DRAM価格“6倍高騰”の衝撃──AIメモリ偏重が生んだ「従来品不足」の時代

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2025年秋から、パソコンやサーバに使われる半導体メモリ「DRAM(ディーラム)」の価格が急速に上昇している。日本経済新聞は、国内代理店などが扱う一部のDRAM品種のスポット価格が、前年末比でおよそ6倍に達したと報じた。背景には、生成AI向けデータセンター投資による需要増加に加え、中国メーカー製DRAMの値上げや供給不安があるとされる。

DRAMは、PC・スマホ・サーバーから車載機器・産業機器まで、多くの電子機器で使われる「作動中データの置き場」である。その価格が短期間で大幅に上昇することは、機器メーカーやシステム開発企業にとって無視できない負担となる。

本稿では、直近1年のメーカー公式発表と信頼性の高い報道をもとに、いまDRAM市場で何が起きているのか、なぜここまで急騰したのか、日本のPC・スマホ・産業機器にどう波及するのか、企業は何をチェックしておくべきかを整理する。

何が起きているのか――「安かったDRAM」が一気に逆回転

1. スポット市場での急激な上昇

DRAMの価格には、大きく2つの軸がある。

• メーカーと大口顧客が事前に取り決める「契約価格」
• 代理店や流通在庫を通じて売買される「スポット価格(現物価格)」

契約価格は比較的なだらかな動きを示す一方、スポット価格は短期的な「モノ不足」や「駆け込み需要」を反映しやすい。

2024年までは、PCやスマホ需要の一服によってDRAMは「安くても動きが鈍い」状態が続き、各社は減産や投資抑制を進めていた。ところが2025年に入り、生成AIサービス向けデータセンター投資の加速、GPUサーバー向け高帯域メモリ需要の急増、旧世代DRAM(DDR4など)の生産縮小が重なり、在庫余力が急速に縮小した。

その結果、日本国内の代理店やブローカーが扱う一部のDRAMでは、「数カ月前から数倍」「昨年末比で約6倍」という水準に達している。これは需給バランスの変化に加えて、「確保できなければ製品出荷に支障が出るのではないか」という不安心理も影響したとみられる。

2. 契約価格も上昇トレンドへ

スポット価格ほど急激ではないものの、契約価格も上昇局面に入っている。世界の半導体市場を追う複数の調査会社の予測を総合すると、2025年後半のDRAMについては通常世代のDRAMで四半期あたり1〜2割程度の値上がり、とくにコンシューマ向けDDR4など旧世代品の上昇率が大きいと見通されている。

メーカーとの長期契約を結ぶPC・サーバー企業にとっても、「昨年の調達価格を前提にした商品企画」は成立しにくくなりつつある。

AIサーバとHBM偏重──“儲かるメモリ”への資源集中

1. マイクロン・サムスン電子・SKハイニックスの決算が示すもの

DRAM市場は、サムスン電子、SK hynix、Micron Technologyの3社が世界シェアの大半を握る寡占構造にある。この3社の2025年の決算・業績見通しを見ると、「AI向けメモリ重視」の姿勢が明確になっている。

• マイクロンは、DRAM中心の価格環境改善とAI製品需要増を理由に業績見通しを引き上げた。
• サムスン電子は、AI向けHBM3Eやサーバ向け製品の好調を強調。
• SKハイニックスもAI向けHBMを核に事業利益を拡大している。

従来のPC・スマホ用途だけでは利益確保が難しくなっており、各社はAIサーバ向けメモリを収益の柱に据えている。

2. 生産キャパシティはHBMとDDR5にシフト

ウエハやクリーンルームの能力には限りがあり、高収益品に生産能力が集中する傾向が強まっている。現在の優先順位は以下の通りだ。

1. HBM(高帯域メモリ)
2. AIサーバ向けDDR5などサーバDRAM
3. PC/ノートPC向けDDR5
4. 旧世代DDR4・LPDDR4など

AI向けメモリ需要に生産能力が吸われることで、旧世代DRAMは割高化しやすい状況にある。

サムスン電子の大幅値上げと中国CXMTの動き

1. サムスン電子、DDR5を最大60%値上げ

2025年11月、サムスン電子は一部メモリ製品の契約価格を大幅に引き上げた。サーバ向け32GB DDR5は149ドル→239ドルへと上昇し、その他容量でも5割前後の値上げが見られた。

AIサーバ需要が強く、代替供給源も少ないため、大手顧客も受け入れざるを得ない状況となっている。

2. 中国CXMTの戦略転換と市場不安

アジア経済紙は、2025年春のDDR4価格が1カ月で約2倍となった背景として、CXMTがDDR4生産を縮小しDDR5や高帯域メモリへシフトする観測、これを受けた代理店の在庫積み増しを指摘している。

米メディアも、輸出規制下でCXMTが16nm世代DDR5を開発したと報じており、中国勢もAI向けメモリへ本格的に踏み込んでいる。

従来「安価なDRAM供給源」であった中国メーカーが高付加価値メモリに比重を移しつつあることで、標準DRAMの価格安定性が崩れつつある。

日本の現場で起きていること――PC・産機・スマホの3つの波紋

1. PC・自作市場:見積条件の不安定化

日本のPC市場ではメモリ大容量化が進み、16GBや32GBが一般化している。DRAM急騰により、同容量でも数カ月前より販売価格が高く、特に大容量品の値上がりが大きい。

BTOメーカーなどはスポット調達比率が高く、見積り提示時と発注時で仕入れ価格が変わりやすく、採算管理が難しくなっている。

2. 産業機器・FA・車載:長期供給と価格の板挟み

産業機器や医療機器、車載機器では同じ部品を長期供給してもらう必要がある。しかしDRAMメーカーは旧世代の利益率が低いため、HBMやDDR5へと生産をシフトしたい事情がある。

その結果、旧世代DRAMには生産終了リスク、保守在庫確保の難しさ、供給の不安定化が発生しやすい。日本のインフラ企業などは、代替品評価を前倒しする必要性が高まっている。

3. スマホ・家電:スペック構成見直しの圧力

スマホ・家電向けのLPDDRも旧世代品の供給が絞られており、廉価モデルのメモリ搭載量が抑制される可能性がある。

• 標準搭載容量の引き下げ
• モデル間のメモリ差の拡大
• 他部品でのコスト調整

といった対応が必要になり、ユーザーにも「価格上昇」や「容量減」として影響が出る可能性がある。

企業がチェックすべきポイント――“安いDRAM前提”からの転換

1. 調達:スポット依存度の把握と縮小

• 自社調達のうちスポット依存割合を把握する
• メーカーや一次代理店との中長期契約を増やし数量保証を優先
• 調達先の地域偏りを点検

急騰局面では「必要数量を確保できるか」が価値になる。

2. 設計:メモリ世代と容量の柔軟性確保

• DDR4をいつまで前提とするか整理
• 将来DDR5へ切り替える余地を持った設計に
• 過剰な安全マージンを見直す

旧世代ほど割高になる状況があり、世代交代を織り込んだ設計が必要になっている。

3. 社内での情報共有

DRAM価格問題は調達だけの課題ではない。設計・営業・企画が共通認識を持ち、「なぜ原価が上がるのか」「なぜ見積り有効期限が短いのか」を説明できる必要がある。

「DRAMは常に安い」という前提の揺らぎ

DRAMは長期的には大容量化と価格低下が続いてきたが、2025年の市況はその前提が崩れ始めている。

• AIサーバ向けメモリが優先生産される
• メーカーはHBMやDDR5へ集中し旧世代は絞られる
• 中国勢も高付加価値品へシフト

その結果、「古いが大量に使われるDRAM」が割高になる逆転現象が発生している。

今回のスポット価格6倍という動きは、単なる一時的異常値ではなく、DRAMの位置づけ見直しを迫るシグナルといえる。製品設計・調達・価格設定の前提として、メモリ価格の変動リスクを組み込むことが求められる。

用語解説

DRAM(ディーラム)
動作中データを一時的に保存する半導体メモリ。電源オフで内容が消える。

スポット価格
在庫を対象とした短期取引価格。短期的に大きく変動しやすい。

契約価格
メーカーと大口顧客が月・四半期単位で定める基準価格。

DDR4/DDR5
PC・サーバ向けDRAMの規格。DDR5が最新世代。

HBM(High Bandwidth Memory)
積層構造を持つ高帯域メモリ。AI向けGPUで採用が進む。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました
参考リンク

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