これが韓国「半導体特区」政策の真価! 龍仁国家産業団地と後工程強化が拓く生成 AI 時代の製造戦略とは

韓国
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2024 年 12 月、韓国政府は京畿道龍仁市を「国家産業団地」に正式指定した。これは、韓国半導体産業の中核を担う構想「半導体メガクラスター」構想の象徴であり、最大 360 兆ウォン(約 40 兆円)もの民間投資を見込む超大型プロジェクトである。

その狙いは、生成 AI や高性能コンピューティングが牽引する半導体市場の変化に即応するため、前工程だけでなく後工程、特に先端パッケージングの産業競争力を抜本的に高めることにある。

本稿では、韓国の国家支援と財閥企業による投資がどのように連動し、どのような技術分野に焦点が当たっているのか、そしてそこに日本の装置・材料企業がどのように関与できるのかを探る。

龍仁国家産業団地:「半導体メガクラスター」構想の中核

韓国産業通商資源部は、2024 年 12 月 31 日、京畿道龍仁市の「龍仁半導体国家産業団地」の造成計画を正式に承認した。これは世界最大規模の半導体製造拠点となる見通しで、以下のような構成が予定されている。
・総敷地面積:728 万㎡(東京ドーム約 150 個分)
・半導体ファブ:6 基
・自家発電施設:3 カ所
・協力企業用地、研究所、インフラを一体整備
・総投資額:最大 360 兆ウォン(サムスン主導)
この団地は、単なる製造基地ではなく、材料開発、人材育成、後工程施設などを包括する垂直統合型のエコシステムで構成されており、韓国政府の「半導体メガクラスター」構想の中核を成している。

政府はこの事業に対して、電力・用水・交通インフラの優先整備、税制・金融支援、各種許認可の迅速化などを通じ、制度面から全面的にバックアップする姿勢を打ち出している。

パッケージング技術を新たな「戦略装備」と位置付ける韓国

韓国政府は 2024 年 11 月、「半導体エコシステム支援強化方案(K-Semiconductor Strategy 2.0)」を発表した。その中では、パッケージングやファウンドリ、装置・材料などの支援強化を明示し、後工程分野での国際競争力確保を国家戦略として掲げた。

民間企業もこの流れを受けて積極的に動いている。特に SK Hynixは、次世代の HBM(高帯域幅メモリ)である「HBM4」とそのパッケージング技術に注力しており、2024 年 4 月には台湾 TSMC との提携を発表。次世代 HBM における 2.5D/3D インターポーザやロジック・DRAM 一体化技術の共同開発に踏み出した。

これにより、SK Hynix は 2026 年以降、AI アクセラレータ用途に向けたロジック×HBM の統合設計パッケージの量産化を目指している。

このように、韓国はパッケージング技術を新たな「戦略装備」と位置付け、設計から後工程までを包含した次世代半導体の製造構造の再構築を進めている。

政府と企業による「共創型」国家モデルを形成

サムスン電子は、今後 5 年間で 500 兆ウォン超の国内投資を予定しており、AI 向けの NPU(ニューラルプロセッサユニット)や先端GAA(Gate All Around)構造による 3nm プロセスの拡充などにも踏み切っている。

SK Hynix も HBM4 の量産、先端パッケージ拠点整備、AI データセンター向けメモリの安定供給に向けた投資を急速に進めており、これらの民間戦略が国家戦略と高い整合性で進行しているのが、最大の特徴だ。

こうした状況下で、韓国では政策主導ではなく、「政府による環境整備」と「企業の機動的な投資」の組み合わせによる共創型エコシステムが形成されつつある。

日本企業が切り拓く「共進」の可能性

韓国の後工程強化戦略は、日本の装置・材料業界にとって脅威であると同時に、大きな機会でもある。とりわけ、生成 AI や高性能計算向けの半導体では、微細化だけでなく、パッケージ全体での熱設計や信号伝送効率など、きわめて高度な実装技術が求められるようになっている。

この領域において、日本企業は依然として強い競争力を保持している。たとえば、エッチングや成膜といったプロセス装置、CMP スラリや封止材などの材料、さらにはパッケージ後工程における検査・計測装置まで、精密性や品質管理において高い評価を受けている。

これらの技術を、韓国の半導体クラスターの一部としてどう組み込んでいくか。そこには「供給業者」としての関与を超えた、戦略的な「共創」の可能性が広がっていると言える。たとえば、韓国の大手半導体メーカーや政府支援プログラムと連携した共同開発、パイロットライン評価、あるいは現地での実証・生産拠点の展開など、日本側からの能動的な接続戦略が問われる、フェーズに入っているのだ。

重要なのは、日本企業がこれまで培ってきた技術力や信頼性を「内向きの蓄積」として維持するのではなく、変化する国際環境の中で「誰とどう組むか」という文脈で再定義することではないだろうか。

韓国の大胆な戦略と迅速な投資に対し、日本企業がその技術力でどこまで補完的に、あるいは協働的に関与できるか。それが、次の 10年の競争優位を左右する鍵になるはずだ。

TMH 編集部 坂土直隆

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