SEMICON.TODAY 特別インタビュー 半導体は、世界のエネルギー問題を解決できるか

微細化技術の進展と新たな材料
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──京都発ベンチャーPatentixが挑む「究極の半導体材料」r-GeO₂の可能性

【インタビュイー】 Patentix株式会社 代表取締役社長 衣斐 豊祐 氏
Patentix株式会社 概要
立命館大学発の半導体ディープテック企業。2022年12月1日設立。本社は滋賀県草津市。主力事業は、二酸化ゲルマニウム(GeO₂)を用いた次世代パワー半導体材料の研究開発・製造販売と、研究成果の社会実装。

AIデータセンターの電力消費が急増し、EVの普及が電力インフラを逼迫させ、再生可能エネルギーの普及が求められる今日。「電力をいかに効率よく使うか」という問いは、テクノロジーの最前線に立つ半導体業界に突きつけられた、最大の課題でもある。

しかし、テクノロジーが進化すればするほど、電力需要はさらに加速する。AIの進展は電力消費の爆発的増大を招き、現行の半導体材料では近い将来に限界が来るという見方も広がっている。

その根本的な解決策が、ルチル型二酸化ゲルマニウム(r-GeO₂)という次世代半導体材料にあるかもしれない。京都を拠点に設立されたPatentix株式会社は、この「究極の半導体材料」の実用化に挑む異色のベンチャーだ。代表取締役社長・衣斐豊祐氏に、その技術と未来へのビジョンを聞いた。

第1章 世界が直面するエネルギー問題と、半導体の限界

■ 加速するデジタル化が生む「電力の壁」

ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な普及は、データセンターの電力消費を爆発的に押し上げている。AIモデルの学習・推論に費やされる計算量は指数関数的に増大しており、複数の試算では2030年代に向けて全世界のデータセンター消費電力が現在の数倍規模に膨らむとも言われる。

EVシフトも同様だ。内燃機関から電動モーターへの転換は、電力インフラへの依存度を飛躍的に高める。充電インフラの整備が追いつかない地域では、すでに電力網の逼迫が問題化し始めている。

これらに共通するボトルネックが「電力変換ロス」だ。電力をある形態から別の形態に変換する際に生じるエネルギーの損失は、パワー半導体の性能に直結する。現在主流のシリコン(Si)半導体は物理的な限界に近づいており、次世代のパワー半導体材料への置き換えが急務となっている。

■ 次世代材料の現在地──SiC、GaN、そしてその先へ

次世代パワー半導体材料として注目を集めてきたのが、炭化ケイ素(SiC)と窒化ガリウム(GaN)だ。いずれも従来のSiを大幅に上回る省エネ性能を持ち、EV向けインバーターや急速充電器への採用が始まっている。

さらなる省エネ性能の向上を目指してSiCやGaNをも上回る次世代のパワー半導体材料の研究開発も活発に行われてきた。しかし、酸化ガリウム(Ga₂O₃)やダイヤモンドといった次世代材料は、P型またはN型のどちらか一方しか形成できないという根本的な制約を抱えている。この制約が、究極のパワー半導体デバイス実現への最後の壁となってきた。

第2章 Patentixの登場──r-GeO₂という「究極の答え」

■ P型もN型も、両方できる

「半導体ベンチャーとひと言で言えばそうなんですが、もっと言えば、次世代で最終的な究極の半導体材料を実用化しようとしているベンチャーです。多分、日本最後の成果だと私は考えています」

衣斐社長はPatentixをそう位置づける。同社が注目するのが、ルチル型二酸化ゲルマニウム(r-GeO₂)だ。

r-GeO₂は超ワイドバンドギャップを持ち、省エネ性能に優れた酸化物半導体材料だ。そして、競合する酸化ガリウムやダイヤモンドが苦手とする「P型・N型の両方の伝導」を理論的に実現できるとされている。

P型もN型も両方できる。だからもう、理論的にはトランジスタが作れます。実用化が非常に近いと考えています

トランジスタが作れるということは、スイッチング素子を構成できるということだ。パワーデバイスの根幹を成すこの要素を実現できる超ワイドバンドギャップ半導体は、r-GeO₂だけという可能性がある。これこそが、衣斐社長が「究極の材料」と断言する根拠だ。

■ コスト競争力という「もう一つの武器」

技術的優位性だけではない。r-GeO₂にはもう一つ、産業応用上きわめて重要な特性がある。それが「シリコン基板上に積層できる」という点だ。

シリコン基板は半導体業界で最も安価かつ大量供給されている基盤材料であり、既存の製造インフラとの親和性も高い。r-GeO₂をシリコン基板上に積層できるということは、製造コストを大幅に抑えながら次世代の省エネ性能を実現できることを意味する。

コストの問題がやはり普及にあたってはついて回ります。その点で、r-GeO₂はシリコン基板上に積めるという大きなポテンシャルを持っています

デバイスメーカーからもコストへの強い関心が示されている中、シリコン基板対応という特性は、普及の現実的な道筋を開く可能性がある。

第3章 特許畑から生まれたベンチャー──衣斐社長の創業ストーリー

■ 「日本の技術が、なぜ海外で花開くのか」

衣斐社長のキャリアは、半導体研究者ではなく特許の専門家としてスタートした。大阪の特許事務所を経て大手物流企業の特許担当、そして京都大学発の半導体ベンチャーでの特許業務と、一貫して知財の世界で歩んできた。

その経験の中で、ある問いが胸に積もり続けた。「日本の税収で生まれた研究成果が、なぜか海外のベンチャーで実用化されている」という現実だ。

SiCは京都大学・松波先生の研究が源流でありながら、トップシェアを握ったのは米国のウルフスピード(旧クリー)だった。GaNの基礎研究は名城大学・赤崎先生が切り拓いたが、米国のトランスフォームや中国企業がいち早く製品化し市場を制した。

日本の技術が日本のベンチャーで成功せず、海外のベンチャーで成功している。なぜか日本の技術が応用できていないのは、やっぱり問題があると考えています

前職の半導体ベンチャーでP型形成の壁に阻まれ実用化に至らなかった経験も、その問題意識をさらに深めた。

■ 「もう1回、実用化まで持っていく」

転機は、共同創業者である立命館大学・金子教授から「P型もできる材料を見つけた」という連絡を受けたことだ。r-GeO₂の理論的ポテンシャルを聞いた衣斐氏は、確信とともにPatentixの設立を決意した。

社名の「Patentix」はPatent(特許)とX(無限の可能性)を組み合わせた造語だ。特許畑を歩んできた衣斐社長らしく、技術の社会実装においていかに知財を活用するかという哲学が社名そのものに込められている。

ほとんどの仕事は実用化されてきた。実用化が当たり前だと思っていました。でも半導体業界では研究だけが目的になっている節があった。これではいけない

第4章 社会を変える技術──r-GeO₂が描く未来

■ EVは軽くなり、航続距離は劇的に延びる

r-GeO₂が実用化された場合、最も直接的なインパクトが期待されるのがEV向けパワーデバイスだ。インバーターなど電力変換部品に搭載されることで、変換ロスが大幅に削減される。その結果として、同じバッテリー容量でも航続距離が劇的に伸び、さらに発熱量の減少により部品の小型化・軽量化も実現される。

「航続距離が伸びるだけでなく、軽くなりデザインの自由度も広がる。これはEVの普及にとって大きな意味を持つ」と衣斐社長は語る。

■ データセンターの「熱地獄」を解消する

もう一つの主要な応用先が、AIデータセンターだ。現在のデータセンターでは半導体チップの発熱が深刻な問題となっており、「基板がホットプレート状態になっている」という声も業界から聞こえる。冷却コストは電力消費に匹敵するとも言われ、空冷では追いつかず水冷設備の導入が進んでいる。

サーバ電源の半導体を省エネ性能の高いr-GeO₂半導体に置き換えることで、電源からの熱の発生を抑制できます。

電力消費と冷却コストの双方を削減できるとすれば、そのインパクトはデータセンター運営コスト全体に及ぶ。AIの高度化が続く中で、この解決策の価値は年々高まっている。

■ 「エネルギーロスのない世界」が来たとき

仮にr-GeO₂が世界のパワー半導体の主流となった未来は、どのような姿なのか。衣斐社長はこう語る。

まず快適になっていると思います。余ったエネルギーは他に使われるわけです。皆さんで有効活用されて、より多くの人がより快適に暮らせる──そういう世界になると確信しています

電力変換ロスが劇的に削減されれば、同じエネルギーで動かせる機器や施設の規模が拡大する。それは単にEVの走行距離や冷却効率の問題ではなく、社会全体のエネルギー効率の底上げを意味する。

第5章 世界初の実証──6インチGeO₂ウエハーの誕生

■ 「理論」から「実証」へ

Patentixが現在到達しているフェーズは、シリコン基板上へのr-GeO₂結晶の積層成功だ。デバイス作成はこれからという段階にあるが、材料としての基盤形成という重要なマイルストーンを越えつつある。

そして今回、同社はさらに大きな技術的成果を公開した。世界初となる、二酸化ゲルマニウム(GeO₂)ウエハー基盤の6インチサイズでの開発成功だ。

半導体量産において、ウエハーの大口径化は生産コスト低減と歩留まり向上に直結する。6インチサイズの実現は、r-GeO₂が「研究室の材料」から「産業用素材」へと踏み出す第一歩として、きわめて重要な意味を持つ。

▲ Patentix株式会社が世界初の開発に成功した、二酸化ゲルマニウム(GeO₂)6インチウエハー基盤。青緑に輝くその表面は、次世代パワー半導体の新たな幕開けを告げている。

青緑に輝くその円盤は、単なる材料サンプルではない。電力変換ロスという現代の課題に、日本発の技術で挑む証拠物件だ。

第6章 仲間を募る──Patentixが求める人材

現在、Patentixの従業員数は約13名。研究開発・知財・事務の各分野で積極的に採用を進めている。

研究開発においては、理系バックグラウンドを持ち、成膜(CVD、スパッタリング等)の経験があれば歓迎される。博士号は必須ではなく、社会人ドクターも視野に入れている。求める人物像について、研究チームからはこんな言葉が聞かれた。

今まで常識だと思ってきたことにとらわれず、明日から新しいことにチェンジできる柔軟性が大切です。未踏の材料だからこそ、既存の常識が壁になることがある

事務・管理部門では、会社法に詳しく上場準備・株式管理に対応できる人材を特に必要としている。IPOを見据えた体制整備が急務となる中で、経営管理のコアを担うポジションだ。

現在の採用ページにはポジションが広く掲載されているが、年齢・経歴よりも「柔軟性と実行力」を重視する姿勢は一貫している。次世代半導体の最前線に立ちたい方は、ぜひPatentixのホームページを訪れてほしい。

おわりに──訪れる、別の世界線

エネルギーロスをなくす。それは技術の問題であると同時に、文明の選択でもある。

SiCの研究が日本で生まれながら、その果実を海外に渡してきた歴史を繰り返してはならない。衣斐社長の言葉を借りれば、「日本の税収で生まれた技術は、日本のベンチャーで実用化されるべきだ」。

世界初の6インチGeO₂ウエハー基盤の誕生は、その決意の結晶だ。r-GeO₂が究極のパワー半導体材料として産業に組み込まれた世界では、EVは軽く走り、データセンターは熱を出さず、余ったエネルギーはより多くの人々に届けられる。

その未来を切り拓く技術が、いままさに日本の研究室で育まれている。

取材・文:SEMICON.TODAY編集部

Patentix株式会社 https://patentix.co.jp

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