅の揺らぎ)といった三要素のトレードオフ関係を一層深刻にする。これに対し、JSRは酸拡散制御技術を軸に、13nmハーフピッチのパターン形成を35.5mJ/cm²の低doseで達成した実績がある。

加えて、金属元素を活用した感度強化剤(Sensitizer)の導入も進んでおり、感度向上とLWR維持の両立を狙うアプローチが盛んになっている。

2023年のSPIEで発表されたInpriaの「ESPERT™」技術は、こうした課題に対する先端的なソリューションであり、MORを核とした高性能レジストの実現に近づく重要なステップとされている。

このように、材料開発はもはや単なる素材の話ではなく、露光装置・トラック・メトロロジーを含めた統合的なプロセス設計に直結するフェーズに入っている。High NA EUVという未踏の技術に対して、誰が最適解を導くのか。今まさに、勝負の火蓋が切られたところだ。

High NAの幕開け、日本企業がとるべき戦略とは

ASMLはすでに2025年にはIntelに対し、5台目のHigh NA EUV装置が出荷した。このように材料開発は“開発”から“実装”の段階へと突入している。従来のEUVレジストでは性能限界が見えつつあり、MORを中心とした新材料の台頭は、業界にとっても技術的転換点となるだろう。

こうした状況下で、日本企業の立ち位置は極めて重要だ。JSRがMOR開発で先行するInpriaを抱え、東京応化がCARの量産実績を活かしつつ改良を重ねるなど、国内勢は“選択と集中”のもとで複線的な対応力を見せている。

さらに、東京エレクトロンなど装置メーカーとの連携により、日本のサプライチェーンは単独での素材開発だけでなく、装置・プロセス・素材の三位一体での強さを発揮しやすい構造にある。

重要なのは、High NAに向けた開発競争が単なる材料選定に留まらず、信頼性の高い量産体制構築や技術サービスの即応力といった“実装支援力”も含めて評価されるフェーズにあるという点だ。MORが台頭する中であっても、CARが依然一定の選択肢となる可能性もあるため、複数の技術軸を同時に磨く必要がある。

いま、材料メーカーに問われているのは「自社の技術がHigh NAにどう適応しうるか」という問いに対する解であり、競争はすでに始まっている。最先端の露光装置が工場に導入されるその瞬間、世界の材料開発競争の勝者が誰であったかが明らかになるのだ。その舞台に、日本勢がと名を連ねる未来を期待したい。

本記事は以下を参考に執筆しました。

出典一覧

(参考:ASMLのHigh‑NA EUVロードマップ(exposure-equipment.com)
(参考:Metal oxide resist formulation and process advancements towards high-NA EUV lithography(SPIE 2025年4月)
(参考:JSR、SK hynixとEUV用金属酸化物レジストの共同開発を加速(JSR公式プレスリリース 2022年8月)
(参考:JSR、Inpriaの完全子会社化を完了(JSR公式プレスリリース 2021年9月)
(参考:Advanced Resist Patterning Processes for High‑NA EUV(ESPERT™技術/EUV Litho Inc. 2023年SPIE発表)
(参考:Chemically Amplified Resist Design with Controlled Acid Diffusion for EUV Lithography
(参考:EUV向けフォトレジスト製品紹介(東京応化工業公式サイト)

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