「変わらないこと」が最大の強み!──旧世代ノードと半導体サプライチェーンの持続力とは

半導体市場の主要な動向
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2025 年現在、私たちの家庭には 10 年以上動き続ける家電製品が数多く存在する。電子レンジ、冷蔵庫、炊飯器、洗濯機──その「壊れなさ」は、ある種の“古さ”が支えているのだ。
それが「0.18μm」「0.35μm」といった旧世代ノード(レガシーノード)で製造された半導体である。最新のスマートフォンや AI サーバーを支える 2nm とは異なり、レガシーノードは「変わらないこと」が最大の強みなのだ。
しかし、これらの製品を量産し続ける現場では、装置の延命、材料の確保、検査装置の互換維持など、「影の努力」が日々積み重ねられている。本稿では、その知られざるレガシー半導体の現場を掘り下げる。

旧ノードが残り続ける 4 つの理由とは

  1. 設計変更は信頼性や安全認証に関わるため避けられがち
    家電製品では、電源管理 IC、センサ、LED ドライバ、アナログ制御 IC といった構成部品に旧ノード製品が多く使われている。設計変更は信頼性や安全認証に関わるため避けられがちで、「同じものを作り続ける」こと自体が価値になるからだ。
    国内ではルネサス エレクトロニクス、ローム、東芝デバイスなどが、0.18μm〜0.35μm のプロセスラインを継続運用しており、これらは車載や産業用途にも広く使われている。
    海外ファウンドリでは UMC(聯華電子)や Tower Semiconductorが代表的な存在だが、UMC の 2025 年 Q1 決算では全体稼働率が69%まで落ち込んでおり、需要の偏在化や在庫調整の影響が表面化している。
  2. 現場エンジニアによる延命・再生・改造対応
    旧ノード世代の露光装置、エッチャー、アッシャーは、すでにメーカーの正式サポートを終了したものも多く存在する。にもかかわらず今も動いているのは、現場エンジニアによる延命・再生・改造対応があるからである。
    たとえば、KOKUSAI ELECTRIC(旧・日立国際電気)は、装置のリファービッシュ対応、代替部品や中古部品の提供、さらにはユニットリノベーションによる延命サービスを公式に展開し、装置の安定稼働を支えている。
  3. OSAT 企業や検査装置メーカーは旧規格の継続対応を
    旧ノードの IC はテスト仕様やパッケージング条件も古いままで設計されており、現行の検査装置では対応できないこともある。そのため、多くの OSAT 企業や検査装置メーカーは旧規格の継続対応を行っている。
    アドバンテストは旧機種向けにパーツ供給やソフト互換性を維持し、テラダインも同様のサポート体制を整備。Amkor、ASE といった OSAT も顧客ごとの旧製品に応じた専用工程を確保している。
  1. 採算確保と顧客維持のジレンマが続く材料・装置サプライヤー
    旧世代ノードに対応する材料、たとえばレジスト、CMP スラリー、封止樹脂などは、少量多品種での供給が求められる領域だ。製造ラインや工程の最適化が難しい一方で、長期供給・高信頼性が前提とされるため、日本の材料メーカーにとっては市場規模ではなく継続性と信頼性が問われる戦略的分野となっている。
    しかし、2024 年には、EE Times Japan が「成熟ノード製品の収益性が、過剰供給と低稼働率によって打撃を受けた」と報道。これは材料・装置サプライヤーにとっても、採算確保と顧客維持のジレンマが続いていることを示している。
    それでも、多くの日本企業は、設計変更が難しい医療・車載・産業用途のために、長期供給と品質安定性を重視した材料を提供し続けている、目立たないが確実に性能向上させている「縁の下の力持ち的技術」こそ、旧世代ノードの供給を支えているのである。

「壊れない技術」を支えるサプライチェーン全体に再び光を当てる時期に

私たちが何気なく使い続けている「壊れない家電」。その長年変わらぬ動作の裏には、これまで見てきたようなレガシー半導体と、それを作り続ける多くの人々の努力があるのだ。
装置の修理に知恵を絞り、材料の供給を続け、検査環境を維持する。それは最新ノードとは異なるもう一つの「最前線」であり、「変わらないこと」を保証するための専門知と執念の結晶でもある。
サステナビリティが叫ばれる今こそ、「壊れない技術」を支えるサプライチェーン全体の持続力にこそ、再び光を当てるべきではないだろうか。

TMH 編集部 坂土直隆

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