今、半導体業界では 20 年以上にわたりキャリアを積んできた 40 代の技術者たちに、「次なる一手」が求められている。彼らは設計、プロセス、評価、品質保証などの専門領域で豊富な経験を持つ一方、「専門は深いが、選択肢が狭い」といった状態に陥りやすい状態になっている。それは業界に、AI 時代の急速な技術進化、ジョブ型雇用の拡大、若手登用の加速といった大きな環境変化が訪れているからである。
だが今こそ、「再成長」への分岐点であるとも言える。ここでは、半導体技術者としての強みを活かしながらも、新たな価値を生み出すための現実的かつ実践的なキャリア再設計の道を考察する。

次の 10 年を変える 4 つの成長ルート
1.専門分野をさらに深堀りせよ
40 代の技術者にとって、すでに培ってきた専門性をさらに深堀することは非常に有効である。特に注目すべきは、「半導体 × AI」や「車載 SoC × 組込み OS」など、技術と技術の組み合わせ領域である。
たとえば、AI アクセラレータの設計支援を行う Synopsys は、EDA ツールと AI モデルの連携人材を積極採用しており、高度な回路設計経験を持つ技術者の再登用が進んでいる。
また、後工程のパッケージング技術においても、CoWoS や Fan-out などの 3D 実装技術に特化した「実装設計のプロ」は年々需要が高まっており、これまでの実務を継続しつつ専門性をさらに深堀する価値は大きいと言える。
2.現場経験 × 経営視点で管理職への転向を狙え
40 代からのキャリア再設計でよく挙がる選択肢が、管理職への転向だ。製造現場や開発現場での意思決定スピードが問われる中、技術バックグラウンドを持つマネジメント人材は引く手あまたである。
特に、半導体製造業では DX(デジタルトランスフォーメーション)や海外顧客対応が常態化しており、「技術が分かるマネージャー」が経営層からも強く求められている。
また、マネジメント職といっても「人事評価型」だけではなく、「技術プロジェクト責任者」や「プロダクト統括」といった横断的なポジションも多く、自身の得意領域を活かしながら、組織全体への貢献を果たすルートが存在する。
3.大学院・研修機関で学びなおしのススメ
新しい技術領域に進むためには、知識の再取得も効果的である。特に産業技術総合研究所(AIST)や東京大学エクステンションなどが提供する社会人大学院・リカレント教育プログラムは、40 代以上の技術者にも門戸を開いている。
たとえば、東京大学エクステンション株式会社では、データサイエンスや AI、経営戦略といった領域の専門講座が用意されており、実務と並行して受講することで新たな価値創出の基盤となる。
また、MBA と工学修士を統合したような「MOT(技術経営)」系のコースも、経営視点を加味した技術者育成に強みがある。

4.国家資格や民間認定を取得せよ
業界内の専門性を外部証明し、見える化するという意味では、資格取得も有効だ。たとえば、品質管理(QC)分野では「品質管理検定(QC 検定)」、電子設計分野では「電気通信主任技術者」などが該当する。
加えて、TSMC や Intel が工程改善指標として活用する「SixSigma」や「Lean Manufacturing」などの知識を習得することで、国内外の製造拠点での領域横断したキャリアも狙える。
企業によっては、資格取得支援や受講料補助制度を設けている場合も多く、社内制度を活用した戦略的スキルアップが可能だ。

キャリア再設計は「撤退戦」ではなく「次への布石」
40 代からのキャリア見直しは、「撤退戦」ではなく「次への布石」なのだ。むしろ、経験の深さと業界構造の変化が交差する今だからこそ、自身の強みを次世代仕様に再構築できる最良のタイミングではないだろうか。
社内異動、研修制度、資格取得、大学院進学——。すべては「実務に直結する次の価値」を得るための布石にすぎない。新しい役割に挑戦することで、自らの技術キャリアは 「第二成長期」を迎える可能性を秘めているのである。
TMH 編集部 坂土直隆