ソフトを征する者が半導体を制す!?  AIチップ・SDV時代のリスキリング戦略とは

人材育成と多様性の推進
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SoC(System on Chip)の高度化、ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)の登場、そして生成AIの爆発的進展など、2025年現在の半導体産業は新たな競争軸へと移行している。人材確保において、従来はアナログやデジタル回路、信号処理といったハード寄りのスキルが重視されてきたが、今や市場価値の高い人材像は変わりつつあると言える。「ソフトウェアを理解しつつ、さらにハードをも理解できる技術者」が引く手あまたの存在となっているのだ。

半導体開発において、ファームウェアやRTOS(リアルタイムOS)、PythonやC/C++によるハードウェア制御のスキルは、設計から検証、アプリケーション連携に至るまで不可欠な要素となった。本稿では、これからの半導体技術者がハードウェアのスキルに加え、ソフトウェアのスキルをも身に付けて、成長していくためのリスキリング戦略を考察する。

ハードとソフト領域横断スキルが未来の競争力に

1. 車載向けRTOS分野でのQNXとAUTOSAR Adaptiveの急拡大

自動車のSDV化に伴い、リアルタイムにタスクを処理するためのオペレーティングシステムRTOS(Real-Time Operating System)の知識が求められる現場が急速に増加している。特にカナダBlackBerryの「QNX」は、2024年時点で世界中の2億5500万台以上の車両に搭載されており、ADASや自動運転系のSoC制御において標準とも言える存在となっている。

さらに、欧州の車載ソフトウェア標準規格「AUTOSAR Adaptive Platform」の採用も広がっており、マルチOS環境での安全なアプリ実行やOTAアップデートの設計において、C++やPOSIX互換RTOSに対するスキルが強く求められている。

2. GPUプログラミングをリードする生成AI時代のNVIDIAエコシステム

AIチップ開発に関わるなら、NVIDIAのGPUの並列処理能力を最大限に活かすための開発環境「CUDA(Compute Unified Device Architecture)」を避けて通ることはできない。2024年に発表されたNVIDIAの生成AI向け最新GPUアーキテクチャ「Blackwell」は、FP8対応や次世代インターコネクトによる処理能力の向上、セキュリティ機能の強化など、生成AI時代に求められる機能を網羅している。

このように、ハード設計者であっても、TensorRTやcuDNNといったNVIDIAライブラリ、PythonベースのPyCUDA、さらにはHugging Faceのようなエコシステムとの連携を理解しておくことが、AIモデルとハードウェア設計の橋渡しに不可欠となってきている。

3. ハード制御や検証工程にも広く用いられるPython

高水準の汎用プログラミング言語PythonはAIやデータ分析用途にとどまらず、ハードウェアの制御や検証工程にも広く用いられるようになってきている。Raspberry PiやJetson Nanoといった実機評価環境では、pySerialによるシリアル制御や、RPi.GPIOによる入出力制御、pytestを用いた自動検証など、実用的なスクリプト開発が評価効率を左右する。 また、オープンソースのシミュレーション環境(例:QEMUやRenode)との連携や、CI/CDツールとの統合を視野に入れることが、開発サイクル全体を加速させる。

大切なのはソフトとハードの橋渡し

このように、設計・検証・運用のあらゆるフェーズで、ハードウェアとソフトウェアの橋渡しが求められている。RTOSとSoC、AIモデルとGPU、Pythonと実機評価──これらをつなぐ役割を担える人材は、企業にとってかけがえのない存在となるのだ。

ソフトウェアスキルを自らの武器としつつ、ハードウェアをも理解している技術者こそが、次世代の半導体産業をリードしていくのである。自身のキャリアを向上し、さらなるステップアップを考えている技術者は、この事実を踏まえたリスキングを行っていく必要がある。

                 TMH編集部 坂土直隆

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