アナログ半導体の供給網再編!—Texas Instrumentsの増産と日系企業の戦略

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生成AIや先端ロジックの陰で、現実世界を動かすのは依然としてアナログ半導体だ。車載の電源管理、産業機器のセンシング、通信のフロントエンド—どれもアナログ抜きには成立しない。アナログ半導体の過去1年を追うと、米国の政策起点から供給体制の再構築、国内の歩幅調整、日系の連携強化、米国での増産・拠点再編までが連鎖している。

本稿は米国Texas Instrumentsの増産に伴うアナログ半導体の現状と、それがアナログ供給網の再編と国内外企業にどのような影響を与えるかを、考察する。

政策と需給の現状

まず政策面の起点は2024年12月20日。米商務省はTexas Instruments(TI)に対し、CHIPS法の直接支援として最大USD1,610,000,000の助成を発表した。対象はテキサス州2拠点とユタ州1拠点で、いずれも成熟ノードを含む「基盤半導体」の米国内生産能力を増強する枠組みである。アナログの長期供給(10年以上)を国内生産で支える方向性が、この時点で明確化した。

一方、需給面では2025年1月7日、ルネサスエレクトロニクスの人員削減検討が報じられた。背景には非AI分野(車載・産業など)の在庫調整と需要回復の遅れがある。さらに2025年1月16日には中国商務省が米国製の旧世代半導体に対する反ダンピング・反補助金調査を開始。パワーやアナログを含む低価格帯の半導体が対象とされ、通商面の新たな不確実性が顕在化した。政策による国内回帰の後押しと、地政学による調達条件の変動—年初に立ち上がった二つの“力”が、その後の意思決定を規定した。

日本国内の製品ライン強化

2025年4月は、旭化成エレクトロニクス(AKM)によって日本国内の“技術の芽”が連続した。2025年4月11日、AKMは、EVのトラクションインバータ向けコアレス電流センサICの2025年Q3サンプル開始を告知。コアレス構造は小型化と応答性向上に寄与し、車載電流検出の設計自由度を高める。続く2025年4月16日には、環境発電(エナジーハーベスティング)向けの充電制御ICで量産開始を発表。電源ICとセンサICというアナログの要所を国内で磨き続けることで、試作・評価のリードタイム短縮と知財の蓄積が進む。

サプライチェーン近接性は調達リスク低減だけでなく、設計段階の最適化スピード(試作→評価→改良の周回速度)にも直結する。この二つの発表は、日系が“厚みのあるアナログ品種”を国内に持ち、世界市場で競争力を保つための下地づくりと言える。

歩幅調整:国内投資の“歩幅調整”

同じ4月でも下旬は投資の“歩幅調整”が目立った。2025年4月24日、ルネサスエレクトロニクスは決算説明で甲府工場(300mmのパワー半導体ライン)の量産開始時期について「期限を定めず慎重目線を維持」と説明した。年初の在庫調整や需要の戻り具合を踏まえ、固定費の先行負担を避ける判断である。

年初の人員面の報道と整合的に、キャパシティの立ち上げ時期を市場の回復に同期させる姿勢が明確になった。パワーやアナログは認定プロセスが長く、立ち上げ後の稼働率低下は直ちにコストに響く。ゆえにLTA(長期供給契約:複数年で供給・価格・品質を定める枠組み)の数量・価格・優先供給条項や価格スライドの設計を、顧客側と“景気循環を前提にした契約設計”として見直すことが、国内供給力の持続性を高める実務である。

デンソーとロームが手を組む

2025年5月8日、デンソーとロームは「半導体分野における戦略的パートナーシップ」に基本合意した。連携の中心はアナログIC。EVの電源変換(オンボードチャージャや補機)やADAS、ボディ制御など、車両システムの要所に散在する膨大なアナログ群を、システム視点で最適化する。

ロームのデバイス技術とデンソーのシステム設計力の重ね合わせにより、製品ラインアップの補完、設計段階からの品質・電磁両立性(EMC)最適化、出荷平準化、認定プロセスの共有化が可能になる。アナログは“単品の良さ”だけでは価値が出にくく、電源・熱・ノイズを含む全体設計が歩留まりと信頼性を左右する。だからこそ、設計と供給を“面”で結ぶ連携は、長期供給(10年超)を前提とする車載の現場に最も適う。資本関係の強化も視野に、需給のブレに強い供給力を国内に根づかせる意義は大きい。

米国のメガ投資と拠点再編

年半ば、米国では“量の再配置”が一気に進んだ。2025年6月18日、TIは米国内でのアナログ/組み込み製造強化に向け、総額USD60,000,000,000超の投資計画を発表。テキサス州シャーマンの新棟群(SM1は2025年内開始予定、SM2建設中)に加え、ユタ州レハイやテキサス州リチャードソンの既存拠点も含め、300mm(12インチ)対応を複数拠点でそろえ、同系統プロセスの標準化と単一拠点リスクの低減を狙う。ここで2024年12月20日のCHIPS支援発表と合わせ、政策資金と自己投資が“基盤半導体の内製回帰”を後押しした事実が並んだ。

同年6月30日には、SkyWater TechnologyがInfineonのテキサス州オースティンの200mm工場(Fab 25)買収完了を発表。両社は長期供給契約を結び、ファブを“オープンアクセス型ファウンドリ”として運営する。130〜65nm級の基盤ノードで産業/車載/防衛用途を支える受託製造を拡充し、IDM(垂直統合型半導体)の自社工場をオープン化して“残す”スキームを示した。200mmの再編(オープン化)と300mmの増産(平準化)が並行することで、アナログ供給網の冗長性と切替可能性が底上げされる。

次の需要回復局面で差を生むのは、設計・契約・拠点の三位一体に対する理解度

この一年は、政策支援(2024年12月)→需給と通商の揺らぎ(2025年1月)→国内の製品ライン強化と投資調整(2025年4月)→連携強化(2025年5月)→増産と拠点再編(2025年6月)という一本の線でつながる。いま、自社のBOM(部品表)はどこで止まり得るか。要点は三つに絞れる。

拠点:300mm/200mm、米/日、IDM/ファウンドリ/後工程受託(OSAT)の冗長経路は可視化できているか。契約:LTA(長期供給契約)に数量・価格・優先供給・製品終息(EOL)通知を明文化しているか。運用:共通試験仕様で前倒し認定を行い、在庫とLT(リードタイム)に合わせて需給調整計画(S&OP)を更新し、RTO(目標復旧時間)を管理しているか。次の需要回復局面で差を生むのは“即時対応”ではなく、この三点に対する理解度と対応の深さなのだ。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
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