半導体の工程ガス排出削減で進む実装競争――PFC・NF3・N2O対策と除害装置・代替ガスの最新動向

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カーボンニュートラルを語るとき、半導体業界では再生可能エネルギー調達やPPA(電力販売契約)が話題になりやすい。だが、2025年12月15〜16日に東京で開かれたSEMIのGlobal Executive Summitでは、業界の重点課題として「abatement」「gas substitution」「green materials」「energy」が並び、議論の軸足が工程起点の排出削減へ移っていることが示された。続くSEMICON Japan 2025でも、Samsung Semiconductor(サムスン電子)は代替ガスの量産適用を、ドイツの半導体・ハイテク産業向けソリューション企業DAS Environmental Experts(DAS)はCF4向け高効率除害を訴求した。排出削減は理念論ではなく、装置仕様、処理性能、量産条件を含む実装競争として扱われ始めている。

本稿では、理念論ではなく、装置仕様、処理性能、量産条件を含む実装競争として扱われ始めている半導体の工程ガス排出削減の最新動向を伝える。

前工程の脱炭素は含む排ガス処理の設計と更新にまで踏み込む段階へ

Samsung Semiconductor(サムスン・セミコンダクター)は2026年1月公開のリリースで、工程ガスが自社Scope 1排出の約70%を占めると説明したうえで、同社の大規模統合処理設備RCSの累計稼働数が52基に達し、第3世代触媒の適用でPFC(過フッ素化化合物)処理効率を最大97%まで高めたとしている。加えてTSMCも2025年10月、N2O(亜酸化窒素/笑気ガス)対策として現場の電熱式ローカルスクラバーを改良し、削減率を42%から90%へ引き上げ、新設ファブの標準設計にも組み込んだと発表した。前工程の脱炭素は、調達電力の話だけでは完結せず、サブファブを含む排ガス処理の設計と更新にまで踏み込む段階へ入っている。

この論点はPFCだけに限らない。三井化学は2025年5月のリリースで、NF3(三フッ化窒素)を半導体・液晶製造装置のクリーニングガスとして使用するとした。つまり、PFC、NF3、N2Oはそれぞれ用途や処理条件は異なるものの、いずれもファブの直接排出に関わる工程ガスとして、装置、材料、保全の議論と切り離せない存在になっている。

問われるのは実効DRE

ここで焦点になるのがDRE(破壊・除去効率)である。2025年11月のDASの発表では、独立検証により同社のTILIAシステムがCF4(四フッ化炭素)などで99.9%超のDREを示したと説明された。同時に同社は、SEMI SCCの白書が示す基準として、最低95%超、目標99%超に言及している。処理対象が高GWPガスであるほど、数ポイントの差でもCO2換算では無視しにくい。ファブ側が確認すべき論点は、単純なカタログ値ではなく、代表レシピでの実効DRE、負荷変動時の安定性、保全時の性能低下、二次生成物の管理を含めた運用実績へ移っている。

代替ガスは材料のテーマではなく量産技術のテーマに

もう一つの軸がgas substitution(ガス置換)、すなわち代替ガスへの切り替えだ。サムスン・セミコンダクターは、排出寄与の大きいCF4、CHF3、C4F8を優先対象に定め、材料評価、装置評価、社内ラボ試験、量産ライン検証という段階を経て候補ガスを絞り込んだと説明している。代替ガスは、GWPが低いだけでは導入できない。膜質、選択比、スループット、既設装置との整合、保全性まで満たして初めて量産で回る。このため、代替ガスは材料メーカー単独の開発テーマではなく、装置メーカー、デバイスメーカー、ファシリティ部門を巻き込む実装案件になっている。

実際にサムスンは、C4F8代替のG1ガスを2018年から、CF4代替のG3ガスを2025年から現場適用しているとし、さらにCHF3代替のG2ガスを2026年から適用する計画を示した。G3はCF4比でほぼ100%、G2はCHF3比で約90%のGWP削減効果を見込むとしている。ここで重要なのは、代替ガスが研究段階の話ではなく、すでに一部では量産適用と次段階の展開計画に入っている点である。

KPIは「電力」から「ガス×装置×稼働」へ広がる

周辺プレーヤーの動きも速い。大陽日酸は2025年5月、imecのSSTSプログラムに参画し、環境負荷低減に資するガス技術の共同開発を進めると発表した。SCREENセミコンダクターソリューションズも2025年3月、imecと新たな戦略提携を結び、環境性能に優れた装置開発を加速すると公表している。さらにimecは2025年の解説記事で、リソグラフィ、エッチ、ウエット工程を対象に、実ファブデータとシミュレーションを組み合わせて環境負荷の大きい工程を特定し、改善策を検証していると説明した。排出削減は、EHS部門の報告業務というより、プロセス条件、装置設計、運用データを横断して詰める共同開発テーマへ広がっている。

この変化を生産技術の視点で見るなら、今後のKPIは電力使用量だけでは足りない。レシピ別のガス使用量、ウエハ投入量当たりの直接排出寄与、代表排気条件での実効DRE、除害装置の稼働率、バイパス発生の有無、処理に伴う副生成物、さらに代替ガスへの切り替えに要する評価期間までを一体で見る必要がある。脱炭素の巧拙は、目標値の掲示よりも、排出を工程変数として扱えるかどうかで差がつき始めている。

工程条件と稼働率の両立が次の生産技術競争の一つの分岐点に

半導体のカーボンニュートラルは、再エネ調達だけで語るには難しくなってきている。2025年末から2026年初にかけて見えてきたのは、PFC、NF3、N2Oといった工程ガスへの対応が、除害装置の性能、代替ガスの量産適用、装置更新の優先順位、保全の設計まで含む実務課題として前面に出てきたことだ。

SEMIがabatementとgas substitutionを重点課題に据え、サムスンやTSMCが具体策を示し、装置・ガス・研究機関も開発を加速している以上、今後の競争力は「電力をどれだけ調達できるか」だけでは測れない。排出を見える化し、工程条件や稼働率と両立させながら減らせるかどうかが、次の生産技術競争の一つの分岐点になる。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。

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