2025年10月8日、福岡マリンメッセA館・B館で「第2回 九州半導体産業展」が開幕した。
昨年の初開催から規模を倍増し、来場事前登録者数は1万人を突破。同時開催の「九州次世代物流展」とあわせ、九州全域が一体となって「新生シリコンアイランド九州」への歩みを加速させる象徴的なイベントとなった。
テープカットに立ち会ったのは、自由民主党 半導体戦略推進議員連盟 名誉会長 甘利 明 氏、熊本県知事 木村 敬 氏、福岡県副知事 大曲 昭恵 氏をはじめとする政財学界の代表者たち。
開会セレモニーでは、九州大学名誉教授であり、実行委員長を務める安浦 寛人 氏の「九州が一つに」というメッセージを皮切りに、熱気に包まれた2日間が幕を開けた。
シリコンアイランド再生への確かな手応え
熊本・菊陽町におけるTSMC日本法人(JASM)第1工場の稼働、第2工場の建設決定に続き、三菱電機のパワー半導体新棟(約1,000億円投資)竣工、アムコーテクノロジー(Amkor)による国内初R&D拠点設立(福岡)など、九州の地ではここ数年で半導体関連の動きが急加速している。
木村知事は挨拶の中でこう述べた。
「TSMC進出を契機に、九州一円で産業集積が進んでいます。しかし、九州全体が一丸とならなければ、世界には勝てません。台湾が島全体で人材育成に取り組むように、九州も一つになって人材を育てていく必要があります。」
この発言は、単なる地域振興を超えた「九州モデル」の提唱といえる。熊本のみならず、福岡・長崎・大分・宮崎といった各県が、それぞれの得意分野——後工程、装置、材料、教育——を結び合わせ、九州全体が一つの半導体エコシステムとして機能する構想が現実味を帯びてきた。
福岡から世界へ:リスキリングと後工程の戦略拠点
福岡県副知事・大曲昭恵氏のスピーチでは、「人材」と「後工程」という二つのキーワードが強調された。
福岡県はすでに2023年に福岡半導体リスキニングセンターを開設。これまでに全国41都道府県から約15,000名が受講しており、教育拠点としての地位を確立しつつある。
さらに、2024年8月には「福岡超集積半導体ソリューションセンター」を開設。後工程・パッケージングの高度化を支える研究拠点として、日本全体のサプライチェーン強化にも貢献する。
この動きは、「設計から製造、実装まで九州で完結する」という長年の夢を現実に近づけるものだ。
「県内には約400の半導体関連企業が集積し、今回も23社が出展しています。ぜひこの技術力を肌で感じてください」と大曲氏。
その言葉通り、福岡ブースにはAI検査装置や後工程自動化ロボティクスなど、実用化目前の先端技術が並んだ。
「半導体を制する者は世界を制す」——甘利氏のメッセージ
開会式の空気を一変させたのは、自由民主党 半導体戦略推進議員連盟 名誉会長 甘利 明 氏のユーモアを交えた力強いスピーチだった。
「半導体を制する者は世界を制する。これを永田町で一番最初に言いました。
だから失敗したら、一番最初に生卵をぶつけられる役です。卵は無駄にせず、食用で使っていただきたい(笑)。」
会場に笑いが起きたあと、甘利氏は真剣な眼差しでこう続けた。
「再び“シリコンアイランド九州”を構築し、日本の産業の礎を取り戻す。そのためにこの展示会の成功は欠かせない。」
この一言に、現場の技術者や経営者たちの心が熱を帯びた。
九州はもはや「地方の拠点」ではない。世界の半導体供給網の要衝として、国の産業戦略の中心に位置づけられている。
半導体×物流——九州が描く新しいサプライチェーン
今回の展示会のもう一つの特徴は、「九州次世代物流展」との同時開催だ。
半導体製造拠点の急増に伴い、部品・材料・装置の物流効率化は喫緊の課題。
A館とB館をまたぐ展示構成は、まさに「モノづくり」と「モノの流れ」を一体的に捉える意図を示していた。
福岡港から熊本への輸送ルートを想定した「低振動物流システム」、AIによる輸送経路最適化ツールなど、半導体サプライチェーンの裏側を支える技術も多数展示。
この連携が九州全域に広がれば、「製造・物流・教育」が三位一体となる新九州モデルが完成するだろう。

未来への布石:九州発・日本再興のリアル
九州半導体産業展は、単なる技術展示ではない。
それは、地域から始まる日本の再興ストーリーを象徴するプラットフォームだ。
安浦実行委員長は開幕挨拶でこう述べた。
「九州の半導体を中心とする新しい産業の発展に、この展示会が大きく寄与することを願っております。」
その言葉の通り、展示会場には大学・自治体・企業が一堂に会し、「半導体を通じて九州が一つになる」というメッセージを体現していた。
福岡の研究者、熊本のエンジニア、長崎の物流担当者、大分の装置メーカー——それぞれの専門領域が交差し、“地域連携”が“技術連携”へと進化する瞬間を、この展示会は確かに映し出していた。
<来賓スピーチ要約>
九州半導体産業展実行委員会 実行委員長
九州大学 名誉教授 安浦 寛人 氏
皆様方のご協力に心より感謝申し上げます。
昨年は九州半導体産業展のみでB館だけの開催でしたが、今年はA館・B館両方を使用することとなりました。
昨年の来場者は7,000人と想定を上回る規模でしたが、今年はすでに事前登録で1万人を超えております。
九州の半導体を中心とする新しい産業の発展に、この展示会が大きく寄与するものと願っております。
皆様方のご協力に改めて感謝申し上げます。
自由民主党 半導体戦略推進議員連盟 名誉会長
衆議院議員 甘利 明 氏
おはようございます。半導体戦略推進議員連盟を作った当事者の甘利明でございます。
「半導体を制する者は世界を制する」——永田町で最初に発言したのは私です。
ですから、もし失敗したら最初に生卵をぶつけられるのは私になります(笑)。
卵は無駄にせず、ぜひ食用として使っていただきたいと思います。
それほどまでに、半導体は国家戦略の根幹です。
「シリコンアイランド九州」を再構築するために、必ずこの取り組みを成功させなければなりません。
本日の展示会の開催、誠におめでとうございます。
熊本県知事
木村 敬 氏
皆さん、おはようございます。熊本県知事の木村敬でございます。
本日、第2回九州半導体産業展、そして第1回九州次世代物流展が無事開催されましたことを、心よりお祝い申し上げます。
TSMCの進出を契機に、今、九州一円で半導体産業の集積が進んでおります。
熊本ではTSMC日本法人JASMの第1工場が昨年12月に本格稼働し、今年中には第2工場の建設が始まる予定です。
また、ソニーセミコンダクター、東京エレクトロン、そして先週竣工した三菱電機のパワー半導体新棟など、力強い動きが次々と続いております。
しかし、九州全体が一丸とならなければ、このチャンスを日本全体の力に変えることはできません。
台湾が島全体で人材育成に取り組むように、九州も「産・学・官・金」が一体となって新しいシリコンアイランドを創り上げていく必要があります。
本展示会を契機に、九州がさらに強く結束していくことを期待し、心からお祝い申し上げます。
福岡県副知事
大曲 昭恵 氏(服部誠太郎知事 祝辞代読)
皆さん、おはようございます。福岡県副知事の大曲でございます。
本来ならば服部知事が出席するところでしたが、急用のため私が代読いたします。
九州半導体産業展が昨年に続き福岡で開催されますことを、大変嬉しく思います。
福岡県では2023年に「福岡半導体リスキニングセンター」を開設し、全国41都道府県から約1万5,000人の技術者が受講しています。
さらに、後工程分野の高度化を目的に、2024年8月に「福岡超集積半導体ソリューションセンター」を開設いたしました。
県内には約400の半導体関連企業が集積しており、今回23社が出展しています。
この展示会を契機に、福岡・九州・そして日本の半導体産業がますます盛り上がっていくことを心より祈念いたします。
本日は誠におめでとうございます。