PFASフリーは規制対応で終わらない──“グリーン材料”競争は歩留まりで決まる!

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半導体材料におけるPFAS(人工有機フッ素化合物)対応は、もはやEHS部門だけの問題ではない。レジストや薬液でPFASが担ってきた役割は、微細パターン形成の反応効率、水残りに起因する欠陥の抑制、工程安定性といった量産の基盤となっている。とりわけArF液浸露光では、レジスト表面の撥水性と微細パターン形成の両立が重要であり、代替材料への置き換えは、そのまま歩留まりとスループットの問題につながる。

この構図を一気に現実味のあるものにしたのが、富士フイルムが2025年7月15日に公表したPFASフリーのネガ型ArF液浸レジストだ。富士フイルムとimecは、この材料について28nm世代の金属配線形成で高い歩留まりと高スループットを確認したとしており、顧客評価も進んでいる。ここで見えてくるのは、「PFASを減らせるか」という問題だけではない。「PFASを減らしても量産が成立するか」が、採用判断の中心に入り始めているのである。

本稿では、このPFASフリー問題について、「高い歩留まり確保」という面から考察する。

材料メーカーにとって「いずれ考える課題」ではなくなっているPFAS代替

PFASを巡っては、欧州化学品庁(ECHA)が2025年8月にEUにおける化学物質の包括的な規則であるEU REACH下のPFAS制限案の更新版を公表し、同年8月27日には提案の科学的評価を2026年末までに完了する見通しを示した。もはや材料メーカーにとってPFAS対応は「いずれ考える課題」ではなくなっている。

ただし、ファブの採用判断は規制順守だけではしにくい。富士フイルムの説明によれば、ArF液浸レジストにおけるPFASの役割は、微細な回路パターン形成に必要な酸反応の効率化と、液浸時の水残りによる欠陥を抑えるための表面撥水性の確保にまたがっていた。代替材料は、単にフッ素を抜けばよいわけではなく、欠陥抑制、均一な微細パターン形成、工程スピードまで同時に満たす必要がある。PFASフリー化が難しいのは、環境対応とプロセス性能が同じ場所で問われるためだ。

高い歩留まりと高い量産性まで提示した富士フイルム

今回の富士フイルムの発表で重要なのは、研究成果の提示にとどまらず、28nm世代の金属配線という量産に近い評価軸で高歩留まりと高スループットを打ち出した点にある。28nmは最先端ノードそのものではないが、車載や産業用途では依然として厚い需要があり、品質、安定供給、コストのバランスが厳しく問われる領域でもある。そこにPFASフリー材料を持ち込み、顧客評価の段階まで進めた意味は小さくない。

ここから読み取れるのは、グリーン材料競争の主戦場が、先端ノードだけでなく、採算と品質の両立が求められる量産帯にも広がっていることだ。環境性能を求めても、欠陥率が上がる、処方マージンが狭まる、スループットが落ちるとなれば、採用にはつながりにくい。逆にいえば、高い歩留まりと高い量産性まで実現できる企業ほど、規制対応を競争条件へ組み込みやすくなる。

レジスト単品の課題にとどまらずファブ全体の技術テーマへ

この流れは富士フイルム1社だけではない。セントラル硝子は2025年2月21日、ArF液浸レジスト材料である光酸発生剤と撥水ポリマーについてPFASフリー化に成功したと公表した。そのうえで、これらの技術を活用したPFASフリーArF液浸レジストの開発・製品化を目指し、imecとの共同開発契約や、imecのSustainable Semiconductor Technologies and Systems(SSTS)プログラムへの加盟を進めている。

さらに欧州では、フランスの研究所CEA-Letiがコーディネートする、AIを活用して科学技術分野の研究開発を加速させるためのプロジェクト「GENESISプロジェクト」が2025年6月に始動した。3年間の計画で58のパートナーが参加し、PFAS代替材料、低GWP代替、排出監視、廃棄物削減、原材料再利用などを含む持続可能化を一体で進める構想を掲げている。PFAS対応はレジスト単品の課題にとどまらず、ガス、廃棄物、アベートメント、資源循環まで含めたファブ全体の技術テーマへ広がりつつあるのである。

日系企業に問われるのは “採用可能性”の証明

カーボンニュートラルの分野では、これまで再生可能エネルギー調達や電力契約が注目されやすかった。だが、富士フイルム、セントラル硝子、GENESISの動きを並べると、半導体の環境対応は材料とプロセスそのものへ重心を移しつつあることがわかる。どの材料を使うかは、排出、廃棄、リサイクル、歩留まり、さらには供給継続性にも波及する。材料代替はCSR資料の項目ではなく、量産技術と事業継続に関わる競争条件として扱われ始めている。

この動きの中で日系材料メーカーに求められるのは、「PFASフリーです」そのものではない。既存工程に組み込んでも歩留まりが崩れにくいこと、高スループットを維持できること、顧客評価に耐えうることを、どこまで具体的に示せるかが重要になる。EHS・法規制対応担当にとっても、今後は適用除外や制度動向の把握だけでなく、材料開発、リソグラフィ、品質保証と並走しながら、規制対応を量産条件にどう落とし込むかが問われる場面が増えそうだ。

どこまで高量産性を持つ材料に近づけることができるかという新しい競争

PFASフリーは、規制対応の延長線上にある守りのテーマだけでは整理しきれなくなってきた。2025年7月の富士フイルム、同年2月のセントラル硝子、同年6月に始動したGENESISが示しているのは、環境対応材料をどこまで高量産性を持つ材料に近づけることができるかという新しい競争なのである。

半導体では、環境性能だけでは採用は進みにくい。その一方で、環境性能と歩留まり、スループット、供給安定性を同時に示せる企業ほど、次の受注条件に近い位置へ進みやすい。PFASフリーの本質は、規制の話だけではなく、量産を崩さない材料設計と工程成立性の話に移りつつあるのである。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。

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