世界の半導体産業は、需要拡大を前提とした「量の成長」から、供給制約と投資選別が収益を左右する局面へ移行している。とりわけメモリ分野では、供給能力を持つ少数企業の経営判断が、市況・価格・顧客戦略に直接影響する構造が強まっている。
この供給主導型の構造を最も端的に示しているのが、韓国半導体産業である。Samsung Electronics(サムスン電子)とSK hynix(SKハイニックス)は、DRAMおよびNANDフラッシュにおいて世界市場の大半を占め、加えてAI向け高付加価値メモリへの集中投資を進めてきた。
本稿では、直近1年の公表データと企業発表を基に、韓国半導体企業の投資・供給戦略が、世界の半導体市場にどのような構造的影響を与えているのかを考察する。技術論ではなく、供給能力、資本投下、製品構成の変化という観点から、市場の力学を読み解く。
メモリ市場は「競争」から「集中管理」の段階へ

世界のメモリ市場は、長年にわたり価格変動の大きい周期産業とされてきた。過剰投資と価格下落、設備抑制と価格回復を繰り返す構造である。しかし直近では、その前提が変わりつつある。
DRAM市場では、サムスン電子、SKハイニックス、米Micron Technology(マイクロン テクノロジー)の3社で世界シェアの9割超を占める。NANDフラッシュでも寡占化は進み、設備投資の意思決定が事実上、数社に集約されている。
この構造下では、各社の設備投資抑制や製品構成の変更が、市場価格に直接影響する。2024年後半から2025年にかけては、AI用途向けメモリへの生産配分が優先され、汎用品の供給は相対的に抑制された。その結果、特定用途向け製品を中心に価格が上昇し、需給はタイトな状態が続いている。
重要なのは、これが単なる需要増加だけで説明できない点である。供給側が投資と生産を管理できる段階に入ったことが、市場の性格を変えている。
韓国企業の投資判断が示す「選別成長」戦略

SKハイニックスは2025年に入り、AI向け高帯域幅メモリ(HBM)を中心とした投資計画を相次いで公表した。先端パッケージングを含む関連設備への投資規模は、10億米ドルを超える水準とされる。
この投資の特徴は、生産量の単純な拡大ではなく、用途を限定した供給能力の強化にある。HBMは汎用DRAMと比べて単価が高く、製造工程も複雑であるため、無制限な増産は行われていない。供給量を制御しながら、収益性を確保する設計が前提となっている。
サムスン電子も同様に、HBMや高付加価値メモリへの比重を高めている。特定顧客向けの認証を通過した製品を中心に出荷を拡大する一方、旧世代品の大規模な設備増設には慎重な姿勢を維持している。
このように、韓国企業の投資判断は「需要があるから増やす」という従来型の論理から、市場構造を見据えた供給制御型の戦略へと移行している。
サプライチェーン全体に及ぶ波及効果

供給主導の構造は、メモリメーカーだけで完結しない。装置、材料、実装、物流といった周辺産業にも影響が及ぶ。
第一に、設備投資のタイミングが読みづらくなっている。大規模な新工場建設よりも、既存ラインの用途転換や限定的な能力増強が中心となるため、装置需要は断続的かつ用途特化型となる。
第二に、材料や部材の採用基準が変化している。高付加価値製品向けでは、価格よりも安定供給や品質管理が重視され、サプライヤの選別が進む。長期取引を前提とした関係構築が不可欠となる。
第三に、地域分散の議論が進む一方で、実際の供給中枢は依然として東アジアに集中している。特にメモリ分野では、短期的に代替可能な生産拠点は限られており、韓国企業の供給判断が国際市場に与える影響は大きい。
注目すべき指標の変化
この局面で重要なのは、単純な出荷数量や市場規模ではない。以下のような指標が、従来以上に意味を持つ。
- 設備投資額の用途内訳(先端向けと汎用向けの比率)
- 製品ミックスの変化(高付加価値品の構成比)
- 主要顧客との長期供給契約の有無
- 供給制約に対する価格転嫁力
これらは決算資料や企業発表から確認できるが、数値そのものよりも変化の方向性が重要となる。売上成長率が鈍化していても、利益率が維持・改善していれば、供給管理が機能している可能性がある。
供給を征する者が市場を左右する時代に

半導体産業は、需要主導の成長モデルから、供給主導の管理モデルへと移行しつつある。その中心に位置するのが、韓国のメモリ企業である。
これらの企業は、技術だけでなく、投資規模、供給量、製品構成を統合的に管理することで、市場の力学そのものを変えている。価格変動は偶発的な現象ではなく、戦略の結果として現れている。
この構造下では、数量成長よりも資本効率と供給統制力が、市場評価を左右する要素となる。韓国半導体産業の動きは、特定の展示会やイベントを超えて、世界半導体市場の構造変化を映す鏡となっている。
参考リンク
SK hynix completes world-first HBM4 development and readies mass production
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