インドはここ数年、Tata Electronics や Sahasra などによる製造施設誘致を通じて「ファウンドリ国家」への道を歩んできた。しかし、2024 年末の「Design Linked Incentive(DLI)」制度改定を契機に、インドの半導体政策は明確に「設計主導」へとフェーズを移している。
これにより、EDA ツールや設計 IP、ファブレス企業を対象とする支援が強化され、インドは設計エコシステムの中核を担う存在へと進化しつつある。この動きは、日本を含む国外企業にとっても、新たな市場参入と協業として、その扉を開いていると言える。本稿では、「製造大国から設計大国」へ変貌しようとしているインドの半導体業の実情を紹介する。
制度、資金、連携──設計支援の三本柱
1.制度──DLI 制度の設計支援スキームとは
インド政府が導入した DLI 制度は、半導体設計企業への支援を目的に以下の 3 点を中心に構成されている。
⚫ EDA ツールや IP ライセンス費用の補助
⚫ 設計フェーズにおけるコストの一部(最大 50%)補助
⚫ 事業化後の売上高に基づくインセンティブ支給
2024 年末の改定により、補助対象はインド企業のみならず、現地法人を有する外資系企業やスタートアップにも広がりつつある。
2.資金──新興ファブレス企業の台頭
L&T Semiconductor Technologies のような新興ファブレス企業が台頭し始めている。MEMS やパワー半導体、ミックスドシグナルIC など、設計領域の裾野が広がる中で、こうした企業群は EDA/IPベンダーとの提携を積極的に模索している。
これまで設計機能を国外に依存していたインド国内でも、「自国内で完結する設計力」の醸成が政策目標に据えられており、現地企業との共創が戦略的に求められている。
3.日本との連携──インド進出を支える現地ネットワーク

たとえば、日本企業がインド市場に参入する際、信頼できる現地窓口の存在が不可欠である。ここで重要な役割を果たすのが、JCCII(在インド日本商工会)だ。
JCCII はニューデリーを中心に約 500 社の日本企業会員を擁し、現地政府との政策対話や商習慣のギャップ解消、ビジネスマッチング支援などを行っている。また、SEMICON India などの展示会や業界会合でも、出展支援や通訳・法務面の調整支援を通じて、設計関連企業の現地活動を後押ししている。
さらに、JETRO インド事務所も、インド進出における市場調査や法規制サポート、制度説明会の開催などを通じて、日系企業の活動を後方支援している。
日本発 EDA・IP 企業がインドと「共設計」する未来へ

このように、インドの半導体戦略は、製造だけでなく「設計」を国家競争力の源泉として位置づけつつある。DLI 制度を通じた支援スキームの整備、新興企業への積極的な政策融資、さらに JCCII やJETRO といった現地支援ネットワークの存在は、インドを「外資が設計を持ち込むだけの国」から「共に設計を構築する国」へと変貌させようとしている。
日本の EDA ツールベンダー、設計 IP 企業、ファブレス各社にとって、今まさにインドと「共設計(Co-Design)」する時代が始まろうとしているのだ。
TMH 編集部 坂土直隆