先端ファブの“装置ピーク電力”削減競争――EUV省電力が量産の前提に

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先端ロジックの量産現場では、電力が「コスト」や「CO2」だけでなく、「増産余地(電力枠)」そのものを左右する経営・運用パラメータとして前面に出てきた。結論から言えば、EUV(極端紫外線)露光の省電力は、量産キャパシティを設計するための“設備要件”へ移りつつある。

EUV露光は、装置単体の消費電力が大きいだけでなく、稼働状態の変化に伴う電力の上振れが工場全体の電力設計に影響しやすい。ここで重要なのは、議論の対象が「年間消費電力量(kWh)」にとどまらず、「最大需要(ピーク)」を含む点にある。工場の受電・配電容量、契約電力、増設余地は、ピークを基準に制約を受けるためだ。

そんな中、TSMCは2025年9月2日付の発信で、サプライヤーと連携した「EUV Dynamic Energy Saving Program」を紹介し、2024年の取り組みでEUV装置の瞬間的な電力(instantaneous power consumption)を44%低減したと説明した。さらに2025年9月以降、同仕組みを段階導入し、新設工場の設備仕様における標準構成(standard configuration for all new fab specifications)として位置付けた。

本稿では、このEUVによる省電力が、半導体ファブにおける“電力削減競争”に与える影響を考察する。

「ピーク電力」が先端ファブの“見えないボトルネック”に

工場は受電設備・変電設備・配電容量を前提に設計され、需要家側で計測される最大需要(一定時間平均の需要電力)や契約電力に応じた制約を受ける。このため、半導体ファブの省電力化は年間の総消費(kWh)だけ考えればよいというわけにはいかない。

一方で、装置側の電力は稼働・待機・保全などの状態次第で変動する。TSMCが言う「instantaneous(瞬間的)」の抑制は、この状態遷移に伴う上振れを減らし、工場側の“ピーク要因”を小さくする発想に近い。平均電力の引き下げに加え、状態遷移を含むピーク抑制が量産キャパの実務要件になりつつある。

EUV省電力は「装置内の改善」から「稼働状態の最適化」へ

EUV省電力の手段は大きく二層に分かれる。第一に、装置メーカーが進める“装置そのもの”のエネルギー効率改善である。オランダの露光装置メーカーASMLは2025年の実測値として「NXE:3800Eのwafer pass当たりエネルギー使用量」を5.5kWhとし、2024年(5.9kWh)からの改善と、2025年ターゲット(5.1kWh)を併記している。指標を「原単位(kWh/wafer pass)」で示すことで、スループットや装置構成の違いを跨いだ改善の方向性を示した形だ。

第二に、ファブ側の生産需要に合わせて装置を「賢く落とす/戻す」動的制御である。TSMCは、サプライヤーと連携したEUV動的省エネにより、年間の省エネ効果が装置年消費の8%相当になり得るとし、2024年の取り組みで瞬間電力を44%低減したと説明した。ここでのポイントは、後者が“装置単体”では閉じにくい点にある。待機状態への移行タイミング、復帰時間、ロット投入計画、搬送・スケジューリング、保全計画まで含め、ファブの自動化と結び付く。

CO2だけでなく、スループットと「増産余地(電力枠)」に直結する

1日のうちで電力使用量が最大となる時間帯(ピーク時)の消費電力を抑え、電気料金の基本料金を削減する取り組みである「ピークカット」が量産時に大切になるのは、稼働率とスループットの安定化が重要になるからだ。ピーク要因の大きい装置が増えるほど、工場の同時稼働上限が先に来やすく、計画外停止や立ち上げ遅延後の“取り戻し運転”など、運用上の自由度が下がりやすい。

またASMLは、EUV採用がマルチパターニングからシングルパターニングへの移行を促し、顧客ファブの工程ステップ削減につながり得ると説明している。工程が減れば、露光以外の付帯設備・薬液・搬送まで含めた工場全体の設計自由度が増し、総消費やピーク設計の余地にも影響する。

一方で先端世代では、生産性向上のために光源出力や処理能力を高める方向とも並走する。結果として、「装置性能(スループット)を引き上げるほど、工場側はピーク要因の管理を厳密にする必要が増す」という関係が強まりやすい。省エネは“性能を落として節電する”ではなく、“性能を維持しつつピーク要因を抑える”設計問題として扱われ始めている。

ピークカット前提の調達・立上げへ

TSMCが動的省電力を新設工場の標準構成に据えたことは、装置調達・工場設計のチェック項目が変わる可能性を示す。今後は、装置の定格消費電力だけでなく、以下の要素が設備仕様(スペック)として組み込まれやすい。

・状態遷移ごとの最大需要(ピーク要因)の提示方法

・待機/スリープの仕様と復帰時間(生産計画への影響を含む)

・工場側の自動化システム(MES:製造実行システム等)とのインタフェース要件(動的電力制御の前提)

ASMLも、顧客ファブに設置済みの装置を含め、製品群ごとにエネルギー効率の改善ロードマップを持つとしている。具体策として、スリープモード、高温冷却水、水素再利用などを挙げ、顧客・サプライヤーと協業して実装を進める姿勢を示している。

ピークカットは、電力契約の最適化にとどまらず、「同一インフラで何台まで増設できるか」「増設後に何割の同時稼働を許容できるか」という投資効率に直結する。装置の“省電力機能”は、オプションから前提条件へ移りつつある。

量産能力の設計条件としての重みを増すピークカット

先端ファブの電力は、環境対応の枠を超え、量産のスループットと示している増産余地(電力枠)を左右する競争として扱われ始めた。TSMCがEUVの動的省電力で瞬間電力44%低減を示し、これを新設工場の標準構成として位置付けたことは、ピークカットとは運用を工夫することによって達成することではなく、あらかじめ設備として準備しておくこととなりつつあることを示している。

装置メーカー側も、1ウエハ当たりのエネルギー原単位の改善や、スリープ等の省エネロードマップを示し、顧客ファブとの協業を前提にした実装を進めている。EUV省電力、動的電力制御、設備仕様、ピークカットは、CO2削減のスローガンではなく、量産能力の設計条件としての重みを増している。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。

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