オンセミが切り拓く「縦型GaN時代」――AI・EV・再エネを支える高電圧パワー半導体の新潮流

SEMICON.TODAY
この記事を読むのにかかる時間: 4

2025年10月、米国の半導体大手Onsemi(オンセミ)が「縦型GaN(vGaN)パワー半導体」の開発を発表した。従来のGaNデバイスで課題とされてきた高電圧対応や熱・損失管理、電力密度向上に対し、構造面から抜本的な解決策を提示した。

AIデータセンターや電気自動車(EV)、再生可能エネルギーなど、電力変換・制御の効率と信頼性を重視する分野では、電力密度の向上と冷却負荷の低減が競争力の分かれ目となりつつある。vGaNは、これらの要件を満たし得る次世代パワー半導体として注目が集まっている。

本記事では、オンセミの発表を踏まえ、背景、技術内容、用途、産業界への影響を考察する。

背景:高まる電力需要とパワー半導体への要請

AIやデータセンター市場の拡大は、電力供給と変換のあり方を根底から変えつつある。生成AIモデルの性能向上に伴い、データセンター1拠点当たりの電力需要は年々増加しており、安定供給だけでなく、ラックあたりの電力密度と効率が重要な指標になってきた。加えて、電動車の普及、住宅・産業用途の電化、再生可能エネルギーの導入拡大もあり、電力変換機器の規模はさらに広がっている。

電力を扱うインバータ、コンバータ、電源モジュールでは、高電圧対応、小型化、熱設計の最適化が求められる。設計者にとっては、効率向上と冷却負荷の低減が、性能とコストの両立に直結する。また、装置メーカーや車載サプライヤにとっては、パワー半導体の進化が製品競争力そのものを左右する。

こうした流れを背景に、これまで主力であったシリコン(Si)デバイスでは限界が見え始め、高耐圧特性を持つシリコンカーバイド(SiC)や高速スイッチングに優れる横型GaNが採用されてきた。しかし横型GaNは異種基板を用いるため、結晶欠陥や熱膨張差による制約が残り、高耐圧化や大電流化には構造的な壁があった。

高電圧・高密度・低損失――これらを一体で満たす新しい構造への要請が強まり、その一つの回答として登場したのがオンセミのvGaNである。

オンセミのvGaN:技術内容と特徴

オンセミは2025年10月30日、「Vertical GaN Semiconductors」を公表した。同社は長年研究してきたGaN-on-GaN技術を基盤に、GaN基板上にGaNデバイス層を成長させることで結晶品質を高め、縦型構造による高電圧特性を実現した。

1.GaN-on-GaN技術

従来のGaNではシリコンやサファイアなど異種材料を基板とすることが一般的だったが、オンセミは基板と活性層を同一材料とすることで、格子不整合や熱膨張差による欠陥を抑えた。これにより、デバイスの信頼性、熱性能、耐圧特性が向上するとされる。

2.縦型構造による高耐圧・大電流化

従来の横型GaNはチップ表面方向に電流を流すため、耐圧向上にはデバイス面積拡大が必要になるなど、構造的な制約があった。縦型構造では、電流が基板方向へ垂直に流れるため、電界分布の制御が容易で、高電圧と小型化の両立が可能になる。

3.高密度・高効率・高信頼性の両立

オンセミは、vGaNが「電力密度、効率、堅牢性の新たな基準となる可能性がある」と説明する。結晶欠陥の低減と熱性能の向上は、信頼性の確保に直結し、特に車載や産業用途で要求される長寿命・高耐環境性に適性がある。

4.初期製品のラインアップ

初期製品として700Vおよび1,200Vクラスのデバイスを想定し、アーリーアクセス顧客向けにサンプル出荷が始まっている。高電圧領域をターゲットにしている点は、EVや産業用電源、再生可能エネルギー向けインバータを視野に入れた構成と言える。

5.開発体制

米ニューヨーク州シラキュースにあるオンセミのR&D拠点で、プロセス、アーキテクチャ、製造、システム設計に関する130件以上の特許を取得している。

複数の報道では、vGaNの採用により電力変換損失が従来比で最大50%程度削減される可能性があるとの指摘もあるほか、受動部品の小型化につながり、横型GaNデバイスの1/3のサイズで同等以上の性能が得られる可能性も示されている。

想定用途:AI・EV・再エネでの期待

オンセミはvGaNの用途としてAIデータセンター、EV、再生可能エネルギー、産業用電源、航空宇宙・防衛などを挙げている。電力密度・効率・信頼性の三要素が重視される領域での利用が想定される。

1.AIデータセンター

AIサーバーの電力負荷増大に伴い、DC–DCコンバータや電源モジュールの効率改善は喫緊の課題だ。高耐圧と高速スイッチングを組み合わせたvGaNは、ラック単位の性能向上につながる。

2.EV・電動車

EVのインバータや車載DC–DCコンバータでは、700V/1,200V級の高電圧対応が求められる。vGaNは電力損失と冷却負荷を抑えられる可能性があり、航続距離や車両重量の改善に寄与するとの見方がある。

3.再生可能エネルギー・蓄電システム

太陽光・風力発電向けインバータや蓄電システム(ESS)では、高耐圧と高密度の両立が重要だ。装置の設置面積が限られる場合、vGaNによる小型化のメリットは大きい。

4.産業用電源・航空宇宙・防衛

高信頼性と高効率が求められるモーター駆動、ロボティクス、航空宇宙用途でも、vGaNの構造的利点が生きる。他の材料では満たしにくい密度・温度・重量要件に対応しやすい点が注目される。

こうした応用領域の広さから、vGaNが単純な技術更新ではなく、パワー半導体の設計思想に変化をもたらす可能性があると見られている。

既存技術との比較:SiC・横型GaNとの関係

パワー半導体市場で主流となっているSi、SiC、横型GaNと比較すると、vGaNの位置付けが明確になる。

・横型GaN
高速スイッチングに優れるが、高電圧化や大電流化には限界がある。

・SiC
高耐圧と信頼性に強みがある一方、材料コストや高周波特性で課題を抱える。

・vGaN
GaN-on-GaNと縦型構造により、高耐圧・高密度を両立できる可能性がある。

特にAI・EV・再エネの分野では電力効率と密度の要求が高まっているため、vGaNが部分的にSiCの代替となるシナリオも指摘されている。ただし、基板供給能力や製造コストといった課題も残り、今後の市場動向が注目される。

パワー半導体設計に迫る転換点

オンセミのvGaN発表は、パワー半導体市場における重要な転換点になる可能性がある。高電圧・高効率・高密度・小型化・信頼性といった複数の要素を同時に高めるアプローチは、AIデータセンターやEV、再エネなどの領域で設計の再構築を促す。

1.日本企業への影響

日本では、ロームや三菱電機、富士電機などがSiCパワー半導体を中心にラインアップを拡充してきた。vGaNは高耐圧領域での新たな選択肢となりうるため、ロードマップの再評価や製品差別化戦略に影響を与える可能性がある。さらに、GaN-on-GaNの大口径化が進めば、国内の材料メーカーにも新たなビジネス機会が生じる可能性がある。

2.量産化への課題

サンプル段階である現時点では、量産コスト、歩留まり、信頼性評価、基板供給能力など課題も多い。特にGaN基板の調達コストは商業化に向けた最大の焦点の一つとなりそうだ。

パワー半導体は電力インフラの中枢を担う存在であり、vGaNの普及が進めば装置設計やサプライチェーンにも変化をもたらす。日本企業を含む関連業界は、技術動向を注視しながら最適な採用戦略を検討することが求められる。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク

TOP
CLOSE
 
SEARCH