2025年9月12日、SK hynixが「世界初のHBM4開発完了と量産準備」を発表した。帯域幅は従来比2倍、電力効率は40%改善──このニュースは単なる製品リリースを超え、AIインフラの制約を打破する技術的転換点として業界に強い衝撃を与えた。
生成AIやHPC(高性能計算)の需要が爆発する中で、演算能力を支える「メモリ帯域」がシステム全体の律速段階となっている。このため、SK hynixが世界に先駆けてHBM4量産体制を整えた意味は大きい。
本稿では、その技術的進化、競争環境、そして日本企業にとっての戦略のヒントを探る。
HBMの進化系譜──HBMからHBM4へ

HBM(High Bandwidth Memory)は、複数のDRAMを垂直に積層し、広帯域・低消費電力を両立させた次世代メモリだ。2015年の初代HBM以降、HBM2、HBM2E、HBM3、HBM3Eと進化し、今回のHBM4で第6世代に到達した。
SK hynixが発表したHBM4の特徴は次の通り。
- 2,048 I/O端子による帯域幅2倍化
- 40%以上の電力効率改善
- JEDEC標準(8Gbps)を超える10Gbps超の動作速度
- Advanced MR-MUFプロセスによる高い量産安定性と熱管理性
これによりAIサービス性能を最大69%向上できると同社は見込む。従来の「GPU強化=性能向上」という構図が変わり、「メモリ性能がAIの限界を左右する」時代が到来したと言える。
AI需要が生み出す「メモリボトルネック」

ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルは、膨大なパラメータを扱うため、GPUの演算力だけでなく「メモリ帯域」と「電力効率」が性能の鍵を握る。近年、NVIDIAのH100やB200といったAI専用GPUにおいてHBM採用が進んでいるが、すでにHBM3では帯域不足や発熱問題が顕在化している。
データセンター運営においても、電力消費は最重要課題だ。電力単価上昇と環境規制強化を背景に、効率改善は顧客要求の中心になっている。HBM4がもたらす性能向上と電力削減は、AIインフラの持続性を支える基盤技術となる。
SK hynix とSamsung・Micronとの開発レース

HBM市場はSK hynix、Samsung、Micronの3社による寡占が続く。
- SamsungはHBM3Eの拡張で市場シェア確保を狙い、AI専用高容量HBMに注力。
- Micronは独自技術を武器にGPUメーカーと緊密に連携し、AI向けDRAM戦略を強化。
- SK hynixはHBM3でNVIDIAの主要サプライヤーとして確固たる地位を築き、今回HBM4で再び先頭に立った。
この開発競争は単なる「性能競争」ではない。NVIDIA、AMDといったGPUメーカーの製品ロードマップと密接にリンクしており、どのメモリメーカーが“次世代AI半導体の標準”を握るかが市場シェアを左右する。HBM4量産を世界初で宣言したことは、顧客信頼を確固たるものにする戦略的勝利と言える。
技術の裏側──MR-MUFと1bnmプロセス
SK hynixは、HBM4で「Advanced MR-MUF」技術を採用した。これはチップ積層時に液状樹脂を流し込み、冷却効率と信頼性を高めるプロセスで、従来のフィルム方式に比べ熱拡散や反り制御で優位性がある。HBMは発熱が最大の課題であり、この実装技術が量産安定性を支えている。
さらに、製造プロセスには「1bnm世代」(10nmクラス第5世代)を採用。極限まで微細化したDRAMセル構造と積層プロセスの組み合わせにより、量産リスクを最小化した。これらは単なるスペック競争ではなく、「どう量産を安定させるか」という実務的課題への回答でもある。
日本企業に広がる商機──材料・封止・テスト

HBM市場拡大は、韓国や米国だけの話ではない。HBMの製造工程には、日本企業が強みを持つ領域が数多く存在する。
- シリコンインターポーザやRDL(再配線):高精細加工技術を持つ日本の材料メーカーにチャンスあり。
- アンダーフィル樹脂・接合材料:熱制御に必須の材料分野で需要増。
- 実装・検査装置:高密度I/Oや広帯域信号を扱うHBMはテスト難易度が高く、精密検査装置の引き合いが増える。
日本の装置・材料メーカーは、HBMサプライチェーンにおける存在感を高める好機を迎えている。今後は「どのファウンドリやOSATがHBM供給に参加するか」によって、日本勢の役割も変化していくだろう。
HBM4が意味する「メモリ中心コンピューティング」
CPUやGPUの性能が伸びても、メモリ速度が追いつかなければシステム全体の効率は上がらない。この「メモリウォール問題」は半導体業界の長年の課題だった。HBM4はその壁を大きく突破するポテンシャルを持つ。
今後のAIインフラは「演算性能」ではなく「メモリ帯域と効率」を基軸に設計が進むだろう。つまり、メモリこそがシステム性能を決定する中核になる時代の到来だ。
HBM4が切り拓く未来は、AI産業の競争地図を塗り替える

SK hynixのHBM4は、単なる技術進化ではなく「AIの成長限界を押し広げる象徴的なマイルストーン」として位置づけられる。Samsung、Micronが追随する中で、同社はAIメモリ分野のリーダーとして地歩を固めた。
日本企業にとっても、HBMエコシステムは新しい成長舞台だ。材料、封止、テストといった周辺分野での強みをどう活かすかが問われている。HBM4が切り拓く未来は、「メモリ中心コンピューティング」によって半導体の設計思想を変え、AI産業の競争地図を塗り替えていく。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク