将来の収益増への布石!?――サムスン電子の半導体装置大量売却の裏にある復活への動き

世界の業界リーダー動向
この記事を読むのにかかる時間: 3

サムスン電子は 2025 年 7 月 8 日、2025 年 4〜6 月期の決算速報を発表した。それによると、営業利益は前年同期比 56%減の 4 兆6000 億ウォン(約 4900 億円)となった。減益の主因は、半導体在庫の評価損である。

この評価損には、メモリの棚卸資産評価引当金が一時的な費用として計上され、生成 AI 向け DRAM「HBM(High BandwidthMemory)」の開発が進まなかったことや、ファウンドリ事業の赤字が影響したという。特に HBM 分野では SK ハイニックスに対する競争力の劣位が指摘されており、ファウンドリでは TSMC との技術・収益面での格差が広がっている。

加えて、米中対立の影響によって中国向けの半導体輸出が規制を受け、これにより主力顧客の多くを中国に持つサムスン電子は供給網のリスクが顕在化。これが結果として半導体在庫の過剰を招き、業績に大きな影響を与えたのである。本記事では、この減益を受け、中古装置の大量放出をはじめたサムスン電子の今後の動きを分析する。

1.中古装置の大量放出が活発化

サムスン電子の業績悪化とともに、同社が中古の半導体製造装置を大量に市場へ放出しているとの報道が増えている。特に旧世代ラインの設備や、使用頻度が低下した装置が中心で、市場における中古
装置供給量の急増が注目されている。

中古装置売却の背景には、単なる一時的な資金繰り対応だけでなく、より広範な装置構成の最適化という経営判断があると見られる。財務健全化を図ると同時に、非競争領域の縮小、保守費用の削減、スペースの再活用といった側面も見て取れ、合理性がある行動と言える。

また、米国の規制によって装置の再輸出が難しくなっていることから、保有装置の“再活用”や“処分”の判断が早期に求められた可能性もある。

2.戦略環境そのものの大きな変化

このような動きをよく見てみると、サムスン電子が直面しているのは、単なる在庫評価損ではなく、戦略環境そのものの大きな変化だということがわかる。

HBM 市場では SK ハイニックスが先行し、TSMC がファウンドリで圧倒的な地位を確保している中、サムスン電子は HBM とファウンドリの「両面作戦」という難しい戦略をとらざるを得ない状況になっている。

また、米国による中国への先端半導体・装置輸出規制により、中国市場向けの供給網の維持が困難となり、いわゆる「装置の幽霊在庫」化が進んだ可能性もあるという現実も、サムスン電子にとっては無視できないだろう。こうした装置は稼働率の低下や用途変更の対象となり、結果として大規模な装置市場の再編を迫られるに至っているからだ。

さらに、サムスン電子内での製造技術部門・経営層の再編も進められており、装置資産の「選別と再配分」が中長期戦略として組み込まれていると見られる。

3.「撤退と集中」を裏付ける戦略的判断

中古装置の売却は、表面的には財務リカバリーの手段であるが、サムスン電子にとってその実態は「撤退と集中」を裏付ける戦略的判断の表れと言える。

具体的には、
①汎用品 DRAM の生産設備整理、
②中国市場依存度の高い製造ラインの再構築、
③先端製品(HBM、GAA 構造、3Dスタック技術)へのリソース集中
といった形で、組織全体のリソース配分を見直す動きが進んでいる。

サムスン電子は過去にもリーマン・ショック後や COVID-19 禍において、製造装置やライン構成の大胆な再編を断行し、業績回復につなげてきた。この実績から今回の動きも、これまで同様に不採算装置の除却と、成長領域へのリソース転換を図る長期的ビジョンの一部と捉えるべきであろう。

4.他社の装置取得チャンスと価格動向への影響

サムスン電子が市場に大量の中古装置を放出すれば、装置価格には下方圧力がかかると同時に、装置取得を検討する他社にとっては絶好の仕入れ機会となる。

特に、レガシープロセスを活用する新興国(東南アジア、インド、中東など)のファウンドリ企業にとっては、コストを抑えたライン拡張の好機となる可能性が高い。市場参加者にとっては「高品質な中古装置の一括調達」が実現するタイミングとも言える。

さらに、装置解体・再整備・再設置・物流を担う周辺サービス企業にとっても、取扱量の増加は収益機会の拡大を意味する。グローバル中古装置市場の価格形成や需給バランスにも一定の影響を与えると考えられる。

「選択と集中」戦略で、将来の収益源確保へ

今回の中古装置売却は、サムスン電子が一時的な業績悪化に対応するための単純な赤字対策ではない。

非競争領域を大胆にカットし、成長期待のある先端半導体分野に資源を再集中するという、「選択と集中」の戦略実行なのである。これにより固定費構造を改善し、かつ将来の収益源を育てる布石としての意味合いが強い。

今後、HBM の量産体制確立やファウンドリの黒字化が進めば、今回の装置売却判断がサムスン電子の復活の礎だったと評価される日も遠くないだろう。

TMH 編集部

■参考文献
:日本経済新聞(2025 年 7 月 8 日)「サムスン、4〜6 月営業益 56%減 半導体在庫で評価損」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO89900450Y5A700C2FFJ000/
※注:会員記事の登録、ログインが必要
:Financial
Times(2024 年 3 月)「Samsung and SK Hynix halt 2nd-handequipment sales to China over fears of US backlash」
https://www.ft.com/content/dad99410-1ee8-483d-a455-d21b57543532

TOP
CLOSE
 
SEARCH