自動車向けMCUは“静かな主役”へ──ルネサスとNXPの決算が映す底堅さと成熟ノードの真実

SEMICON.TODAY
この記事を読むのにかかる時間: 5

生成AIや2nmが脚光を浴びる一方で、クルマの窓やライト、ワイパー、電源、EPS(電動パワステ)など日常の動きに律儀に対応しているのは、いまもMCU(マイコン)だ。とりわけ車載MCU/車載マイコンは、レガシー半導体と呼ばれる成熟ノード(40〜90nm)での量産が主流で、反応速度・低消費電力・ノイズ耐性といった“効果のある性能”が評価軸になる。

2025年半ばの決算・ガイダンスを重ねて読むと、派手なV字回復ではないが、自動車向けが半導体需要の底を固めている構図が鮮明になった。実際にモーターやリレーを動かす“最後の10cm”のリアルタイム制御を確実に機能させる技術が、事業のボラティリティを抑える役割を果たしている。

本稿では、“静かな主役”と言える自動車向けMCUについて、その現状を考察する。

数字で読む“底打ち感”——自動車が全体を支える

ルネサスエレクトロニクスの2025年Q2(4–6月)は、IFRSベース売上3,255億円。セグメント別では自動車1,618億円/産業・インフラ・IoT1,613億円とほぼ拮抗し、オートが全体のボトムを支える構図が明快になった(「Three months ended June 30, 2025」の開示表より)。四半期ベースの持ち直しがにじむ一方、前年同期間比の調整影響は残る——要は「急反発ではないが底は固い」。

NXPの2025年Q2は売上$2.93B(前年同月比6%減)。セグメントでは自動車は“横ばい”が強調され、Q3ガイダンスは$3.05–3.25Bと、増収レンジを示した。短期の在庫整理が続く環境下でも、オートが全社の揺れを和らげている。

なぜMCUは強いのか:三つの構造理由

1. 設計ロックイン:交換しにくい

車載は機能安全(ISO 26262)や品質認証(AEC-Q100等)のハードルが高い。量産後の品番入替には再設計・再認証が必要で、採用MCUは“長生き”する。この粘着性が、景気サイクルに対する鈍感力になる。

2. 長期供給の一般化:数量の“可視化”

コロナ禍の反省以降、複数年の供給契約や能力コミットが普及。モデルサイクル単位で「誰に、どれだけ、いつまで」を前提化する流れが強まり、投資と生産の見通しが立てやすくなった(近年の大手自動車・ファウンドリの長期枠公表の積み上げが象徴的)。

3. 成熟ノードの“高稼働化しやすさ”:先端だけが材料ではない

AIサーバ拡大は先端ノードに注目が集まるが、車載・産業の定常需要+周辺デバイスで40〜90nm帯は稼働が高止まりしやすい。一方で、中国勢の増産トレンドや品目差で“逼迫と緩みが同居”する局面も確認される(2025年後半の成熟ノード受注の減速観測、2025年の成熟ノードキャパ拡大見通し)。価格の粘着性は相対的に下がりにくい傾向だが、地域・品目差に留意が必要だ。

E/EアーキテクチャとMCUの役割

車のE/Eアーキテクチャはドメイン/ゾーン化で中央SoCの演算能力を高める再編が進む。ADASやインフォテインメントは高性能SoCへ集約される一方、ドア開閉、ライト、ワイパー、座席、電源管理、BMS、EPSなど末端のリアルタイム制御はMCUの独壇場だ。必要なのは確定的な応答性と堅牢性、そして低消費電力。

例えばワイパー間欠やウインカー点滅、シートヒーター制御は数十KB〜数MBのフラッシュ搭載MCUで十分に、確実に実現できる。待機時消費の極小化やEMI/電圧外乱への耐性は枯れたアーキテクチャの積み重ねが効果がある。結果として中央SoC+末端MCUの“二階建て”は電動化・ソフトウェア化が進むほど合理的。フェイルセーフ、セキュアブート、キー管理などをMCUに“薄く広く”分散する設計は、冗長性と保守性を引き上げる。

機能安全(ASIL)やセキュリティ要件の高度化に伴い、MCUはメモリ増量や耐熱強化、セキュリティ機能の内蔵などリッチ化し、ASPの底上げに寄与する。

需給の現在地——価格、ミックス、在庫の“穏やかな正常化”

価格:不足期に形成された価格水準は、長期契約を介して段階的に調整され、短期の需給ショックの直撃を受けにくい。オート需要はゼロにならないため、価格の谷も浅くなりやすい。

ミックス:機能安全・セキュリティ・高温耐性・フラッシュ増量など高付加価値MCUの比率上昇がASPを押し上げる。中央計算の高度化に歩調を合わせ、末端制御も“賢いMCU”へ置換が進む。電装のスマート化(ヒューズ/リレーの半導体化、ソフト制御範囲拡大)もMCUの“居場所”を広げる。

在庫:地域や車種ミックスでムラは残るが、“穏やかな正常化”が続く。NXPのQ2実績:オート横ばい/他セグメントの弱さをオートが緩和、Q3は増収レンジという構図は、その縮図といえる。

なお、成熟ノードのマクロ環境は一枚岩ではない。2024年末〜2025年にかけた中国勢中心のキャパ増が進む一方、2025年後半の成熟ノード受注鈍化観測も出ている。“高稼働化しやすい構造”ד地域・品目差による波形”として捉えるのが実務的だ。

“最新=最適”ではない:レガシーがもたらす競争力

「先端ノード=高付加価値」は真実の一面に過ぎない。クルマの価値の土台は安全・快適・耐久であり、その多くは枯れた技術の最適化で成立する。最新プロセスでも電源変動や温度環境、長期使用での確実性が不十分なら車載では使いにくい。逆に成熟ノード+MCUは長年の実績とソフト資産(ドライバ、AUTOSAR/MCAL)の流用性により再現性とTCOの見通しが立つ。

経営の視点では、「何を先端に寄せ、何を安定に寄せるか」という技術ポートフォリオ設計が勝負の分かれ目だ。中央SoCは“革新の速度”、末端MCUは“安定の深さ”——二階建ての最適化により、機能・コスト・納期の三つ巴をバランスできる。差別化は派手なTOPSやnm表記だけでなく、“確実に効く”裏側の設計で決まる場面が増えている。

「荒波はあるが底は固い」

ヘッドラインが先端ノードで埋まるほど、レガシー側の意味は見落とされがちだ。しかし毎日確実に車を動かす“最後の10cm”を担うのはMCUであり、そこに長期供給と成熟ノードの安定が宿る。2025年Q2の決算とQ3ガイダンスが示すのは、「荒波はあるが底は固い」という現実だ。最新はニュースをつくり、最適はビジネスを支える。

設計の再利用(認証の再活用)×ソフト資産の継承×長期枠による数量可視化を粘り強く積み上げるほど、需要の山谷に振り回されにくい。AIロジックの拡大と歩調を合わせ、成熟ノードの生産計画と末端制御の設計資産を磨く——サプライチェーンが次の一年を確実に走り切る“堅いルート”である。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク

TOP
CLOSE
 
SEARCH