連載:半導体の世界をのぞいてみよう③身のまわりの“半導体”を探してみよう!

SEMICON.TODAY
この記事を読むのにかかる時間: 6

「半導体」と聞くと、工場や研究所のイメージが先に浮かぶかもしれません。ですが、実際には私たちの手の上や自宅のあちこち、さらには通勤・通学で使う乗り物まで、半導体はすでに生活のあらゆる場所に入り込んでいます。

世界全体で見ると、この「見えない部品」の市場規模はすでに巨大です。世界半導体貿易統計(WSTS)の2024年秋季予測を日本貿易振興機構(JETRO)がまとめた資料によると、2023年の世界半導体市場は5,269億ドル、2024年は約6,300億ドル規模と見込まれています。

当初は2025年を6,970億ドルと予測していましたが、2025年12月に公表された最新予測では、その見通しが約7,700億ドル(前年比22.5%増)へと上方修正され、2026年には1兆ドル規模に“王手”をかける姿が示されています。

こうした数字だけを見ると少し遠い世界の話に感じるかもしれませんが、その売上の源泉は、あなたの手の中のスマートフォンや家のエアコン、そして街のどこかでひっそり動いている制御機器なのです。

本稿では、専門用語や製造プロセスの話から少し離れて、「身のまわりにある半導体」を一緒に探していきます。スマホ、家電、クルマ、そしてインフラ・データセンターまで、どこにどんな役割で半導体が潜んでいるのかを、分野別に見ていきます。

スマホは“半導体のかたまり”だった

毎日使うスマートフォンは、典型的な「半導体のかたまり」です。とくに分かりやすいのがカメラ部分です。

スマホのカメラ内部には「CMOSイメージセンサ」と呼ばれる半導体が入っています。これは、レンズから入った光を電気信号に変える“電子のフィルム”のような存在です。

ソニーセミコンダクタソリューションズは2025年6月、スマホ向けの新しいCMOSイメージセンサ「LYT-828」を発表しました。これは、約5,000万画素で、100dB以上という非常に広いダイナミックレンジを持ち、明るい部分の白飛びと暗い部分の黒つぶれを抑えられるのが特長です。

「夜でもきれいに撮れる」「逆光でも人物がつぶれない」といったカメラ性能の向上は、このような高性能イメージセンサの進化によって支えられています。

アプリを動かすロジック半導体

スマホの“頭脳”を担うのが、ロジック半導体(プロセッサ)です。アプリの処理、カメラ画像の補正、通信、セキュリティ処理など、ほぼすべての機能がこのチップ上で動きます。

WSTSの統計では、2025年の世界半導体市場の中でロジックICが約2,959億ドルと、最大のカテゴリになる見通しです。スマホやPC、ゲーム機など「処理能力」が重要な製品の多くが、このロジックICの需要を生み出しています。

電源を管理する“縁の下の力持ち”

スマホ内部にはほかにも、以下のような多数の半導体チップがあります。

・電源管理IC:バッテリからの電力を各部品に最適な電圧に変換し、電池を長持ちさせる
・無線通信チップ:5G/Wi-Fi/Bluetoothなどの通信を担当
・センサ:加速度センサ、ジャイロセンサ、近接センサなど

これらをすべて合わせると、スマホ1台の中には、大小さまざまな半導体がぎっしりと詰め込まれています。

おうちの家電にもマイコンがぎっしり

LED照明やインバーターエアコンも、半導体がなければ成立しません。

・LED照明
明るさを制御するドライバICや、調光・調色を制御するマイコンが入っています。これにより、以前の蛍光灯に比べて大幅な省エネと長寿命を実現しています。

・インバータエアコン
コンプレッサのモータをインバータで制御し、細かく回転数を変えることで、必要な分だけ冷暖房を行います。このインバータ制御にも、電力変換用の半導体と、制御用のマイコンが組み合わされています。

家庭の中で「勝手に省エネしてくれる」機器が増えている背景には、電源制御やモータ制御を担う半導体の進化があります。

クルマは「走るコンピュータ」

自動車の内部にも、多数の半導体が使われています。エンジンやモータの制御、ブレーキやステアリングの制御、エアバッグなどの安全装置、エアコンやシートヒーターなどの快適装備、カーナビやメーター、ディスプレイの表示まで、ほとんどの機能が電子制御されています。

こうした機能をまとめて制御する電子制御ユニット(ECU)の中には、マイコンや電源IC、センサ用ICなどが組み込まれています。近年は自動運転支援や高度な安全機能が普及し、カメラやミリ波レーダー、LiDARなどのセンサ、それらからの膨大なデータを処理するロジック半導体の役割も大きくなっています。

EV・ハイブリッド車とパワー半導体

電気自動車(EV)やハイブリッド車では、バッテリの高電圧をモータに供給するインバータが重要な役割を担います。このインバータには「パワー半導体」と呼ばれるデバイスが使われており、電力を効率よく変換することで、加速性能や電費(電力あたりの走行距離)に直結します。

自動車分野では、シリコンに加えてSiC(炭化ケイ素)などの新材料を用いたパワー半導体の採用も広がっています。クルマの電動化が進むほど、車載向け半導体の重要性は増していきます。WSTSの統計でも、自動車向けを含む一部の分野は、2024年以降も比較的堅調な需要が続くとされています。

まち全体を動かす“見えない半導体”

SNS、動画配信、オンラインゲーム、クラウドストレージ、生成AI──こうしたサービスの多くは、世界各地のデータセンターにあるサーバー上で動いています。このサーバーにも、CPU、GPU、メモリ、ストレージ、ネットワークチップなど、多数の半導体が使われています。

グローバル経営コンサルティングファーム、McKinsey & Company(マッキンゼー)の分析によると、AIやクラウドの普及により、世界のデータセンターの電力容量は2025~2030年にかけて約3倍に増加する可能性があり、その需要の約70%をAI関連のワークロードが占めるとされています。こうしたデータセンターの拡大が、先端ロジック半導体や高帯域メモリ(HBM)、ネットワーク向け半導体の需要を押し上げています。

私たちがスマホで検索したり動画を見たり、生成AIサービスを試したりするたびに、遠く離れた場所で大量の半導体が動き続けている──と考えると、その“存在感のなさ”とは裏腹に、半導体の影響力の大きさがイメージしやすくなります。

電力・インフラ・通信網も半導体で動く

街を歩いていると、直接半導体を見ることはほとんどありませんが、インフラのいたるところに組み込まれています。

・電力インフラ
変電所や送配電設備には、電圧・電流を監視するセンサや制御用マイコン、通信ICなどが使われています。再生可能エネルギーや蓄電池システムでも、パワー半導体や制御マイコンが重要な役割を果たします。

・通信基地局
5G基地局や光通信装置には、高周波デバイス、光トランシーバ、ネットワークプロセッサなどの半導体が搭載されており、スマホや企業ネットワークを支えています。

・店舗・工場・ビル
POSレジ、エレベーター、自動ドア、監視カメラ、空調制御システムなど、身近な設備にも無数の半導体が埋め込まれています。

こうした「まちを動かす半導体」は、一般の生活者からは見えにくいものの、止まってしまうと信号機が動かない、電車が遅れる、レジが使えないといった形で、すぐに日常生活の不便として表面化します。だからこそ、半導体サプライチェーンの安定性が、今や各国政府や企業にとって大きなテーマになっているのです。

「見えないけれど、どこにでもある」半導体

ここまで見てきたように、半導体は
・手の上のスマホ
・家の中の家電製品
・クルマ
・データセンターや通信インフラ
・電力・ビル・工場などの社会インフラ
といった、身のまわりのあらゆる場所に使われています。

世界の半導体市場は2024年に約6,300億ドル、最新予測では2025年に約7,700億ドル、そして2026年には1兆ドル規模に迫ると見込まれています。これは決して一部の「最先端チップ」だけの話ではありません。

・スマホのカメラがきれいになった
・エアコンの電気代が下がった
・クルマの安全機能が増えた
・動画や生成AIサービスが快適に使えるようになった

といった、一つひとつの体験の裏側に、必ず半導体があります。

シリーズ第1回では「半導体とは何か」、第2回では「どんな種類の半導体があるのか」を整理しました。今回の第3回では、その半導体が実際にどこで使われているのかを、身近な例からたどってきました。

次にスマホを手に取ったり、家電のスイッチを入れたり、クルマに乗ったりするとき、「この中でどんな半導体が動いているのだろう?」と少しだけ想像してみてください。半導体が“よく分からないブラックボックス”から、“生活を支える道具”として、少し身近に感じられるようになるはずです。

次回は、「半導体はどんな材料からどんな工程を経て作られていくのか」を取り上げます。

連載「半導体の世界をのぞいてみよう」では、半導体の基本的な仕組みから、材料、企業ごとの役割まで、段階的にわかりやすく紹介していく予定です。
「半導体のNANDってどういうもの?」「半導体企業について知りたい」など、知りたいテーマがあれば、画面右側のコメント欄からお寄せください。読者の疑問にもできるかぎりお応えしながら進めてまいります。

参考リンク

TOP
CLOSE
 
SEARCH