TSMCのサプライヤ選定で脱炭素が本格化――炭素削減実績とPCFが新たな調達評価軸に!

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半導体における脱炭素は、これまでCSRやサステナビリティ開示の文脈で語られることが多かった。だが、現実はその位置付けが変わりつつある。TSMCは2025年から炭素削減実績をサプライヤ選定基準に組み込む方針を示した。そして、2025年4月22日公表時点で、主要排出サプライヤ向けのEUが推進する取り組み「GREEN Agreement」に50社超が署名し、その対象は同社サプライチェーン炭素排出の約9割に達すると発表した。

さらに、TSMCは2025年8月に初のResponsible Supply Chain Reportを公表し、供給網管理の方針やESG協働の実績を体系的に開示している。炭素は、企業イメージを補強する周辺論点ではなく、調達判断に重なる評価要素として前面に出始めた。

この変化は、評価対象が理念や姿勢ではなく、実績や検証可能性へ寄っている点が注目される。TSMCの2024 Sustainability Reportには、同社がサプライチェーン炭素削減戦略を進め、排出実績をサプライヤ選定基準に組み込んだことが記されている。従来から調達では技術、品質、納期、人権、環境安全が重視されてきたが、そこに炭素削減実績が追加的な評価軸として重なってきた、というのがより正確な見方だろう。

本稿では、TSMCのサプライヤ選定で脱炭素が本格化し、炭素削減実績とPCF(環境対応の製品カーボンフットプリント)が新たな調達評価軸になってきたことについて、詳しく解説する。

調達評価の中で無視しにくい要素に

TSMCの説明では、サプライチェーンに対して技術、品質、納期、人権、環境安全での適合を求めつつ、低炭素サプライチェーンの構築を進める姿勢が示されている。そこへ、2025年から炭素削減実績を選定基準へ組み込む運用が重なったことで、炭素は開示資料の末尾に置かれる項目ではなく、調達評価の中で無視しにくい要素になったとみるべきだ。

特に、主要排出サプライヤに対してはGREEN Agreementを軸にした管理が進む。TSMCは、これらのサプライヤについて、2030年までにTSMC向け製品の生産で台湾ではRE85、海外ではRE100を目標とする方針を示し、あわせて2030年までに両社合意の排出削減目標を達成し、2026年末までに製品カーボンフットプリントの第三者検証を得るよう求めている。ここで重要なのは、再エネ比率や排出削減を抽象的な理念で終わらせず、期限付きの行動計画と検証に接続している点だ。

また、TSMCが2025年8月に公表したResponsible Supply Chain Reportでは、2025年からサプライヤの脱炭素パフォーマンス評価フレームワークを導入し、主要指標、エネルギー使用、カーボンフットプリントの検証状況などを体系的に追跡すると説明されている。検索可能なレポート要約では、高パフォーマンスのサプライヤがより選好される方向性も示されており、脱炭素はパートナー評価に影響しうる項目として扱われ始めたと読める。

いま問われるのは削減意思より、比較可能な炭素データ

この局面で重みを持つのが、PCFである。その理由は、排出削減の議論が「努力しているか」から「どの範囲を、どの方法で、どこまで検証したか」へ移り始めているためだ。

SEMIの「Scope 3 Category 1 GHG Assessment Guidelines for the Semiconductor Sector」は、半導体業界におけるScope 3.1、すなわち購入した製品・サービスに伴う排出算定について、明確さと一貫性を高める包括的な枠組みを示すもので、土台にはGHG Protocolなどの国際標準が置かれている。測り方がそろい始めれば、顧客はサプライヤ間の差を比較しやすくなる。

ここで変わるのは営業時の説明の深度である。従来であれば「環境対応に取り組んでいる」という説明で足りた場面でも、今後は算定境界、使用データ、原単位、更新頻度、第三者検証の有無まで含めた説明が求められやすくなる。TSMCが検証状況まで追跡対象に入れる方向を示している以上、数値があるだけでは十分ではない。比較可能で、再現性があり、対外説明に耐えるデータかどうかが差になる。

日系材料・装置メーカーで進むのは、部門横断の再設計

この変化に最も早く反応が迫られるのは、日系の材料・装置メーカーの営業、SCM、品質保証、製造、サステナビリティ推進の各部門である。製品ごとの排出量を示すには、工場の電力や熱、原材料由来の排出、物流条件、歩留まりや稼働条件まで、複数部門のデータをつなぐ必要があるためだ。TSMCがサプライチェーン管理を、単なる監査対応ではなく、評価・追跡・協働の仕組みとして開示している以上、社内で炭素データの責任所在が曖昧な企業ほど対応が遅れやすい。

とりわけ注意したいのは、「自社工場の排出を減らしている」だけでは不備な点である。TSMCの公表内容では、主要排出サプライヤに対し、2030年目標や2026年末までの第三者検証といった形で、削減の継続性と説明可能性が求められている。つまり顧客が見ているのは、単年の数値だけでなく、どのような削減計画を持ち、どのペースで進め、供給を維持しながら改善できるかという運用能力でもある。材料メーカーであれば主原料や溶剤、ガスの上流データ、装置メーカーであれば稼働時の電力やユーティリティ、部材起因排出まで、説明範囲は広がりやすい。

勝負は「顧客が納得できるデータを持てるか」で決まる

ここで誤解してはならないのは、半導体調達が直ちに「最安値より最小排出」へ一斉に切り替わるわけではないことだ。TSMC自身、責任ある調達の説明では、依然として技術、品質、納期、人権、環境安全を重視している。そのうえで、炭素削減実績が新たな追加評価軸として重なっているのであり、位置付けとしては、既存条件を置き換えるものではなく、優先順位や取引継続性に影響しうる要素とみるのが妥当だ。

だから実務では、完璧なPCFを一夜で整えることよりも、まず顧客に提出できる品質の炭素データを持てるかどうかが分かれ目になる。Scope 3.1の算定ガイドが整い、TSMC側も検証状況を追う方向を明確にしたいま、受注機会を守る企業は、炭素データをサステナビリティ報告書の付録ではなく、見積もり、監査対応、設計審査に接続できる形式で持つ必要がある。営業だけが説明し、品質保証や工場が後追いする体制では、回答の速度も精度も出にくい。営業、工場、調達、品質保証、サステナ推進が同じ数字を共有できる体制そのものが、次の競争力になりつつある。

脱炭素は供給能力の一部として評価される段階へ

TSMCの変化が示しているのは、脱炭素が単なる取り組みから、供給能力の一部として評価される段階へ移りつつあるという現実である。

半導体の顧客は、安く、良く、早くに加えて、どれだけ排出を把握し、削減し、説明できるかを見始めた。炭素はまだ品質や納期を置き換えてはいない。だが、選定基準の中に入り、優先順位や継続取引の判断に影響しうる位置まで近づいている。

材料・装置メーカーに問われるのは、PCF、削減計画、検証状況を、商談で使える言語へ変換できるかどうかである。そこに先に着手した企業から、新しい調達条件への適応を進めることになりそうだ。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。

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