Keysight Technologies Matthew Ozalas インタビュー
半導体の専門家のためのオープンフォーラム SemiWiki の「Semiconductor Insiders」ポッドキャストシリーズは、米国に本拠を置く電気・電子計測機器メーカー Keysight Technologies で RF エンジニアを務める Matthew Ozalas 氏をゲストに迎え、「アナログ高周波設計の進化と AI の影響」をテーマに話を聞いた。今回はそのインタビューの一部をご紹介する。
トランジスタの論理回路を扱う授業を受け「これは面白い」
―まず、あなたの経歴と、業界へのかかわり方など教えていただけますか?
Matthew Ozalas:
大学では一般的な工学専攻としてスタートし、当初はコンピューターサイエンスを専攻して C 言語のプログラミングを学んでいました。その中でロジックゲートやトランジスタの論理回路を扱う授業に出会い、「これは面白い」と感じて RF・マイクロ波分野へ進みました。インターンでテスト機器に触れたことがきっかけで、ラジオ受信機や無線機器に魅了され、高周波回路ソフトウェアに携わるようになりました。
―Keysight Technologies に入社した経緯は?
Matthew Ozalas:
大学でパワーアンプ回路を扱ったことがとても面白く、この分野に進みました。その後 Skyworks Solutions で携帯電話向けパワーアンプ設計を担当し、多くの実践経験を積みました。技術の進化でシミュレーションの重要性が高まるとともに、その面白さに引かれ 2013 年ごろ Keysight に転職し、EDA グループでシミュレーション技術に関わる仕事を始めました。
設計者の支援ツールとして現れる AI による変革
―AI 技術の進展は RF/マイクロ波工学にどのような変化をもたらしていますか?
Matthew Ozalas:
RF/マイクロ波回路は芸術作品のように個性的で、AI は膨大なデータが必要ですが高品質データは限られています。AI は設計を自動化するというより、設計者の支援ツールとして効率を高める役割を果たすでしょう。
各企業が独自に AI を活用した設計支援ツールをローカルで構築
―企業が自社情報を設計プロセスで活用する上での課題は?
Matthew Ozalas:
設計情報は社内に散在し、現行 EDA ツールに取り込むのは困難です。今後は各社が独自に AI を用いたローカル設計支援ツールを構築し、情報を資産として活用する方向に進むでしょう。例えば Keysight ADS の数千設計を抽出・データベース化し、特定回路を自動検索できるようにしました。まずは情報をプロセスに統合するための自動化が鍵になります。
―次世代設計で重要になるチップレットと先進パッケージ技術の役割は?
Matthew Ozalas:
6G に向け SWaP‑C 要件を満たすにはチップレットが解決策となる可能性が高く、シリコンだけでなく GaAs など多様な技術のハイブリッド化が求められます。クロスプラットフォーム対応の設計環境と自動化が不可欠です。
柔軟で統一されたツールこそが、次世代設計に不可欠な存在に
―高周波ハードウェア開発で生産性とイノベーションを高めるソフトウェアツールとは?
Matthew Ozalas:
最も重要なのは「柔軟性」。設計フロー全体をカバーし自動化できるツールが必要です。AI ベースの外部最適化エンジンとシミュレーターを連携させる形に移行し、テクノロジーを跨ぐ設計では統一された電磁界ソルバーが不可欠です。弊社の RFPro EM や Nexus は IC からパッケージ、基板まで 1 つのソルバーで扱え、異なる設計環境でも利用可能です。こうした柔軟で統一されたツールが次世代設計を支えると考えています。
「面白い」という好奇心から高周波の世界に入った Matthew Ozalas 氏は、AI 時代に求められるのはツールとプロセスの「柔軟性」だと強調する。各社がどのように柔軟性を備えた設計環境を展開していくのか、今後の動向に注目したい。