グローバルな半導体需給の緊張が続く中、台湾政府は TSMC への過度な依存からの脱却を図るため、新たな一手を打ち始めた。2024年末に公布された「半導体 S‑TEAM 計画」の第 2 期は、これまでTSMC 主導で築かれてきた台湾の半導体産業構造を、より多様で幅の広い形へ転換しようとする動きを象徴するものである。
中でも注目されるのが、地方都市や中堅ファウンドリ企業、設計ハウスに対する支援強化。これまで表舞台に出ることの少なかった企業や地域が、新たな産業エコシステムの担い手として期待されているのだ。
本稿では、PSMC、UMC、VIS といった中堅ファウンドリ企業の動き、そして台中・台南など地方都市における人材・研究機関の拠点整備を中心に、台湾政府の戦略を読み解く。あわせて、日本の装置・材料ベンダーにとっての新たな連携チャンスについても考察する。
S‑TEAM 計画第 2 期の全体像―「中堅企業を支える国家戦略」
2024 年末に発表された「半導体 S‑TEAM 計画」の第 2 期は、台湾がこれまでの TSMC 偏重体制から脱却するための中期的な産業再構築政策である。
S‑TEAM とは「Semiconductor Team Taiwan」の略称で、もともと人材育成と中小企業の技術底上げを狙ったプログラムとして始まった。第 2 期ではこれをさらに進化させ、装置導入や施設整備を含めた包括的な設備投資支援へと広がりを見せている。
特に中堅ファウンドリや設計中心企業を対象とした設備導入支援は、補助率 30〜50%程度と見られ、一定の資本投下を促す設計となっている。
また、単なる金銭的補助だけでなく、地方大学や研究機関との連携によるイノベーション創出、技術人材の定着といった中長期的な視点での支援も盛り込まれている。
これにより、TSMCとは異なるスケールと柔軟性を持つ中小型の半導体プレイヤーが、着実に自律性を高めることが期待されている。
TSMC 以外の選択肢──PSMC・UMC・VIS の競争力拡大
政府支援の恩恵を最も受けると見られているのが、TSMC に次ぐ地位を持つ PSMC( Powerchip Semiconductor ManufacturingCorporation)、UMC(United Microelectronics Corporation)、そして VIS(Vanguard International Semiconductor)である。
これらの企業は、いずれも成熟ノードや特化型プロセスに強みを持ち、TSMC が注力する最先端ノードとは異なる領域で重要な役割を担っている。
たとえば、PSMC は、現在日本・宮城県での 12 インチファブ建設計画を進めており、台湾政府と補助金に関する協議を行っている。
UMC は、シンガポールおよび台湾国内での生産能力拡張に取り組んでおり、2025 年には月産 3 万枚の増強を計画している。特に28nm などの成熟プロセスに対する需要が安定していることから、リスク分散と生産力強化の双方を見据えた戦略が読み取れる。
VIS は、車載半導体分野での需要増に応えるかたちで、NXP との合弁による 12 インチファブをシンガポールに建設中。総投資額は78 億米ドルに上り、2027 年の稼働を目指している。
これらの動きは、単に TSMC を補完する存在にとどまらず、独自の事業戦略を持った中堅企業として、それぞれの分野で国際的な競争力を高める試みといえるだろう。
「地方から始まる変化」──台中・台南で進む人材育成と拠点整備

台湾政府は、産業の地理的集中を緩和するため、地方都市での人材育成と研究開発のインフラ整備にも注力している。台中と台南にある科学技術園区では、すでに大学や研究機関と連携した R&D センターの設置が進行中である。
台南科学園区には、TSMC が次世代の 2nm プロセスに対応した研究・量産施設が建設中であり、それを取り巻く形で周辺企業や研究機関も集積している。
また、台中では装置・材料分野の企業との連携を前提とした教育機関との協業が拡大しており、特に半導体装置保守や材料開発の実務教育が強化されているのだ。
台湾の変化は日本にとっても、変わるべきタイミング

台湾が TSMC 一強体制の見直しに着手したことは、単なる政策転換ではない。それは、半導体産業という国家の根幹を、より多様で持続可能な構造に変えていこうとする意志の表れなのだ。
S‑TEAM計画の第 2 期が象徴するのは、中堅ファウンドリや設計企業への眼差しの転換であり、地方都市への人材・研究拠点の分散でもある。
こうした構造変化のなかで、日本の装置・材料ベンダーや地場企業にとっても、TSMC との大型案件とは異なる形で、リアルな協業の機会が広がりつつあると言える。量よりも密度を問われる現場、短納期や多品種少量といった中堅企業特有のニーズ。それらに向き合える日本企業の技術や対応力が、まさに今、求められ始めているのである。
日台の協業は、もはや「TSMC との関係」だけでは語れない。地に足のついた中堅支援こそ、次の 10 年を支える半導体産業の新たな土台となるだろう。台湾の変化は、日本にとっても、変わるべきタイミングを静かに告げているのだ。
TMH 編集部 坂土直隆