「目に見えない障害」が工場を止める!――真空ポンプ・排ガス処理・チラーに集まるサブファブ投資

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半導体工場の競争力を語るとき、注目は露光、成膜、エッチング、CMPといった主装置に集まりやすい。だが、量産現場の稼ぐ力を左右する起点は、必ずしも表側の装置だけではない。真空が安定しない、排ガス処理能力が追いつかない、冷却系が揺らぐ。そうしたサブファブの不調は、装置停止、条件ずれ、歩留まり悪化、保全負荷の増加となって表れ、最後は工場全体の稼働率と収益性に跳ね返る。いま起きているのは、裏方設備の再評価ではない。量産を止めないための基盤投資の前倒しなのである。

本稿では、この量産を止めないための基盤投資の前倒しについてその現状を考察する。

AI投資の拡大で、先に問われるのはサブファブの受け皿

SEMIによると、2025年第3四半期の世界半導体製造装置ビリングは336.6億ドルと前年同期比11%増となった。年初来ではほぼ1,000億ドルに達し、AI需要を背景に、先端ロジック、DRAM、さらにエネルギー効率を意識したパッケージング用途向け投資が強い伸びを示した。主装置への投資が積み上がる局面では、その能力を受け止める真空、除害、冷却、排気の側にも、より大きな処理能力と安定性が要求される。設備投資の主役は表側に見えても、量産現場で先に制約になりやすいのは、その裏側を支える受け皿である。

この構図を裏づけるように、荏原製作所は2025年12月11日の「SEMICON Japan 2025」出展案内で、CMPやPLP向けめっき装置と並べて、ドライ真空ポンプ、排ガス処理装置、チラーを主展示項目に挙げた。主装置メーカーが、周辺設備を脇役としてではなく、同じブースの中核展示に置いた事実は示唆的だ。工場競争力が、個別工程の性能だけでなく、サブファブの安定性と環境対応を含めて評価される段階に入ったことを物語っている。

真空ポンプは単なる「排気装置」から安定稼働装置へ

その変化を端的に示したのが、荏原製作所の2025年12月17日の新製品発表である。同社はドライ真空ポンプ「EV-H型」とプラズマ式排ガス処理装置「ELF型」を2026年から量産開始すると公表した。EV-H型について荏原は、半導体の3次元化や微細化に伴い、ALDやCVDなどの成膜装置に付帯する真空ポンプには、大流量ガス処理と安定稼働を両立する能力が求められていると説明している。さらに、副生成物に対する耐久性向上、故障予知、ユーティリティ使用量の可視化といった機能も打ち出した。

ここで重要なのは、真空ポンプの価値が単なる排気性能だけで測れなくなった点にある。先端工程では、真空の安定性がそのまま成膜条件の再現性や保全計画の精度に結び付く。副生成物への耐久性は停止頻度や清掃負荷に影響し、故障予知や使用量の可視化は、保全とエネルギー管理の質を左右する。真空ポンプは、補機ではなく、量産条件を守るための稼働率装置へ比重を移しつつある。

排ガス処理はESG対応と生産継続の同時実現が必須に

排ガス処理装置の意味合いも変わっている。荏原製作所のELF型は、高性能プラズマリアクターを用い、化石燃料を使わずに電力のみでPFCやNF3などの温室効果ガスを高効率で分解し、NOx排出の抑制も図る構成を採る。従来主流だった燃焼分解方式に替わる技術として位置付けられており、環境負荷低減を前面に押し出した内容だ。

ただし、環境、社会、ガバナンス/企業統治に配慮したESG装置としてだけ見ると本質を見落とすことになる。排ガス処理能力が不足すれば、工場は安全面と操業面の両方で制約を受ける。逆に、環境性能と保守性を両立できれば、工場は説明責任を果たしながら稼働率も守りやすくなる。つまり除害装置は、環境対応装置であると同時に、生産継続装置でもある。サブファブ投資の重みが増しているのは、この二重の役割が鮮明になったからだ。

チラー投資冷却システムは工場インフラ戦略へ

冷却設備でも同じ変化が起きている。STMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)は2025年5月29日、シンガポール・Toa Payoh拠点で新しいチラー(冷却水循環装置)冷却システムを導入すると発表した。同拠点はパッケージングR&Dとウエハテストの重要拠点であり、新システムは低温・中温の二系統を直接供給する設計を採る。年間で最大5GWhの省エネと、約2,140トンの炭素排出削減を見込むほか、シンガポール最大手の電力・ガス送配電・管理事業者SP Group(シンガポール・パワー)が設計・建設・運営・保守を担う20年契約の冷却用冷水(チルドウォーター)そのものをサービスとして提供するビジネスモデルである「chilled-water-as-a-service」として導入される。

この発表が示すのは、チラーが単なるユーティリティ更新ではなく、工場インフラそのものの競争力を左右する投資対象になっているという事実である。STマイクロエレクトロニクスは、冷却がサイト全体のエネルギー消費の大きな割合を占めると明記し、新システムを通じて効率改善と運用レジリエンスを両立させる考えを示した。冷却設備の価値は、もはや「温度を合わせる」ことだけにない。エネルギー、規制対応、操業安定を一体で支える基盤として、経営の議題に上がる領域へ移っている。

サブファブは部材・サービス・現地供給まで含む投資テーマに

この領域がすでに戦略投資の対象になっていることは、サプライヤ再編にも表れている。スウェーデンの産業機械メーカーAtlas Copco Group(アトラスコプコグループ)は2025年7月9日、中国の除害装置企業New Star Technologyを買収すると発表した。同社はNew Star Technologyについて、吸収材や触媒技術を用いたガス除害装置を手掛け、主顧客が半導体分野にあることが買収の決め手となったと説明している。さらに買収の狙いとして、除害装置分野での現地プレゼンスと現地製品供給力の強化に加え、吸収材を中国で自社生産する能力の向上も挙げた。

ここから見えるのは、サブファブが単なる機器販売で完結しないという現実だ。交換部材、保守、現地供給、地域別の生産体制まで押さえなければ、顧客工場の継続稼働を支えにくい。真空や除害は「周辺設備」ではあっても、事業としては継続収益性と地域戦略を伴う中核領域へ変わりつつある。アトラスコプコが、半導体向け除害と吸収材のローカル供給まで視野に入れたのは、その変化を端的に示す動きだった。

工場の稼ぐ力を左右する中核装置になりつつあるチラー

半導体工場を止める原因は、必ずしも主装置の故障だけではない。真空の不安定化、副生成物の堆積、除害能力の不足、冷却系の非効率や老朽化、そうした「目に見えない障害」が、スループット、歩留まり、保全費、環境負荷を通じて工場競争力を削っていく。2025年に確認された装置投資の拡大、荏原の真空・除害・チラーの前面展示、新型真空ポンプと排ガス処理装置の投入、STの長期契約を伴う冷却インフラ更新、アトラスコプコの除害企業買収を並べると、流れは明確だ。サブファブはいま、補機の更新対象ではなく、量産を止めないための基盤投資として見直されている。真空ポンプ、排ガス処理、チラーは、目立たないが、工場の稼ぐ力を左右する中核装置になりつつあるのである。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。

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