2025年は、半導体業界にとって「計画」が「実行(Execution)」へと移行した年として記憶されるでしょう。
生成AIブームがインフラ建設の実需へと変わり、HBM(広帯域幅メモリ)や2nm世代ロジックの立ち上げ準備が進む一方で、米中対立を軸としたサプライチェーンの再編は、輸出管理や関税といった制度面でより厳格なフェーズへと突入しました。
本稿では、押さえるべき2025年の主要トレンドを振り返ります。

技術動向:AIインフラの「垂直統合」とメモリの「ロジック化」
技術開発の主戦場は、単体の微細化から、パッケージングとメモリを含めたシステム全体の最適化へとシフトしました。
● HBM4と“AIエコシステムへの組み込み”: SK hynixは3月に世界初となる12層HBM4のサンプル出荷を発表し、9月には社内認証を完了して量産準備に入りました。HBMはAI性能の“上限”を決める要素の一つであり、モデル規模拡大に伴い、メモリベンダーがAIエコシステムの中核パートナーとして位置づけられたことを象徴しています。
● ロジック(2nm/GAA)の進捗: 日本のRapidusは1月に千歳工場(IIM-1)でASML製EUV露光装置「NXE:3800E」の据付を開始し、2025年は立ち上げを現実の工程へ落とし込むフェーズが進みました。加えて、Keysight Technologiesと協業を発表し、2nm GAA(Gate-All-Around)向けの高精度PDK開発に着手しています。
一方、台湾のTSMCは高雄・宝山工場でのN2(2nm)量産に向けたロードマップを堅持し、MediaTekなども9月に2nm設計のテープアウトを計画が報じられるなど、エコシステム全体が次世代ノードへ移行しました。
● 設計・実装の融合: NVIDIAは設計効率化のため、EDA大手のSynopsysに約3,100億円を出資しました。また、三菱電機がAIデータセンター向け光半導体の生産能力を3倍に増強するなど、IOWN構想を含めた光電融合技術への投資も加速しています。
投資とサプライチェーン:インドの台頭と「オンショアリング」の深化
各国の補助金政策(CHIPS Act等)が呼び水となり、製造拠点の分散とブロック化が進行しました。
● インドの躍進: 2025年はインドが前工程・後工程の両面で存在感を増した年でした。Tata ElectronicsとPSMCによるDholeraの前工程ファブ計画が正式発表されました。さらにMicronやルネサス関連(CG Power)の後工程拠点も複数の案件が動くなど、一大ハブとしての地位を確立しつつあります。
● 日米欧の設備投資: 米国ではAmkorがアリゾナ州に最大70億ドルを投じて先端パッケージ拠点を起工し、TSMCアリゾナ工場の前工程投資と合わせて、国内で完結できる範囲を広げる動きが続きました。欧州では、ドレスデンのESMC(TSMC、Bosch、Infineon、NXP合弁)が高層建屋の建築許可を取得し、実建設フェーズに入りました。日本ではRapidusへの追加予算承認に加え、Micron広島工場への最大5,000億円超の支援が報じられました。
● 汎用メモリの供給逼迫: 先端(AI向け)投資が前工程・先端パッケージへ集中する局面では、レガシー製品の供給がタイト化しやすくなります。2025年11月には、Nexperiaを巡る供給混乱を背景に、日産が九州工場と追浜工場で生産調整を行ったと報じられました。
規制と地政学:「制度的な分断」と対抗措置
地政学リスクは、個別の企業制裁から、関税や重要鉱物規制という構造的な対立へと深化しました。
● 米国の対中規制強化: NVIDIAは、米政府から中国向けAI半導体(NVIDIA H20等)へのライセンスが必要になる旨の通知を受けた、と開示しました。また、米商務省(BIS)は中国系AI・半導体関連企業(Zhipu AI等)をエンティティ・リストに追加し、輸出管理による制約を継続しています。
● 欧州・オランダの同調: オランダ政府は4月より半導体製造装置の輸出規制を拡大する方針を示しました。ASMLは中国向け売上の減速を予測しつつも、希土類(レアアース)を含むサプライ面の制約については、在庫・代替調達などで短期に備える一方、長期的には貿易制約の強まりがリスクになり得るとの趣旨を述べています。
● 中国の動向: 中国は国産化(SiCarrier等)を進める一方で、レアアースの輸出管理を強化し、加工・製造に関わる技術などでライセンス管理を拡大したと報じられています。一方で、11月には米中首脳会談を受けてガリウム等の対米輸出について、「停止する措置」を2026年11月27日まで中断すると発表し、硬軟織り交ぜた外交を展開しています。
2026年への展望
2025年後半、業界はAI需要を背景に、設備投資が複数年続く可能性を「スーパーサイクル」を呼ぶ向きもあります。
しかし、Nexperia製品の供給混乱に見られるような地域をまたぐサプライチェーンは、政治・規制・企業統制の変化で途切れ得ます。
今後の半導体業界では、「HBM4やGAAといった先端プロセスの立ち上げ」と、「地政学リスクを前提としたサプライチェーンのBCP(事業継続計画)」の両立が、競争力を左右する鍵となるでしょう。
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