半導体不足という言葉は、しばしば最先端プロセスや高性能演算向け半導体を想起させる。だが、2025年後半から表面化した「ネクスペリア・ショック」は、自動車産業のボトルネックが必ずしも先端分野にないことを示した。
問題となったのは、ダイオードやトランジスタなどのディスクリート半導体や電源・保護系部品といった、車載システムを下支えする基礎部品である。これらは単価が低く、技術的には成熟しているが、供給が途切れれば完成車の組み立ては成立しない。
影響は日本の完成車メーカーにも及んだ。Reuters(ロイター)は2025年11月、日産自動車が追浜工場と日産自動車九州で生産調整を実施し、九州では1週間あたり約900台の減産が発生したと報じている。同時期、ホンダも北米工場で生産調整に入ったとされる。
こうした動きと並行して、レアアース(希土類)を巡る輸出規制の強化が続いている。レアアースはEV(電気自動車)用モーターの永久磁石や各種アクチュエータに用いられるほか、半導体製造装置のモーター部材にも含まれる。半導体と鉱物という異なる供給網の制約が、同時に自動車産業を圧迫する局面に入った。
本稿では、2025年後半に表面化したネクスペリア問題を踏まえ、直近1年の事実に基づき、日本の自動車産業にどのような影響が及んだのか、またレアアース規制と重なった場合の論点を考察する。
ネクスペリア問題が提起したのは「技術」ではなく「商流」の断絶

中国Nexperia(ネクスペリア)は、欧州・アジア・米国に生産拠点を持ち、車載向けディスクリート半導体で高いシェアを有するメーカーである。同社が2025年11月に公表した説明によると、問題の核心は技術的な不具合ではなく、中国拠点を巡る統治・管理上の問題にあった。
Bloomberg L.P.(ブルームバーグ)は2025年10月、欧州自動車工業会(ACEA)が、ネクスペリアの中国拠点で生産される部品の輸出凍結により、車載制御ユニット向けの基礎半導体が不足し、生産停止に至る可能性があると警告したと伝えている。
ネクスペリア自身も、中国側事業体が本社の統治枠組みの下で十分に管理されていないことから、2025年10月中旬以降に中国工場から出荷される製品について、品質や真正性を保証できないと説明した。
日本の自動車生産に及んだ影響

日本メーカーへの影響は、生産停止や調整という形で顕在化した。ロイターによれば、日産自動車は2025年11月、半導体調達の問題を受けて国内工場で生産調整を行った。九州工場では1週間で約900台分の減産に相当したとされる。
注目すべき点は、影響を与えた部品が高性能SoC(複数機能を1チップに集積した半導体)ではなく、電源制御や安全系統に用いられる基礎部品だった点である。報道では、これらの半導体がバッテリとモーターの接続、ライトやセンサ、ブレーキ、エアバッグ制御など、広範な機能に使われていることが指摘されている。
自動車は1台あたりに数千点の電子部品を使用する産業であり、単一部品の欠品が全体の停止につながる。特に車載用途では安全規格への適合が求められるため、短期間での代替調達は容易ではない。
メーカー側の対応と生産リスク

ネクスペリアは2025年11月以降、供給途絶を回避するための代替策を公表した。具体的には、中国拠点を経由せず、顧客に直接ウエハを供給するなど、商流を組み替える対応である。また、同年10月時点で、中国拠点には数カ月分のウエハおよび完成品在庫が存在すると説明している。
ただし、こうした対応はあくまで一時的な緩和策にとどまる。商流の変更には契約や物流、通関手続きの見直しが伴い、即時に生産を回復できるわけではない。自動車メーカーにとっては、この「時間差」自体が生産リスクとなる。
続くレアアース規制

ネクスペリア問題と並行して、レアアースを巡る規制も続いている。ロイターは、2025年の輸出量が前年比12.9%増の約6万2,585トンとなったと報じた。一方で、同年4月に導入された輸出許可制により、特定の中・重希土類や磁石の輸出は一時的に大きく減少したとされる。
ブルームバーグは、永久磁石に用いられるジスプロシウムなどの元素が入手しにくい状況が続いていると伝えている。これらはEV用モーターや車載アクチュエータの性能に直結する部材であり、供給の不安定化は部品メーカーの生産計画に影響を与える。
ネクスペリア・ショックとレアアース規制の共通点

ネクスペリア・ショックとレアアース規制は別個の問題に見えるが、自動車メーカーの視点では共通点が多い。いずれも単価は低いが代替が難しく、国境や許可制によって供給が左右される点である。
半導体の商流が滞り、同時にレアアースの調達が制約されれば、完成車、部品、装置の各レイヤで生産調整が連鎖する可能性がある。これは需要動向ではなく、供給網の構造そのものが制約条件になる局面である。
見るべきは「数量」より「詰まりの位置」

2025年後半から続く一連の動きは、日本の自動車産業にとって、供給網の脆弱性がどこにあるのかを明確にした。先端半導体の需給ではなく、基礎部品や鉱物資源といった「成立条件」に近い領域が、生産継続を左右している。
今後の焦点は、需要予測や生産能力の数字以上に、どの部材がどの制度や国境で制約を受けるのかを把握できているかにある。部品表と調達ルートを結び付けた可視化、代替に要する手続きの事前整理、商流切り替えを前提とした契約設計が、企業の競争力に直結する。
投資や経営判断においても、注視すべきは需給バランスではなく、供給網の「詰まり」がどこに生じているかである。ネクスペリア問題とレアアース規制は、その判断軸を示す事例となった。
参考リンク
- Update on company developments (Nov 05, 2025) | Nexperia
- Update on company developments (Nov 14, 2025) | Nexperia
- EXCLUSIVE-日産、ネクスペリア問題で国内工場減産(Reuters / Newsweek Japan)
- Europe Carmakers Step Up Warnings Over Nexperia Chip Crunch(Bloomberg)
- 中国のレアアース輸出、2025年は前年比12.9%増(Reuters / Newsweek Japan)
- 中国がレアアース輸出なお制限(Bloomberg)
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