DRAM以外のメモリが支えるレガシー市場──NORフラッシュ・SRAMが再注目浴びる!

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生成AIでHBMや大容量DRAMが脚光を浴びる一方、工場設備、車載ECU(車の制御用コンピュータ)、ネットワーク機器の“最初の1秒”と“毎秒の安定”を支えているのはNORフラッシュとSRAMである。

NORフラッシュは電源を切っても内容が消えない不揮発メモリで、ブートローダ(起動の最初に走るコード)の安全な格納やXiP(実行インプレース:フラッシュ上のコードを直接実行できるため、DRAM展開を省ける)に向く。SRAMはリフレッシュ不要の揮発メモリで、待ち時間が一定の決定論的な応答が求められる制御ループや通信バッファに使われる。

本稿は、現在再注目を浴びるNORフラッシュ・SRAMについて、米欧台それぞれの製品・政策の一次情報をたどり、レガシー市場で“効く”選択肢を整理する。

北米(米国)|価格最安のみを追う調達から、“切れないサプライ”設計へ

2024年12月10日、米商務省はMicron Technologyに対し約61.65億USDの補助金を最終決定した。対象はニューヨークとアイダホの新工場で、約2.75億USDのバージニア州マナッサス拡張に関する予備合意も付いた。

メモリ、とりわけ産業・車載の領域では10年単位の長期供給が前提である。国内拠点の増強は、調達側にとって「地政学ショックに対する回避策が明確」という意味を持ち、単価だけではない“供給の読みやすさ”をKPIに加えやすくする。

なお今回の補助対象は主にDRAM/NANDの新拠点だが、メモリ供給全体の国内生産比率が上がることで、産業・車載向けNOR/SRAMを含む長期供給確度(LTAの履行可能性)も相対的に高まる。価格最安のみを追う調達から、近接生産・複線化を織り込んだ“切れないサプライ”設計へと意思決定の軸が移る。

2025年6月公表の製品資料では、SRAMの役割が“容量競争”ではなく“応答の安定”にあることも裏づけられた。代表例である同期SRAMは、おおむね350MHz級の動作やオンチップ終端(ODT)など、SI(信号品質)と実装確度を重視する仕様を備える。最短遅延とジッタの小ささが回路全体の制御安定度を底上げし、レガシー世代のCPU/DSPやFPGAと組み合わせたときの“確実に動く”感を担保する。

欧州(ドイツ/EU)|産業・車載の基盤半導体を域内で“作れる”体制を強化

2025年2月20日、欧州委員会は独Infineonのドレスデン新工場(MEGAFAB-DD)に対して約9.2億EURのドイツ政府助成を承認した。欧州チップ法の流れの中で、産業・車載の基盤半導体を域内で“作れる”体制を強化する狙いである。

フロントエンド(前工程)からテストまでを担う拠点が欧州内に形成される効果は、単なる生産能力の上積みにとどまらない。有事の優先供給や在庫の域内最適化など、制度と運用の両輪で供給継続性を高めやすくなる。

さらに2025年5月8日、InfineonのSEMPER NORは第三者機関SGS-TÜVからASIL-D(自動車機能安全の最高レベル)認証を取得した。シリーズ横断の認証とSEooC(安全要素としてのコンポーネント)文書の提供により、部品選定から量産認可までの“認証の道のり”が短縮される。メモリ側から機能安全の要件を満たしやすい環境が整い、ソフト/ハード連携の検証負荷を実務的に下げられる点は設計現場に効果的だ。

アジア(台湾)|高速起動とセキュアブートで“現場要件”を深掘り

2024年12月11日、台湾Winbondは車載向けセキュアNOR「W77T」を発表した。ISO 26262 ASIL-D Ready/ISO 21434/UNECE WP.29/TISAXへの適合に加え、Octal/xSPIで200MHzのDTR(Double Transfer Rate:クロックの立ち上り/立ち下りの両縁で転送)動作、最大400MB/sのリード帯域、64Mb〜1Gbの容量帯を揃える。

RPMC(Replay Protected Monotonic Counter:リプレイ防止の単調増加カウンタ)やJEDEC xSPI互換など、OTA更新の完全性と高速ブートの信頼性を支える実装機能も用意されている。

2025年5月7日の1Q決算で、WinbondはNORフラッシュ世界No.1サプライヤーとしての地位を再確認させた。車載・産業を含むアプリケーション構成と製品ロードマップの継続的な情報開示は、供給の可視性という実務価値につながる。

2025年8月6日、台湾のMacronixは「ArmorBoot MX76」を発表した。Secure-Boot(起動時の署名検証)に必要な機能を1チップに統合し、1.8V/3.0Vの電源電圧、最大1Gbの容量帯をカバーする。データバス上に平文コードを露出させない構成により、追加チップなしでセキュアブートを完結できるため、部品点数削減と起動時間短縮の両面で効く。

産業・車載の現場要件(高温環境・長寿命・セキュリティ規範)を、メモリ単体の機能でどこまで前倒し吸収できるかという開発トレンドを象徴している。

“すぐ起動して、安定稼働する”が、レガシー市場での装置競争力を高める

NORフラッシュとSRAMは、目立たなくても装置の安定稼働を左右する核心部品でと言える。米国の補助金はオンショアリングを通じて供給の不確実性を下げる基盤を整え、欧州の助成とASIL-D認証は「使える×作れる」の両輪を前へ押し出した。台湾は200MHz DTR/400MB/s/xSPIやワンチップ・セキュアブートで、高速起動と耐改ざんを実用品のレベルに落とし込んでいる。

現場の次アクションは明快である。近接生産×長期供給契約で“途切れないサプライ”を固め、機能安全とセキュリティの要件をメモリ側から先取りする。そのうえで評価計画に、(1)起動時間の実測(常温/高温/低温)、(2)セキュアブートの署名検証時間、(3)RPMC運用の鍵管理手順、(4)NORの消去・書込みサイクルとデータ保持年数(温度プロファイル付き)を固定し、制御系のSRAM/起動コードのNOR/大容量バッファのDRAMを適材適所で組む。派手な大容量競争ではなく、“すぐ起動して、安定稼働する”という普遍の価値を積み上げることが、レガシー市場での装置競争力を高めるのである。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク

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