スマート家電、EV の V2H(Vehicle to Home)、太陽光パネル、家庭用蓄電池。これらが連携し、家全体のエネルギーを自律的に制御する HEMS(Home Energy Management System)の普及が進んでいる。このような中、真に省エネを支えているのは、人目に触れない場所で働くパワー半導体と制御 IC なのである。
本稿では、家電や住宅設備に組み込まれたパワーデバイスが、どのように「見えない節電」を実現しているのかを明らかにしつつ、技術者や設計者が社会価値をどう創出しているのかを改めて見つめ直す。
HEMS とパワー半導体の「見えざる連携」
- 冷暖房・給湯・家電──家庭エネルギーの 6 割を握る設備
経済産業省「エネルギー白書 2024」によると、家庭部門におけるエネルギー消費のうち、冷暖房、給湯、家電が約 60%を占める(出典:資源エネルギー庁「エネルギー白書 2024 第 2 部 エネルギー動向」https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/2_1.pdf)。
これらの装置には、高効率なインバータ制御が不可欠であり、その中核を担うのがパワーMOSFET や IGBT といったパワーデバイスである。これらパワーデバイスがスイッチング損失を低減し、モーター駆動効率や発熱を抑えることで、装置全体の消費電力を数%単位で削減することができる。 - GaN と MCU が寄与する冷暖房機器や家電のさらなる省エネ化
ST マイクロエレクトロニクスは、GaN パワーデバイスと 32 ビット MCU を組み合わせた高効率モーター制御システムを開発している。具体的には、「STM32 シリーズ」のマイコンと GaN FET を用いた制御基板「EPC9147C」があり、センサレスフィールド制御やベクトル PWM による高度な電力制御が可能となっている(出典:EPC (Efficient Power Conversion)「EPC9147C – 3 Phase BLDCMotor Drive Using EPC GaN FETs」https://epc-co.com/epc/products/evaluation-boards/epc9147c)このような構成は、家庭用エネルギー機器におけるモジュール化と小型化、そして効率向上の観点から重要であり、冷暖房機器や家電のさらなる省エネ化に寄与している。

- 家庭と EV のエネルギーの“やりとり”がよりスマートに制御
EV と家庭を双方向でつなぐ V2H の普及は、住宅がエネルギー供給の拠点になることを意味する。ルネサス エレクトロニクスでは、リアルタイム制御や AI 処理機能を強化した MPU「RZ/V2H」などを展開しており、将来的な住宅・車両間の制御システムにおいて、パワーデバイスと連携する電力マネジメントの最適化を視野に入れ
ている(出典: Renesas Electronics「RZ/V2H MPU Improves AIPerformance and Real-time Control」https://www.renesas.com/en/blogs/rzv2h-mpu-improves-ai-performance-and-real-time-control-robotics-and-autonomous-applications)。
特に高電圧・高効率が求められる EV インバータや充電器では、SiC や GaN といった次世代パワー半導体の搭載が進みつつあり、家庭と EV のエネルギーの“やりとり”がよりスマートに制御されようとしている。
「見えないテクノロジー」が支える省エネ

住宅エネルギーの効率化が国家レベルの課題となる今、自社の技術が暮らしの安心や地球環境の保全にどう関わっているのかを、改めて現場の技術者・開発者こそが自覚するべき時期に来ていると言える。
TMH 編集部 坂土直隆