中国のSiC戦略は客観か? 世界市場における権争い

政策動向
この記事を読むのにかかる時間: 3

パワー半導体覇権争いの最前線

パワー半導体市場の中で、SiC(シリコンカーバイド)は次世代の覇権を握る鍵となる。高耐圧・低損失という特性を活かし、EV(電気自動車)、再生可能エネルギー、インフラ向け用途で急成長している。現在、この市場で最も積極的な投資を進めるのが中国だ。国家戦略の一環として、政府の補助を受けながらSiCの開発・製造体制を強化している。しかし、これは世界市場全体にとって脅威なのか、あるいは過剰投資によるリスクを孕んでいるのか?本稿では、中国のSiC戦略の現状と、それが世界市場に与える影響について考察する。

中国のSiC戦略、その実態とリスク

1. 中国が仕掛ける「国家主導」のSiC市場制覇

中国は「中国製造2025」政策の下で、半導体産業の国産化を推進している。特にパワー半導体分野では、SiCを戦略的技術と位置付け、国家補助金や地方政府の支援を背景にした急速な拡大が進んでいる。

例えば、**三安光電(San’an Optoelectronics)瀋陽中科芯源(Synlight)**などの企業は、政府資金を活用しSiCウエハ製造を加速。中国国家発展改革委員会(NDRC)のデータによると、2024年時点で中国のSiC生産能力は前年比40%増加しており、今後も拡大が見込まれる(出典:NDRC公式データ

加えて、2023年には**国家集成電路産業投資基金(通称「ビッグファンド」)が新たに450億人民元(約9000億円)**の資金を投入し、SiC産業クラスターの構築を進めている(出典:China Daily

2. 世界のSiC市場に与える影響:価格破壊か、競争力向上か

中国が急速にSiC生産能力を増強することで、世界市場の構造も変化している。

  • 価格競争の激化:2023年から2024年にかけて、中国メーカーがSiCデバイスを市場投入し、価格が20〜30%低下したとする報告もある(出典:TrendForce)をこれは既存の欧米・日本企業にとって脅威となる一方、SiC製品の普及を加速させる要因ともなりうる。
  • 技術力の格差:中国メーカーはコスト競争力では優位に立つが、欧米や日本のWolfspeed(旧Cree)、STマイクロ、ローム、Infineonなどに比べると、結晶品質やデバイス信頼性で劣ると指摘されている(出典:Yole Développement)この差をどこまで縮められるかが今後のカギとなる。

3. 供給過剰のリスク:中国のSiC投資は持続可能か?

中国政府の補助を受けた急成長が続くが、過剰投資のリスクも指摘されている。

  • SiC市場の成長予測と供給過多
    Yole Développementの予測では、2027年までにSiC市場は年率30%以上の成長が見込まれる。しかし、中国が供給能力を過剰に増やした場合、供給過多による価格崩壊が発生する可能性もある(出典:Yole Développement
  • 補助金頼みの産業構造
    現在の中国SiC企業の多くは政府補助に依存しており、市場原理に基づいた競争力がどこまで持続するかが不透明だ。過去のDRAM市場のように、一部企業が撤退を余儀なくされる可能性もある。

日本・欧米企業の戦略と未来予測

では、日本や欧米の半導体メーカーはこの状況にどう対応すべきか?

  • 高品質SiCの優位性を確立
    日本のローム(ROHM)や三菱電機は、高品質なSiCウエハとデバイス技術で競争力を維持している。特に、200mm SiCウエハの開発が進んでおり、中国メーカーとの差別化を図るポイントとなる【出典:ローム公式サイト】。
  • 欧米勢の戦略提携と技術革新
    WolfspeedやSTマイクロはフォードやテスラとのパートナーシップを強化し、高性能SiCデバイスの開発を加速。特にWolfspeedはニューヨーク州に世界最大のSiC工場を建設し、供給力を高めている【出典:Wolfspeed】。

結論:中国のSiC戦略は覇権確立に至るのか?

中国のSiC産業は急成長しているものの、技術力や市場の持続性に課題を抱えている。短期的には価格競争を引き起こし、SiCの普及を加速させる可能性があるが、長期的には技術力や信頼性が鍵となる。日本や欧米企業は、高品質SiCの確立、技術革新、戦略的パートナーシップの強化により、中国の猛追をかわす道があるだろう。今後のSiC市場は、中国の成長が続くのか、それとも競争力の差が明確になり淘汰が始まるのか、まさに分岐点に立っている。あなたの企業は、この変化にどう対応するべきだろうか?

TOP
CLOSE
SEARCH