~日印フォーラムで見えた半導体協力の行方~
2025年8月29日、東京で開催された日印経済フォーラムにおいて、インドのナレンドラ・モディ首相と日本の石破茂首相が並んで登壇し、両国の経済協力の未来について語った。会場では、両国の政府・企業によって170件にのぼる覚書(MoU)が締結され、その中でも特に注目されたのが半導体分野での協力強化である。
日本の先端技術とインドの成長市場・人材基盤が結びつくことで、半導体産業とサプライチェーンの地図が今後大きく書き換えられる可能性が高い。本稿では、今回のフォーラムの全体像、半導体分野の具体的動き、そして今後の展望について整理する。
フォーラムの意義と背景
日印経済フォーラムは、両国首脳の直接のリーダーシップのもとで、産業界・学術界・政府機関が一堂に会し、未来の協力関係を議論する場として開催されてきた。今回のフォーラムは規模・内容の両面で過去最大級となり、170件の投資・協力覚書が締結された。
その分野はエネルギー、インフラ、デジタル、スタートアップ支援など多岐にわたるが、最も注目を集めたのが「半導体」と「高速鉄道(新幹線)」である。日本が得意とする先端技術・装置産業と、インドが求める国内製造基盤の構築というニーズが合致し、両国の戦略的な補完関係が鮮明になった。
石破首相は開会にあたり、「日印協力は新たな段階に入った。両国が互いに持つ強みを結集し、未来志向の協力を進めていきたい」と強調。モディ首相も「日本企業にはぜひインドの成長物語に参画してほしい」と呼びかけた。
特筆すべきは、モディ首相が壇上に呼び込まれる際、その案内がグジャラート語で行われた点である。インドの多様性を象徴する言語を通じて、両国の関係が「形式的な外交」ではなく「人と人とのつながり」で支えられていることを印象づけた。

半導体分野の最新動向
今回のフォーラムで発表された覚書の中で、半導体分野に関する協力は特に戦略的な意味を持つ。日印両国はすでに2023年の段階で「半導体サプライチェーン・パートナーシップ」を締結していたが、今回のフォーラムではその協力関係をさらに具体化し、次の5つの重点領域が再確認された。
- 半導体設計分野での協力
- 製造プロセス・工場建設に関する連携
- 装置産業・研究開発における協働
- 人材育成プログラムの共同実施
- サプライチェーンの多様化・強靭化
具体的な動きとしては、以下の協業・提携が進行中である。
- 東京エレクトロンとタタ・エレクトロニクスによる、製造プロセス分野での共同開発
- ルネサスエレクトロニクスとIIT Hyderabad、C-DACとの研究提携(設計・AI応用など)
- HCLとFoxconnによる新規半導体製造拠点の建設計画
- タタグループによるOSAT(組立・検査施設)の整備
これらは単発の投資ではなく、インド国内に包括的な半導体エコシステムを形成する取り組みであり、日本の装置産業・プロセス技術と結びつくことで強力な相乗効果が期待される。

産業界へのインパクト
半導体は「産業の米」と呼ばれるように、スマートフォン、自動車、家電、AI、クラウドサービスなどあらゆる分野を支える基盤である。コロナ禍での供給不足を経験した世界は、半導体の供給網がいかに脆弱であるかを痛感した。
インドは若い人口と拡大する市場を背景に「次の製造拠点」としての存在感を高めている。一方、日本は高度な製造技術と装置供給能力を持ち、加えて品質管理・人材育成における経験を有する。両者が補完し合うことで、サプライチェーンの多様化と強靭化が進む。
さらに、日印両国はアメリカ・オーストラリアとともに“Quad(クアッド)”の枠組みを構成しており、経済安全保障の観点からもこの協力は国際的な意味を持つ。半導体分野における日印協力は、単なる経済的利益を超え、インド太平洋地域の安定に寄与する戦略的協力の一環と位置づけられる。

歴史的文脈と今後の展望
日印関係は長く、第二次世界大戦後の独立支援、ODAを通じた経済協力、新幹線建設やエネルギー開発といった分野を通じて深化してきた。今回のフォーラムは、そうした歴史の延長線上にありながらも、半導体という新たな戦略分野を両国協力の中心に据えた点で、明確な転換点といえる。
今後は、フォーラムで発表された覚書がどの程度実行に移されるかが問われる。製造拠点の建設や人材育成プログラムの進捗はもちろん、研究開発案件が具体的な成果を生むかどうかが、協力の実効性を測る指標となるだろう。
日本企業にとっては、インド市場に深く関与することで、新たな需要獲得と同時に、国際的なサプライチェーン再編の中で主導的役割を果たすチャンスとなる。
結論

今回のフォーラムで発表された170件の覚書は、数量的なインパクトを超え、日印協力が「量」から「質」へと進化することを示している。特に半導体分野における協力は、両国の成長戦略と経済安全保障を結びつける象徴的な取り組みであり、今後のグローバルなサプライチェーン再編においても極めて重要な意味を持つ。
日印関係は、新幹線から半導体へ。両国の協力は今、歴史的な新章に突入したといえる。
📢 参考:モディ首相 東京スピーチ(全文日本語訳)
尊敬する皆さま、そして日本の友人の皆さま、
本日、東京にて日印経済フォーラムに参加できることを、大変光栄に思います。私を舞台に迎えていただいた際、案内が私の故郷の言葉であるグジャラート語で行われたことは、非常に心温まるものでした。
本日、両国の企業の間で数多くの重要な協定が結ばれました。これらは単なる契約ではありません。日本がインドにさらなる投資を行い、共に新たな未来を築こうとする強い意志の表れであり、我々の協力がかつてないほど深まっている証拠でもあります。
私たちは今、強固で信頼できるサプライチェーンを構築するという共通の目標に向かって進んでいます。その中でも特に重要なのは、高速鉄道プロジェクト、そして半導体製造分野です。インドにとっても日本にとっても、これらの取り組みは経済成長の基盤となり、両国の人々に新たな機会と希望をもたらすものです。
ここで、私は日本の産業界に呼びかけたいと思います。ぜひ「Make in India」に参加していただきたい。インドは活力ある若い人材、拡大する市場、そして革新を求めるエネルギーにあふれています。日本の先進的な技術と組み合わされば、両国は世界に新しいモデルを示すことができるのです。
さらに私たちは、インドと日本がともに“Quad(クアッド)”の重要なメンバーであることを忘れてはなりません。我々の協力は、二国間の枠を超え、インド太平洋地域全体の平和と繁栄を支える柱となります。
日本の友人の皆さま、そして世界中の仲間たちへ。インドと日本が共に歩むこの道は、経済だけでなく、信頼、友情、そして未来のための道です。共に力を合わせ、持続可能で強靭な未来を築いていきましょう。
ありがとうございました。
出典