連載:半導体の世界をのぞいてみよう⑨半導体の仕事図鑑:「難しい」は誤解。分業で動く“超チームスポーツ”の正体

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半導体という言葉を聞くと、「理系じゃないと無理」「専門用語だらけで近寄れない」と感じる人が少なくありません。けれど実際の半導体産業は、“一部の天才が孤独に研究する世界”ではなく、多くの役割分担によって進める巨大なものづくりの世界なのです。

しかも、半導体は「作って終わり」ではありません。顧客の要求に応え、契約に従い、安定供給に腐心し、たとえトラブルが発生したとしてもラインを止めることなく製造を続ける。こうした“ビジネス側の難所”を越えて、はじめて社会に届く部品になるのです。

まずイメージしやすい仕事から:営業・マーケ・調達・法務で「価値を形にする」

半導体の価値は、技術そのものだけでは決まりません。顧客が欲しい形に整え、条件を合意し、継続して届けられて初めて“製品”として成立します。

・営業(技術を「条件」に翻訳して合意を作る)
営業は雑談で売る仕事ではなく、「要求を正しく整える」仕事です。
主な成果物(例):仕様合意、変更管理、納期・価格条件、一次窓口の整理
仕事の例:
• 顧客要求(性能・品質・納期・価格)を整理し、社内へ正確に伝える
• 仕様変更時に、設計・工程・テスト・在庫への影響を確認して合意を作る
• 不具合時に技術部門の動きを整え、顧客説明の筋を通す
(企業例:ルネサスエレクトロニクス、ローム、ソニーセミコンダクタソリューションズ、キオクシア など)

・マーケ/製品企画(「作るべきもの」を決め、勝ち筋を設計する)
「何が売れるか」だけでなく、「作れるか」「供給できるか」「差別化できるか」を設計します。
主な成果物(例):製品コンセプト、ターゲット市場、価格帯、供給方針、ロードマップ
仕事の例:
• 用途別の評価軸(車載の長期供給、産業の堅牢性、民生のコストとスピード等)を設計
• 工場キャパや材料制約を踏まえ、“現実的な約束”に落とす

・調達/購買(止めないための「供給の交渉役」)
材料・部材・外注工程が多い半導体は、調達が詰まると生産が詰まります。
主な成果物(例):供給契約、代替認定、変更管理ルール、リスク分散
仕事の例:
• 代替先の確保と、品質条件を満たすための評価・認定の推進
• 価格だけでなく、納期・供給継続・変更通知・緊急時の優先順位を契約に落とす
(調達先の例:信越化学、SUMCO、JSR、東京応化工業、レゾナック など)

・法務/コンプライアンス(「売れる状態」を作る最後の砦)
国際取引が多い半導体では、契約・知財・輸出管理が現実のボトルネックになり得ます。近年は地政学リスクもあり、重要度が上がっています。
主な成果物(例):契約条項、輸出管理判定、知財整理、監査対応
仕事の例:
• 「条件を満たせないから出せない」を防ぐための事前設計
• 共同開発・委託・外注での権利や責任の整理

・SCM(需給・物流:切らさない/持ちすぎないの設計)
主な成果物(例):需給計画、在庫設計、出荷優先順位、供給の見える化
仕事の例:需要変動に合わせた生産計画調整、在庫の持ち方の設計、通関・倉庫まで含めた全体最適

・人事/採用/育成(人が足りない、を仕組みで解く)
採用広報、教育設計、評価制度、オンボーディングなど、“人が力を出し続けられる仕組み”が競争力になります。
主な成果物(例):育成カリキュラム、採用戦略、定着施策、評価制度

ここまでが、いわゆる「工場の外からでも価値を作れる仕事」です。次に、これらの仕事が“どの工程”とつながっているのかを、全体の地図で押さえます。

半導体の仕事を流れで解説:できるまでの流れと主役の入れ替わり

半導体づくりを“仕事”としてイメージしやすくするために、ざっくりとした流れを示します。ポイントは、工程の長さより「工程ごとに主役が入れ替わる」ことです。

• 企画(何を作るか決める)
スマホ向けか、車向けか、AIデータセンター向けか。必要な性能・コスト・供給量の条件を決めます。
主な仕事:製品企画、マーケ、営業、事業企画、調達戦略

• 設計(アイデアを“回路図”にする)
ロジック、電力、入出力規格などを設計します。
主な仕事:回路設計、検証、組み込みソフト、EDA活用、設計環境整備

• 製造(工場で“同じ品質で大量に作る”)
前工程(ウエハに回路を作る)と後工程(切って、つないで、守る)に分かれます。
主な仕事:プロセス、設備、保全、生産管理、品質、環境安全

• テスト/評価(本当に動くか確かめる)
動作確認だけでなく、温度・電圧ばらつき、寿命の見立ても含みます。
主な仕事:テスト開発、評価解析、品質保証、顧客対応

• 出荷・継続供給(欲しいときに届く、を成立させる)
不足すれば製品が止まり、作りすぎれば在庫が重い。供給の設計が重要です。
主な仕事:SCM、営業、契約、コンプライアンス

このように、さまざまな仕事がチームとなって、半導体は作られています。

設計・開発・評価の仕事:最先端は「作る・測る・説明する」の連携

半導体の“最先端”は研究室だけのものではありません。新しい構造・材料・作り方は、設計→試作→評価→改善を高速で回して前に進みます。

・回路設計/検証(“動くこと”を保証する)
速さだけでなく「想定外でも壊れない」「ばらついても動く」を作り込みます。
仕事の例:仕様を設計に落とす/シミュレーションでリスクを潰す/ソフトと合わせて性能を出す

・評価・解析(“なぜそうなったか”を言語化する)
不具合原因が設計か製造か使い方かを切り分け、再発防止へつなげます。理系色は強い一方で、報告書の筋・合意形成・説明の分かりやすさが成果を左右します。

・デバイス/プロセスR&D(作り方そのものを発明する)
ラピダスが2nm世代のGAAトランジスタに関するプロトタイピング(試作の節目)を公表したように、最先端は「試作して測り、動作を確認する」ことが大きな節目です。
ただし、試作の節目は“量産開始”と同義ではありません。歩留まり・再現性・コストの言葉に翻訳し、量産に落とし込むまでが開発の本番です。

・メモリR&D(小さく・速く・省電力を狙う)
キオクシアが3D DRAM実用化に向けた基盤技術を発表したように、メモリ開発は「構造」「材料」「積み方」など多層的です。ここでも“基盤技術”は、工程条件・評価方法・信頼性の作法を整えて量産へつなぐ仕事が続きます。

最先端の現場ほど、「作る」「測る」「説明する」の三点セットが強くなります。技術力に加え、“伝える力”や“合意を作る力”が効いてきます。

工場の仕事:「モノづくり」より「仕組みづくり」

工場の仕事というと「ライン作業」を想像しがちですが、半導体工場の中心は、“安定して同じ品質を出し続ける仕組みづくり”なのです。技術と運用が最も濃く交差する現場でもあります。

・プロセスエンジニア(品質の出方を“条件”で作る人)
仕事の例:データを見て条件を微調整/異常の原因を材料・装置・手順で切り分け/管理方法や手順書を整備

・設備エンジニア/保全(装置を“止めない”設計者)
装置が不安定だと品質が揺れます。
仕事の例:点検・部品交換計画で停止時間を最小化/ログから予兆を拾う/装置メーカーと改善を詰める
(装置メーカー例:SCREEN、Applied Materials(アプライドマテリアルズ)、Lam Research(ラムリサーチ)、KLA など)

・生産管理(工場の“司令塔”)
仕事の例:顧客納期・装置の空き・材料到着を加味して優先順位を決める/仕掛品の滞留を減らし流れを整える

・品質保証(QA:最後に“責任”を持つ人)
品質保証は検査係ではなく、不良を出さない仕組みの設計者です。
仕事の例:出荷判定ルールづくり/是正・再発防止(社内外を含む)/監査・トレーサビリティ対応(車載など)

工場の仕事は「機械を扱う」だけでなく、データを読み、関係者をつなぎ、再現性を作る仕事です。難しそうに見える正体は、地道な改善の積み重ねに近いと言えます。

一般社会と同じ“チームで現場を動かす産業”

半導体は、分業で成り立っている部分が強みでもあるため、市場が何を求めているか探り、営業が条件合意を作り、調達と法務が“売れる状態”を整え、設計が価値を作り、工場が再現性を達成し、品質が信頼を保証し、SCMが止めずに届ける。これが、ビジネスの基本となります。

この中のどれか一つでも欠けると、製品は社会に届くことができなくなります。このように、半導体は“遥かかなたの産業”ではなく、一般の人たちと同じく“チームで現場を動かす産業”なのです。

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