NVIDIAが再び上昇気流に乗るためには

競合他社の戦略
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The Circuitが「NVIDIA GTC」を語る

半導体関連メディア The Circuit の Ben Beharon 氏と Jay Goldberg 氏が、2025 年 3 月 17 日から 5 日間にわたって米国カリフォルニア州サンノゼで開催された NVIDIA の AI 最先端技術イベント「NVIDIA GTC」の感想を、YouTube 上で語り合った。今回はその一部をお伝えする。

「今まで見た中で最も人が多いショーの一つ」

Jay Goldberg氏:
まず私が感じたのは、グラフィックス技術カンファレンスと銘打っているのに、もはやグラフィックスが中心でなくなっているということ。AI、ロボティクス、完全自動運転車がテーマで、グラフィックスに関するものはほとんどありませんでしたね。また、サンノゼで開催するには規模が大きすぎることも気になりました。
もはやは他の場所、おそらくラスベガスで開催する必要があるでしょう。2 万 5000 人くらいはいたのではないでしょうか。正直なところ、単独の企業が開催するショーとしては、私が今まで見た中で最も人が多いショーの一つかもしれません。Ben さんは何が印象に残りましたか。

Ben Beharon氏:
私は最初、少し活気がないように感じました。NVIDIA は株価も下落し、その影響もあってか。あまり良い雰囲気ではありませんでした。そこで、NVIDIA の今後を考えると、少し不安も頭をよぎりましたね。ところが、カンファレンス最終日には閉場時間が迫っていたにもかかわらず、会場は人で溢れ、入館バッジを受け取るのに 20 分も並びましたよ。そこで印象が一変し、「NVIDIA は再び上昇気流に乗っている」と思いました。

進展しないパートナーシップ

Ben Beharon:
私がこのカンファレンスに行った目的は、AI の新しい活用方法を探すためでした。私は AI の活用方法について多くの疑問を持っており、具体的に何が最新であるかを知りたいんです。ただ新しいものを見たかったのです。それで、NVIDIA ブースのソフトウェア展示エリアに行ったら、そこにはパートナー企業のブースや、彼らのライブラリなどのデモが展示されていました。しかし、次に通信関連のブースに行ってみると、展示されていたデモは昨年のものと全く同じだったんですよ。都市環境における電波伝搬のレイトレーシングモデリングなど、去年のデモと同じなんです。

社長兼 CEO の Jen‑Hsun Huang さんはスピーチや質疑応答で、T‑Mobile、Cisco、Cabbrris とのパートナーシップについて強調しており、彼らの AI‑RAN、5G AI 関連のものを作っているとのことでした。ところが、当の T‑Mobile、Cisco、Cabbrris のブースにはそれらしき製品は何も展示されていないんです。写真もブロック図も一切なし。このように AI に関する彼らの話は、プレスリリースと去年のデモだけで、何も新しいものがないと感じました。

Ben Beharon:
私も、ヘルスケア、ライフサイエンスソフトウェアである Bio Nemo の展示も見に行きましたが、これも昨年の展示と非常によく似ていました。私は妻が製薬業界で働いているため、製薬会社が NVIDIA のハードとソフトに多額の投資をしているとは聞いています。にもかかわらず、それらパートナー企業が実際に主にやっていることは、テストやシミュレーションを改善したり、コストを削減したりといった周辺の性能に関するばかり。AI を使って新薬を発見するというメインアイデアは、まだ実現していません。

あいまいな NVIDIA の立場と CEO の苦悩

Jay Goldberg:
このようなことから私が持ち帰った印象の一つは、「NVIDIA は何をしている会社なのか」ということ。NVIDIA 自体があいまいな自身の存在意義を弁護しているようだと感じました。Jen‑Hsun Huang さんの言葉で非常に興味深かったのは、NVIDIA のスーパーチップ「Grace Blackwell」について、業界アナリストの一人が GPU の数量について質問したときのことでした。この質問に対し、Jen‑Hsun Huang さんは「ちょっと待ってください。GPU とは何ですか?」と言って、Blackwell を持ち上げ、「これは GPU ではありません。グラフィックス処理はしません。シェーダーもありません。レイトレーシングもできません。これは AI アルゴリズム、特にマトリックス乗算を高速化するために特化したアクセラレーターです」と説明したんです。私たちは NVIDIA が GPU を販売していると思っていますが、彼は AI ワークロード専用のアクセラレーターを販売していると言っているんです。それが彼の真意なのだと思います。そして、このことで彼が「我々は何者で、何をしているのか」という不満を抱えているのもわかります。実際に NVIDIA の立場はあいまいです。CEO である彼にとっても難しい課題なんでしょう。彼が NVIDIA とはどんな会社かを説明するときの表現を何度も変えていることからも、その苦悩が伝わってきました。

もともとの関係者以外も多数を集客する NVIDIA の実力

Ben Beharon:
ネガティブな話はここまでにしましょう。ハイパースケーラーを含む NVIDIA の競合企業たちは、このコンファレンスの後、NVIDIA への警戒感を強めたことと思います。3 年間のロードマップを公表するとは、非常に稀なことだと思います。3 年後のことを公に約束するというのは、大変なことなんですね。それを実際に達成できると確信していなければ、そんなことはできませんから。素晴らしいことですよ。

Jay Goldberg:
そうですね。そして、このカンファレンスでも多くの発表があったことは間違いないのですから。そして、市場の認識、より広い一般の人々、もともとが NVIDIA の顧客ではない人々、AI 関連ではない人々、そして NVIDIA がやっていることがそういう人たちにとって価値があるからこそ、2 万 5000 もの人が集まったのですね。

Jay Goldberg 氏が言った来場者たちとは、ソフトウェア業界、ロボット業界、完全自動運転車を目指す業界といったバックボーンに持つ人たちだろう。正確に表現すると NVIDIA とは、「ハードウェアの力を引き出すためのソフトウェアを作る企業」と言えるだろう。今後、NVIDIA がさらなる進化を求めるためには、その点を強調した戦略を立てる必要があるはずだ。

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