2025年9月16日、GlobalFoundries(GF)のシンガポール工場「Fab 7」が、世界経済フォーラム(WEF)のGlobal Lighthouse Network(GLN:製造業で第4次産業革命をリードする先進的な工場を認定する取り組み)に選ばれた。評価されたのは“導入の数”ではなく“運用の成果”である。現場で走り続けるデジタル施策が、KPIにどう反映できたか、である。
GFはこの拠点で60件超の取り組みを進めており、労働生産性は40%向上、新製品導入(NPI)の試作時間は30%短縮した。本稿では、GFのこれらの取り組みについて、何が功を奏したのかを現場の目線で整理する。
GLN称号ではなく「外部基準」

Global Lighthouse Network(GLN)は、2018年に始まった先進工場の認定制度。2025年9月時点でメンバーは201拠点に広がった。選考の眼目は、生産性、サプライチェーン、顧客価値、サステナビリティ、人材——の5領域での実績だ。
直近の発表では、労働生産性40%増、リードタイム48%減、不良度41%減、エネルギー消費量28%減、サイクルタイム44%減といった改善が並ぶ。GLNは、投資判断や顧客との交渉で使える“対外KPI”——つまり外部基準と言える。
Fab 7の特徴は保全・品質・試作・現場支援を一つの時間軸で進めること

Fab 7の特徴は、保全・品質・試作・現場支援を一つの時間軸で進めていること。
保全は、装置とユーティリティの状態を常時監視し、兆しの段階で手を打つ。計画外停止を減らし、在庫の置き方も無駄が減る。
品質は、工程の途中で“不良の芽”を捕まえることで決まる。後工程に流す前に止めるので、歩留まりの向上とタクトの短縮に効果的だ。
試作(NPI)は、設計修正→試作→評価の往復をデータでつなぎ、無駄な待ちを削る。結果として試作時間は30%短縮できる。
現場支援は、初動の切り分けを標準化し、遠隔で専門家にすぐつなぐ。属人化を抑え、対応が早くなる。
この動きを支えるのがMLOps(学習・監視・再学習・承認・ロールバックの運用手順)だ。更新が滞らないから、効果が続き、積み上がる。こうして労働生産性40%増が実現した。
評価軸“工程”から“ライン”へ切り替える

現場で実務を上手く進めるコツは、評価軸を“工程ごと”から“ラインごと”へ切り替えることだ。複数の工程を同じ時間軸に載せ、一本の流れとして見る。
見るべき指標は以下のとおり。
• フロー:仕掛り(WIP)がどこで詰まるか。搬送の待ち行列はどこか。
• 品質:途中での“予測不良”と、最終の“実測不良”は一致しているか。予測→対策→実績の順で見て、打ち手の因果を確かめる。
• 時間:NPIの“往復タクト”はどこで伸びるか。設計変更(ECO)の反映は遅れていないか。
• 保全:修理時間(MTTR)と故障間隔(MTBF)のバランスは適正か。どの装置から崩れるか。
• 運用:デジタルツールは本当に使われているか。遠隔支援の“一次解決率”は上がっているか。
最初に可視化し、次に標準化し、最後に自動化する。個別最適の小技より、全体の早さと安定性を優先する。
MLOpsで“速さ”と“安全”を両立
また、Fab 7はMLOps設計を取り入れていることも特徴的だ。MLOpsのメリットを以下に取り上げる。
• どのデータを、どれくらいの頻度でとらえるか(ドリフト監視)
• どの条件で再学習を行うか(SLA:サービス品質保証)
• 誰がどこまで変えて、誰が最終承認するか(権限と手順)
• うまくいかなかった時にどう戻すか(ロールバック)
現場ではこのMLOpsをベースに、しきい値など軽微な調整やCoE(優秀な人材やノウハウ)について、製造責任者が実務反映の最終承認を行う。これで“速さ”と“安全”が両立する。
GLNの平均改善値を予算と人材の配分に直結せよ

これまで見てきたように、GFシンガポールの成果は、個々の工程の妙技ではない。保全・品質・試作・支援を同じ時間軸で進め、更新を滞らせない——その設計が数字に表れたのである。
次のアクションは次の3つ。(1)KPIの設計単位をライン合成に切り替える。(2)ユーティリティ/搬送/点検から始め、短期に“面”へ広げる。(3)MLOpsのSLAと権限を先に決め、更新の渋滞をなくす。
来期の投資審査では、各ユースケースが“合成タクトを何%縮めるか”を必ずひも付ける。GLNの平均改善値は、社外が認めた物差しと言える。これを予算と人材の配分に直結させれば、現場のスピードは一段上がるのである。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
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