2025年7〜8月にかけて、Rapidus(ラピダス)は、2nm GAA(次世代の半導体トランジスタ構造)の試作・計測データ運用・PDK(プロセスデザインキット)更新体制に関する発表を連続して行った。7月18日の2nm GAA試作での電気特性確認、8月26日の米国Keysight Technologies(キーサイト・テクノロジー)との連携、8月27日(日本時間)の高性能プロセッサの最新技術を披露する国際的な学会・カンファレンス「Hot Chips」での基調講演で示された運用方針は、「測定→PDK更新→設計収束→再試作」を短いサイクルで進める学習ループを前提にしている。本稿はこのラピダスの発表を時系列に沿って整理し、今後どのように展開していくかを推測する。
7月18日:2nm GAA試作の電気特性——学習ループの起点

ラピダスは、同社の北海道千歳の開発拠点「IIM-1」で2nm GAAの試作を開始し、初期電気特性を確認した。EUV露光の達成など工程の節目も併せて公表され、モデル校正とPDK検証に必要な一次データが実ラインから取得できていることが示された。
ここで得られた特性データは、デバイスモデル再校正、レイアウト依存補正、配線抽出ルールの見直しに直結する。以後の発表は、このデータについてどう上手く運用していくかということに絞られる。
8月26日:キーサイト・テクノロジーと連携

翌月、ラピダスは、米国キーサイト・テクノロジーとの戦略的協業を発表。ラインの統計的検定手法である「パラメトリックテスト」で得られるしきい値電圧、リーク電流、駆動電流などをRoot-Cause Analysis(再発を防ぐための真の原因を特定するプロセス)で系統的に解析し、デバイスモデル/配線RC/レイアウト依存効果(LDE)といったPDK構成要素へ短時間でフィードバックする。
同社は、全工程で単枚処理を採用しており、工程ごとのデータ密度が高い。これによりPDK更新頻度を高め、設計見積もりと実測の差を計画的に縮めやすくなる。さらに先行顧客へのPDK提供は2026年3月が計画として示され、プロトタイピング開始に向けた外部時間軸が明確化した。
8月27日(日本時間):基調講演で示した同一リズムで更新する運用設計

8月27日(日本時間)に米国スタンフォード大学のStanford’s Memorial Churchで開催されたカンファレンス「Hot Chips2025」における基調講演では、拠点・人材・装置の進捗に加え、データを起点にPDK、設計ルール、抽出/検証ルールを同一リズムで更新する運用設計(DMCO)が強調された。
単枚処理で得た実測を素早くモデルへ戻し、設計のサインオフ条件も同じ時計で見直す。前日の協業発表と合わせて、「誰が・何を・いつ更新するか」の役割分担が示され、学習ループを現場で回す青写真が共有された。
運用効果:PDK精度→設計収束→歩留まり
2nm世代のGAAでは、短チャネル制御、接触抵抗、配線抵抗・寄生容量の影響が大きい。モデルの過不足は遅延・消費電力の見積もり誤差として現れ、再スピン増加につながる。
今回の枠組みは、PCMや素子測定の結果を定常的に取り込み、PDKと設計ルールを継続更新する点に特徴がある。これにより初回試作の合致率(モデルと実測の整合)が高まり、再スピン低減が期待できる。
運用KPIとしては、
・初回合致率、
・サインオフ条件の改訂リードタイム、
・PDK更新サイクルタイム(測定→モデル更新→PDK反映→設計反映の往復時間)
が指標になり得る。PDKは「設計の仕様書」であると同時に「製造実力の写し」でもあり、PDK往復時間をどこまで短くできるかが立ち上げ速度を左右する。
2026年第一四半期のPDK提供から2027年の量産開始へ

節目は2026年3月のPDK提供と、2027年の量産開始である。先行顧客の試作品作成開始時点で重要なのは、コーナー設定、LDEの取り扱い、配線抽出ルールの再現性だ。単枚処理で得られる高密度データにより、PDKの更新間隔は決めやすくなり、ライブラリや検証ルールの更新も同期しやすくなる。
一方、量産初期は、装置最適点の探索、EUVプロセスウィンドウの管理、金属配線・コンタクト抵抗のばらつきなど、統計の安定化には時間がかかるだろう。ラインの安定度に合わせてPDK統計前提を継続更新し、顧客試作→フィードバック→再PDK→再試作の回転数をどこまで高められるかが、2027年の立ち上げを左右するのだ。
設計と製造が同一タイミングで進み続ける

この1年でラピダスは、2nm GAA試作と電気特性の確認→計測解析とPDK更新を結ぶ協業→学習ループの運用設計という3点をそろえた。当面の焦点は「高精度」を保ったPDK更新を切らさず、設計と製造が同一のタイミングで進み続けることにある。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- Rapidusとキーサイト、歩留まり向上とPDK高精度化の実現に向けた戦略的協業で合意
- Rapidus Announces Strategic Collaboration with Keysight To Develop Highly Accurate PDK
- Rapidus小池CEO、米HOT CHIPS 2025で基調講演(日本語)
- Rapidus CEO Atsuyoshi Koike delivered a keynote speech at HOT CHIPS 2025 in the US(英語)
- Rapidus Achieves Significant Milestone with 2nm GAA Prototyping
- Japan’s Rapidus in talks with Apple, Google to mass-produce chips(Reuters)