2025年11月、半導体業界はかつてない規模の構造転換期を迎えています。
AI需要が牽引する「スーパーサイクル」の到来が確実視される一方で、従来のシリコンサイクルとは異なる、インフラ、メモリ、そしてエネルギー効率が複雑に絡み合った新たな競争ルールが支配し始めています。本稿では、エンジニアが押さえておくべき主要な技術・市場トレンドを解説します。

インフラの再定義:「AIファクトリー」とデジタルツインの実装
データセンターは単なる計算資源の置き場から、AIを生産する「AIファクトリー」として位置づけています。
● ギガワット規模の設計: NVIDIAは、ギガワット規模のAIファクトリー構築に向けたブループリント「Omniverse DSX」を発表しました。これは、建物、電力、冷却をAIインフラと連携し、建設前にデジタルツイン上で設計・運用を最適化するものです。
● 運用OSとしてのデジタルツイン: デジタルツインを“運用の基盤(OS的存在)”として用いる構想を示し、AIエージェントが電力や冷却を監視・最適化する手法を新たな標準として提案しています。
● 電力効率の追求: インフィニオンとソーラーエッジは、両社の発表では99%を超える効率の次世代電源技術(Solid-State Transformer)の開発で提携を発表しました。SiC技術とDC電力変換の知見を組み合わせ、持続可能で拡張可能な電力インフラの実現を目指します。
メモリの壁を突破する「HBM4」と「カスタム化」
メモリ帯域幅がAI性能の律速要因となる中、メモリ技術の進化が加速しています。
● SK hynixの先行と「クリエイター」への転換: SK hynixは「HBM4」の開発完了と量産準備を発表しました。同社は自らを単なるメモリプロバイダーから「クリエイター」へと役割を再定義しています。カスタムHBM(カスタムHBM3)の方向性としては、これまでGPUやASIC側で処理していた特定のコンピューティング機能をHBMのベースダイへ移すことで、推論効率やTCO最適化を狙う設計思想が示されています。
● HBM(High Bandwidth Memory)の経済的しきい値: SEMIの「Silicon Wafer Market Monitor」の分析によると、HBMのメモリ売上高比率が現状は約16%にとどまる一方、25%に達すると、投資と収益の比率が1.5に上がり、HBM専用ラインの設備投資が標準DRAMと“経済的に釣り合う”転換点になると予測されています。
● レガシーメモリの再評価: AIでHBMが脚光を集める一方、工場設備・車載ECU領域では、高速起動と安定性を支えるNORフラッシュやSRAMが再注目され、供給網の再構築が進んでいます。
ロジック・ファウンドリ:2nm量産と国家プロジェクト
先端ロジック分野では、2nm世代(GAA構造)の量産と、国家戦略と結びついた供給網の構築が進んでいます。
● TSMCの好調: TSMCは2025年10月の売上が前年同月比16.9%増となった。また2025年7–9月期決算では、先端ノード(3nm/5nm/7nm合計)の比率が高く、HPC(High Performance Computing)向け需要が収益を牽引しています。
● Rapidusの正式選定: 日本のRapidusは経済産業省が行った公募から正式な事業者として選定されたと発表しました。2027年に予定されている2nm量産に向けて、今年度中に1,000億円の出資を申請する予定です。
● インテルとTSMCの摩擦: TSMCが元上級副社長を提訴し、先端プロセスの機密情報がインテルへ漏洩した可能性を巡る訴訟が発生しており、先端技術競争の激化を象徴しています。
後工程(パッケージング)のメガファブ化
前工程の微細化限界を補うため、先端パッケージングが戦略的投資の中心になっています。
● アムコーの巨額投資: OSAT大手のアムコーは、米国アリゾナ州に最大70億ドル規模の先端パッケージ/テスト拠点を建設し、TSMCアリゾナ工場で生産したウエハを同州内で繋ぐことで、米国内で完結するサプライチェーンを構築しようとしています。
● 技術の高度化: TSMCは超大面積RDL(Redistribution Layer)形成とHBM多段積層を前提にした“巨大パッケージ”であるSoW-X(System-on-Wafer)を2027年に量産する計画です。
自動車・産業分野の「二極化」
車載半導体市場では、用途による明暗が分かれています。
● パワー半導体の踊り場: EV販売の減速に加え、価格競争やHEV/PHEV回帰の影響で、SiCを中心に在庫調整が続き、投資判断も慎重になっています。
● SDVとSoCの堅調: SDV(Software Defined Vehicle)への移行に伴い、高性能な車載SoC(System on Chip)のプラットフォーム獲得競争が強まっています。あわせて、末端の制御を担うMCU(マイコン)も引き続き不可欠で、底堅い状況です。
地政学とサプライチェーン:「脱NVIDIA」と国産化
米中の技術覇権争いは、調達戦略に影響を与えています。
● 中国の国産化: 中国では当局の監視強化(例:H20を巡る動きや通関監視の観測)を背景に、NVIDIA依存を下げる方向が明確化しています。青海のデータセンター案件では、国産AIチップを用いた実装が前面に出ており、国内調達の受け皿が具体化しています。
● ソブリンAI: 各国がデータ主権やコンプライアンスを守るために自国のAIインフラを構築する「ソブリンAI」の動きが加速しています。NVIDIAはクラウド/政府向けの“フルスタック”提供を強め、OracleとNVIDIAの協業(アブダビの政府DX事例など)のように、主権環境でGPU・ソフト・運用基盤まで束ねて提供する動きが確認できます。
エンジニアへの示唆
2025年後半の半導体業界は、単なるスペック競争から、「エネルギー効率」「熱設計」「サプライチェーンの強靭性」を含めたシステム全体の最適化競争へと移行しています。
エンジニアには、チップ単体の性能だけでなく、それが稼働するデータセンターや車両全体のエコシステム、さらには地政学的リスクまでを考慮に入れた設計・調達の視点が求められています。
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