株価約6倍のキオクシア、市場が「保存」にも資本を向け始めた!――流通株36%と資本再編が示す次の条件

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2025年の東京株式市場で、半導体の中でも異色の上昇を演じたのがキオクシアホールディングスだ。Bloomberg Intelligenceは、5年12月30日、キオクシア株が年初来で約540%上昇し、時価総額が約5.7兆円に達したと報じた。Financial Timesも同日、TOPIXの上昇局面で同社株の急伸を取り上げた。

NANDフラッシュは「景気循環型」と見られがちだが、株価の反応は別の論点を示す。生成AI時代のデータセンター投資が、計算(Compute)だけでなく保存(Storage)にも資本を向け始めたこと、そして上場企業としての「流通株」と「資本構成」が評価の前提条件になったことだ。

本稿は、株価約6倍の背景を「①AIストレージの需要構造」「②流通株比率と資本政策」「③帯域・電力効率を軸にした技術ロードマップ」「④足元の業績数字」の4点から、直近1年の公表資料と報道に基づき考察する。

データセンター投資が「保存」の地位を押し上げる

生成AIのインフラはGPUやCPUといった計算資源が注目されるが、実装現場では保存領域の増設が常態化している。保存が足りなければ、計算機を増やしても学習・運用は回らない。

Bloombergは、AI向けのデータストレージ需要の高まりを背景にキオクシア株が急伸したと伝え、AppleやMicrosoftを顧客に挙げた。ここで重要なのは、「NAND=スマホ向け部材」という固定観念では説明しにくい値動きが起きた点だ。

SSDは容量の増設と同時に帯域の更新が進み、投資単価が上がりやすい構造にある。

流通株比率36.13%が意味するもの

キオクシアは2025年11月13日、東証プライムの継続上場基準に適合したと開示。注目すべきは、流通株比率が3月時点29.81%から9月には36.13%へ上昇し、基準(35%)を上回った点だ。

これは、「買える株が増えた」という市場構造の変化であり、株価の支持材料となる。売買可能な株式数の増加は、流動性・指数連動投資にとって大きな意味を持つ。

資本再編は「ストレージ企業の財務体力」を作り直す

2025年7月、キオクシアは優先株の買い戻しと外部資金調達を含む資本構成の見直しを実施。社債22億ドルを発行し、優先株3,000株を約3,300億円で買い戻した。また、無担保ローンを活用し、財務構造の透明性と柔軟性を高めた。

設備投資のタイミングが事業競争力を左右する半導体業界では、こうした資本政策は技術遅れを防ぐ重要な手段となる。

最大株主は東芝、議決権21.86%

2025年11月、最大株主がBCPEから東芝に入れ替わった。議決権比率自体は変わらないが、順位の変化は資本政策の柔軟性と株主構成の変化の可能性を示す。

資本市場における評価は、「企業の中身」だけでなく「株主の安定性」「対話の透明性」も含まれる。

DRAMのトレードオフを崩す試作

2025年8月、キオクシアは5TB容量・64GB/s帯域のフラッシュメモリモジュール試作を発表。新たな構成により、DRAMの「容量と帯域のトレードオフ」解消を狙う。

AI推論・学習では巨大データの読み出しが律速になり、帯域はストレージの評価指標に変化している。

将来40%以上の省電力を狙う

京セラ・アイオーコア・キオクシアの3社は、光インタフェースを用いたSSDの試作成功を発表。将来40%以上の省電力化を目指すとした。

データセンターの「電力」と「熱」問題に対し、ストレージが配線・電力設計の一部として機能するという新たな位置づけが見える。

減益減収でも株は急伸

2025年4〜9月期の業績は売上13%減・営業利益55.2%減と減収減益だったにもかかわらず、株価は大きく上昇した。

これは、投資家の視点が「損益」ではなく「事業の構造変化」と「市場での扱いやすさ」にシフトしていることを示している。

株価6倍の裏側にある「需要の質」と「上場の条件」

AIインフラの拡大はストレージへの投資を引き起こし、NAND企業の評価基準が変化しつつある。加えて、プライム基準を満たす流通株比率の達成や、資本再編による財務柔軟性の獲得が株価上昇の背景にある。

市場は「買えるか」「支えられるか」「競争できるか」を同時に見ている。キオクシアはその三点において、一定の回答を示した1年だった。

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