医療画像・生体信号の解析にAIを用いる「医療AI」は、CT・MRI・超音波・内視鏡といった装置の端末に搭載されている段階に入っている。
この潮流を牽引しているのが、装置メーカー(富士フイルム、GE HealthCare、キヤノンメディカルなど)と半導体企業(NVIDIA、アナログ・デバイセズ、テキサス・インスツルメンツ等)の協業である。センサ・アナログICからAIが予測や判断、結論を導き出すことを担う複数の機能を1つの半導体チップに集積したSoC/GPUまで、低ノイズ・高速・省電力を同時に達成する設計トレンドが急速に具体化している。
本稿では、医療AIが半導体のニーズをどう変えるのか、画像診断装置メーカーと半導体企業の協業を軸に考察する。
装置メーカーと半導体の協業の具体例
まずは、以下に装置メーカーと半導体の協業の具体例を示す。
1.GE HealthCare とNVIDIA
GEから独立した医療技術企業であるGE HealthCareは、X線や超音波の自律化(撮影位置合わせ、品質チェック等)の開発にNVIDIAの「Isaac for Healthcare」や「Holoscan/IGX」の活用を発表。ロボティクスと画像再構成の融合により、撮影ワークフローの自動化を狙う(2025年3月発表)。さらにGEは2024年にIntelligent Ultrasoundの臨床用AIソフト事業を買収し、超音波領域のAI強化を進めている。
2.キヤノンメディカル とNVIDIA
キヤノンメディカルとNVIDIAは、ディープラーニング研究インフラの共同開発・販売で連携。研究〜実装までの実験速度を上げる基盤整備を進め、国内装置メーカーの“AI内製化”を後押ししている。
3.MedtronicとNVIDIA
医療機器メーカーのMedtronicは、AI搭載の大腸内視鏡検査システム「GI Genius」にNVIDIAの「NVIDIA IGX」と「NVIDIA Holoscan」を採用。リアルタイム内視鏡AIの実運用例として、医師の視認性とワークフローの改善を目指す。
4.富士フイルム(CAD EYE)
富士フイルムは、上部消化管病変のリアルタイム検出を支援する「CAD EYE」の新バージョンを発表した。

医療AIの現場KPIは遅延の改善
医療AIの現場KPIは、遅延(レイテンシ)の改善である。NVIDIAの技術資料では、Holoscanベースの高速パイプラインで4K/240Hz映像をエンドツーエンド約10ms、IGX Orin開発環境で15本のAIビデオストリーム+30モデルの同時実行のデモを示している。内視鏡・術中ナビ・ロボティクスでは、50ms以下が体感閾値になるケースが多く、SoC/GPUは(1)大容量メモリ帯域、(2)マルチストリーム処理、(3)セキュアI/Oを満たす必要がある。
さらに医療機器ではライフサイクルの長さや品質管理(長期安定供給、ソフト更新の検証容易性)が要求され、“設計後の運用”まで含めたプラットフォーム性(SDK、ドライバ、長期サポート)が評価の鍵になる。
各デバイスメーカーの状況
リアルタイムAIの性能は、入力信号のS/Nで決まる。超音波やX線・CTでは、微小信号の忠実取得がAI精度のボトルネックになりやすく、AFE/ADCの選定が重要になる。以下で各デバイスメーカーの状況を示す。
- テキサス・インスツルメンツ(TI)の超音波AFE「AFE58JD18」は16ch構成で0.75 nV/√Hzという低ノイズ、約140 mW/chの電力を実現している。世代違いの「AFE58JD28」では14-bit/65MSPS or 12-bit/80MSPS ADC等の具体値が公開されており、携帯型〜ハイエンドまでの処理に対応できる。
- アナログ・デバイセズ(ADI)は、デジタルラジオグラフィやCT向けに高ダイナミックレンジADCを中核とする医療画像用信号チェーンを展開。短時間撮影×被ばく低減と画質向上を両立するため、広いダイナミックレンジと高精度が求められる設計要件が強調されている。

モダリティ別の半導体要件の“実務ベンチマーク”
以下の表にモダリティ別の半導体要件の“実務ベンチマークをまとめた(数値は代表的な公開仕様・技術資料に基づく目安)。

AI実装込みの優れた製品の土台を提供する好機

このような医療AIの進化は、日本発のセンサ・アナログICメーカーにとって、低ノイズ×省電力×多チャネルに加えて、AI実装込みの優れた製品の土台を提供する好機だと言える。「計測×AI」を同梱し臨床KPI(検出感度・特異度、ワークフロー時間)で価値を作り出せる半導体企業が、次の標準を作るのだ。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- GE HealthCare and NVIDIA reimagine diagnostic imaging with autonomous X-ray and ultrasound solutions(GE HealthCareニュースリリース)
- NVIDIA と GE HealthCare が協力し、フィジカルAIを活用した自律型画像診断の開発を推進(NVIDIA Japan Blog)
- NVIDIA がHoloscan搭載 NVIDIA IGX向けのエンタープライズソフトウェアサポートを発表(COMPUTEX 2024プレスリリース)
- NVIDIA Clara Holoscan SDK により、AI 医療機器の超高速フレームレートを実現(NVIDIA 技術ブログ)
- NVIDIA、医療機器やデバイスのリアルタイム センシングを可能にする Holoscan の取り組み(NVIDIA Japan Blog)
- GEヘルスケア、Intelligent Ultrasoundから臨床用AIビジネスを買収(GEヘルスケア日本ニュース)
- AI技術を活用した内視鏡診断支援機能「CAD EYE」新バージョン提供開始(富士フイルムメディカル ニュースリリース)
- AFE58JD18(16ch超音波AFE、0.75 nV/√Hz、約140 mW/ch)(Texas Instruments データシート)
- AFE58JD28(16ch超音波AFE、14-bit/65MSPS or 12-bit/80MSPS)(Texas Instruments データシートPDF)
- Medical Imaging Solutions(Analog Devices ソリューション概要)
- High-Performance Data-Acquisition System Enhances Images in Digital Radiography(Analog Devices 技術記事)