2025年10月7–9日に開催された「SEMICON West 2025(米アリゾナ州フェニックス)」は、前工程・後工程を問わず「装置・センサ・MES(製造実行システム)・アナリティクス(分析)をAPI(窓口や接点)で緩やかに結ぶ」流れをはっきりと示したイベントだった。
会場では、従来のSECS/GEM(装置と上位をつなぐ基本通信)やGEM300(300mm用の一連標準)を土台に、Interface A(SEMI EDA)とEDA共通メタデータ(E164)を活用した高頻度データ配信、レシピ管理・可搬性の強化(E170ほか)、FDC(Fault Detection & Classification)/R2R(Run-to-Run)制御の精度向上、デジタルスレッド/トレーサビリティの拡張——といった、最新のデータ標準とAPIが前面に出されていた。
装置でも、アプライド マテリアルズによる新製品群発表や、NVIDIAによるデジタルツイン/スマートマニュファクチャリングを軸に据えた基調講演など、“データで歩留まりと保全を動かす”現実解が示された。本稿では、最新のデータ標準とAPI、そしてベンダ実装の両輪から、量産ボトルネック(検査・歩留まり・保全)対策の最新動向を整理する。
GEM/GEM300とInterface A(SEMI EDA)

半導体工場の自動化はSECS/GEM(SEMI E5/E30)を共通仕様として築かれてきた。300mm時代にはGEM300(E39/E40/E87/E90/E94など)が投入され、搬送・処理・トラッキング・ジョブ管理までを標準で統一した。ここにInterface A(SEMI EDA)を重ねることで、装置内部の高頻度センサ群を標準化メタデータ(E164)で配信できるようになった。
ポイントは「“どこの装置でも同じ方法でデータを取れる”」ことだ。装置ベンダやファブ間で計測点や命名がバラバラだと、FDC/R2RやAI解析の前処理が膨らみ、立ち上げや横展開が滞ることになる。E164はこの“表記ゆれ”を解消し、ツール間・工場間でデータモデルをそろえる役割を担う。SEMICON Westのセッションでも「オープンプラットフォーム上のデータ駆動意思決定」が繰り返し強調され、EDAを起点としたAPIベースの連結の重要性が強く主張された。
SEMI E170で安全・確実・効率的にレシピ操作を行う基盤仕様を標準化

露光・成膜・エッチング・実装など、レシピ(装置パラメータの集合)は歩留まりを左右する心臓部だ。世代の異なる装置や他拠点へ条件を移す際、レシピ差異の吸収に時間がかかる。ここで効果発揮するのがレシピ管理/可搬性の標準である。
SEMI E170規格は、装置とレシピ管理システム(RMS)の間で安全・確実・効率的にレシピ操作を行う基盤仕様を定義するもの。歴史あるE42(レシピ管理)や、GEM経由のレシピ操作(S7Fx)と組み合わせ、“どの機種でも同じ流儀でレシピを吸い上げ・配布・バージョン管理できる”状態をつくる。これにより、(1)装置横断の可搬化(多世代・多拠点)、(2)改訂履歴の一元管理と権限統制、(3)編集・差分チェック・承認ワークフローの定着、が進み、初期不良やスクラップの回避にも直結する。
「SEMICON West」でも“レシピをソフトウェア資産として扱う”設計思想が共有され、API経由でRMS↔MES↔APC(Advanced Process Control)を結ぶユースケースが議論された。
FDC/R2Rの精度を上げる——E133とE164の“合わせ技”

FDCはセンサートレンドから異常兆候を検知・分類する仕組み、R2Rはロット毎に条件を自動補正する制御技術だ。どちらも“入力データの質と遅延”によって性能が左右される。
- Interface A(EDA)+E164で高頻度・共通メタデータの供給を標準化
- SEMI E133(APCインタフェース)でAPC/R2R/FDC/SPC間のやり取りを規定
この2つは上のような分担で、“早く・同じ形で・確実に”データを流す。結果として、誤検知の低減(過検出・見逃しの双方)、補正の追従性改善、装置間マッチングの平準化を進めることができる。
デジタルスレッドとトレーサビリティ——“止める範囲は小さく、復旧は早く”が実務として可能に
量産において本当に効果があるのは、異常発生時の切り分け速度の向上だ。そこで鍵になるのがデジタルスレッド(設計→製造→検査→出荷までのデータ連結)とトレーサビリティ(来歴追跡)である。
- 基板マッピング(SEMI E142)は、ウエハ/フレーム/トレー等の空間位置と欠陥情報を標準形式で扱う。検査で見つけた欠陥座標を、前工程の処理条件・装置イベントに即時に結び、原因工程の切り分けを速くする。
- 単品トレーサビリティ(SEMI T23)は、デバイスIDの一意化と供給網内伝播の最低要件を定義。OSAT・基板・材料まで“どのロット・どの材料が関与したか”を素早く遡れる。
この2つをAPIでMES/YMS/SCMに橋渡しすると、たとえば不具合ロットの“ピンポイント停止”やリコール範囲の最小化が実現する。SEMICON WestのAI/デジタルツイン関連セッションでも、“設計と製造・検査を同じ語彙で結ぶ”重要性が繰り返された。データが揃えば、“止める範囲は小さく、復旧は早く”が実務として可能になるからだ。
ベンダ事例にみる“API前提”の装置と解析

装置サイドでは、アプライド マテリアルズが10月7日に先端ノード/先端実装に向けた新製品群を発表。プロセス性能の引き上げと同時に、デジタルツインやデータ活用を前提とした開発姿勢を示した。
解析サイドでは、PDF Solutionsが10月1日にExensioのAI/ML統合強化を発表し、FDC・特性・テスト・組立・サプライチェーンを横断するセマンティック統合を前面に出した。現場目線では、EDA/E164で得る共通タグを“そのまま”特徴量・モデル更新パイプラインへ流し込める点が肝で、工場ごとにコードを作り替えずに、パラメータや閾値の差替で横展開できる。
プラットフォーム連結という意味では、SEMICON Westの基調講演でNVIDIAが“AI×フォトリアルなファブ・デジタルツイン”の活用を紹介した。EDAで得る高頻度データと物理シミュレーションの往復で、R2Rの事前最適化、ロボティクス自律化、仮想量産での検証といった“止めずに学習する工場”像が具体化してきた。
こうした動きに共通するのは、“標準+APIで早くつなぎ、上位で学習・最適化する”設計思想である。標準は「装置ごとに違うから時間がかかる」を減らし、APIは「結んだ後の保守・拡張」を容易にする。結果として、
- 立ち上げTAT短縮(レシピ可搬・モデル横展開)
- 歩留まりの底上げ(FDC/R2Rの精度・追従性)
- 保全の前倒し(予兆検知・部材寿命の見える化)
- 停止範囲の最小化(トレーサビリティ迅速化)
が“同時並行”で進む。オープン・ファブは単なるスローガンではなく、標準仕様とAPI設計を積み上げた先にある、日々の実装になりつつある。
装置・ソフト・解析・サプライが同時進行で動き出す「オープン化されたファブ」

これまで考察してきたことを、まとめると次の4つになる。
第一に、E5/E30(SECS/GEM)やGEM300の通信・運転基盤に、EDA(Interface A)+E164(共通メタデータ)を必ずセットで乗せ、データ品質と取得遅延のボトルネックを外すこと。
第二に、E170/E42に基づくRMSとAPIを設け、可搬・差分・権限・承認を仕組み化。多世代・多拠点の横展開コストを常時下げること。
第三に、APC(E133)をオープンな設計にすること。FDC/R2Rモデルを工場横断の共通パイプラインで運用できるよう、タグ体系の統一(E164)とAPI更新手順を整える。
そして、第四にトレーサビリティを最初から織り込むこと。E142(基板マッピング)とT23(単品追跡)で空間・時間・来歴を結び、止める範囲を最小化する。
この4点を“標準+API”で束ねると、歩留まり・保全・検査のボトルネックは同時に縮むことになる。SEMICON West 2025が示したいわゆる「オープン化されたファブ」とは、装置・ソフト・解析・サプライヤが共通の土俵で同時進行することで初めて動き出すのだ。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- Applied Materials Unveils Next-Gen Chipmaking Products to Supercharge AI Performance(2025年10月7日)
- PDF Solutions Announces Next Generation of its Exensio AI/ML Solution(2025年10月1日)
- NVIDIA at SEMICON West 2025(イベント案内)
- SEMICON West 2025 Program(Digital Twin関連セッション)
- SEMI E170 – Specification for Secured Foundation of Recipe Management System(SFORMS)
- SEMI E133 – Specification for Automated Process Control Systems Interface
- SEMI E142 – Specification for Substrate Mapping(欠陥座標・来歴の標準化)
- SEMI T23 – Specification for Single Device Traceability(単品トレーサビリティ)
- SEMI E164 – Specification for EDA Common Metadata(共通メタデータ|Cimetrix解説リンクから差し替え)
- Deloitte|2025 semiconductor industry outlook(2025年2月4日)
- Reuters|Applied Materials to lay off 4% of workforce to simplify operations(2025年10月23日)