2025年に入り、スマートフォン市場はようやく底を打った。IDCの速報では、2025年Q1が前年同期比1.5%増、Q2も同1.0%増と、成長幅は小さいながらプラス圏を維持している。台数の急回復は望みにくい一方で、端末の高付加価値化――とりわけオンデバイスAI、高性能カメラ(大型CIS)、5G-Advancedによる接続体験の強化――が確実に前進している。
アプリ/RF/パッケージ/イメージセンサーまで、スマホ向けサプライチェーンの投資判断は「数量」から「技術トレンド」へと軸足を移す局面になっている。本稿では、Apple・Qualcomm・MediaTekが牽引する“6Gプレマーケット(標準化確定前の先取り市場)”のシグナルを、直近1年の一次情報から読み解き、設計・製造の中長期需要を整理する。
市況の現在地:「量は横ばい、単価・機能は上振れ」

まず、スマートフォン市場の現況から見ていく。IDCによれば、2025年Q1は前年同期日1.5%増の3億490万台、Q2は前年比1.0%増の2億9,520万台。低価格帯の弱含みが続く一方、ミドル~プレミアムへのシフトとAI搭載の普及が価格ミックスを押し上げているようだ。
国別に見ると、中国市場の2025年Q2は、前年同期比4.0%減の6,900万台。メーカー各社は補助金や価格改定で需要を喚起する一方、ハイエンドは相対的に堅調だ。
RFフロントエンド大手のSkyworksは2025年8月時点の見通しを上方寄りに示し、Qorvoも2025年春時点で安定推移している。モバイル向けの下落局面は峠を越え、在庫正常化→新機能搭載サイクルへの転換が見て取れる。
数量が伸びにくい局面こそが、メモリ帯域・カメラ・接続の高機能化が差別化の主戦場だ。SoC、RF、CIS、パッケージの上位仕様が“当たり前”になる中、開発投資は「尖ったハイエンド」から「量が出る準ハイエンド」へ拡張する。
“6Gプレマーケット”とは何か
次に、“6Gプレマーケット”について解説する。“6Gプレマーケット”とは、標準化確定(3GPPの本格6Gリリース)より先に、業界が実証・商品化の布石を打つ領域を指す。2025年はまさにその真っ只中なのだ。ポイントは以下の三つ。
- 5G-Advancedの深化:QualcommのX85 Modem-RFやMediaTekのM90など、キャリアアグリゲーションの多波化・上り強化・AI制御が進み、ユーザー体感(低遅延・安定性)が向上。
- FR3(7.125–24.25GHz)などの次帯域の検証:Qualcomm×Rohde & Schwarz、Ericsson×Keysight等がMWC25で13GHz帯でのスループット実証や6G試験環境を披露。端末側のアンテナ設計・RFスイッチング、モデムの広帯域最適化が前倒しで進む。
- AIネイティブ化:通信スタックにAIを組み込み、トラフィックのリアルタイム最適化や電力効率の向上を図る流れ。モデム内蔵AIや端末側NPUの強化は、6Gの基盤技術(AI-RAN等)への橋渡しになる。
標準が固まる前に端末/モデム/計測が「先に走る」。その成果が5G-Advanced世代の差別化になり、6G初期対応の足腰にもなる――これが“プレマーケット”の本質と言える。
SoCの設計ピボット(方向転換):CPU/GPU/NPU+メモリ帯域+接続の三位一体

ここで、各社のSoCの設計ピボット(方向転換)状況について、見ていく。
Appleは、「A18 Pro世代」でApple Intelligenceを前提とした設計思想が明確化している。Qualcommは、「Snapdragon 8 Elite」でOryonコアを本格投入、モバイルAI推論の実効性能を引き上げる。加えてX85 Modem-RFは5G-Advancedの多様なCA/UL強化とAIベースのトラフィック最適化を実装し、アプリ処理と接続体験の連携を強化する。
MediaTekは、「Dimensity 9400」によって“All Big Core”構成と強化NPUで、エッジAI用途を前提に最適化する。M90はR19/5G-Advancedの要素を積極的に取り込み、端末設計の選択肢を拡大。
SoCは演算(NPU)・通信(Modem/RFFE)・メモリ(LPDDR6)が三位一体で最適化されなければ、AI体験や5G-A体験は頭打ちになる。ベンダ横断の同時並行チューニングが競争力の源泉になる。
RF/アンテナ:FR3を見据えた「多バンド最適化」と電力配分
5G-Advancedは、上り性能の改善や多波CAを促すため、PA・スイッチ・フィルタの同時稼働が増え、熱と電力の管理が難しくなる。「Qualcomm X85」のようにAIでトラフィックを分類しQoS/電力を賢く配分する動きは、RF/アンテナの実効効率を引き上げる。RFサプライヤ各社(Skyworks、Qorvo)の最新決算にもモバイルの底入れとハイエンド偏重が映り、FR3/6G対応に向けたモジュール内アーキテクチャ刷新(スイッチング損失低減、封止材/基板の高周波最適化)への投資余地が広がる。
AIカメラ時代は“光”と“熱”の総合設計に
Sonyグループは、直近の経営資料でモバイル向けイメージセンサー需要の堅調と大型化の継続を示唆している。高解像・広ダイナミックレンジ化に伴い、熱設計(サーマル拡散)とレンズ/アクチュエータの体積最適化がより重要になる。
パッケージはモバイル向けFo-WLP/PoPの高密度化に加え、SoC側のLPDDR6配線長・反射抑制、モデム/RFのアイソレーション設計まで含めた“筐体内・電磁一体設計”が必須だ。
台数は戻らずとも、先端ノードは埋まる
TSMCの2025年Q2決算では、7nm世代以降が売上の74%、3nmが24%を占めている。HPC/AIがけん引するなかでも、プレミアムスマホSoCのN3採用は、先端稼働率の底上げに寄与している。N2立ち上げの本格化を前に、前工程のEUVレチクル/マスク、先端レジスト、先端計測はタイト化が続く見込み。スマホ向けSoCが持つ“先端ノードのベースロード”は、AI需要と相互補完的にキャパ投資の再開を後押しする。
数量勝負から、仕様勝負へ――“どこに張るか”の再設計
ここで、スマホ向け周辺企業の動向を見ていく。
(1)スマホ向けSoCサプライヤ
- NPU×メモリ×モデムの協調最適化:LPDDR6採用前提の配線/電源/EMC設計を前倒し。X85/M90級の上り強化・多波CAに合わせ、アプリ(AI)と接続のクロスレイヤ最適化をロードマップに明記。
- テスト性の確保:FR3検証に向け、13GHz帯などの試験系を計測ベンダと連携して内製強化。校正・再現性の指標を社内KPI化。
(2)RF関連メーカー
- モジュール内の損失最小化:スイッチングトポロジ・封止材・基板材料を見直し、FR3/多波CA時代の熱・アイソレーションを仕様化。
- AI連携:モデム側のAIトラフィック制御に呼応し、PAバイアス/アンテナチューニングの動的制御に最適なアナログ/ミクスドシグナルを提案。
(3)パッケージング/材料メーカー
- LPDDR6対応PoP/Fo-WLP:SI/PI解析前倒しとリファレンス設計の共同提供。低Dk/Df基材、熱伝導材の新規提案ウィンドウは2025年末~26年前半。
- CIS大型化に伴う放熱・遮光:黒化樹脂/遮光フィルムの反射・残留応力管理を詰め、OISアクチュエータとの機械干渉を最小化。
(4)CMOSイメージセンサー
- AIカメラ前提のダイ設計:高速読み出し×低消費のトレードオフを詰め、ISP/SoC連携で“撮る→生成”のレイテンシ短縮を共同検証。
- 歩留まり×熱の同時最適化:大型化で顕在化する熱歪みを、薄化・封止・実装の全体最適で抑制。
「6G前夜」の投資は「基礎体力づくり」に向けて

スマホにとって2025年は、数量が緩やかでも、技術要件が確実に重くなる年となる。5G-Advancedの実力を“ユーザー体感”に繋げるには、SoC・RF・メモリ・CIS・パッケージの相互最適が不可欠。FR3の実証、LPDDR6の準備、AI前提の接続制御――これらはすべて、6Gの正式標準より前に着手すべき「基礎体力づくり」である。
投資再開のファーストステップは、“先読み設計”の前倒しとなる。2026年に量産端末へ波及するであろう仕様(LPDDR6、5G-A上り強化、CIS大型化)に向けて、2025年のうちに開発・評価環境を整える。それが、6Gプレマーケットで勝ち筋をつくる最短ルートなのだ。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク(直近1年・一次情報中心)
- 企業の公式プレスリリース・資料Apple:iPhone 16 Pro/Pro Max発表(A18 Pro/Apple Intelligence)
- Apple:Apple Intelligence関連ニュース(Newsroomトピック)
- Qualcomm:Snapdragon 8 Elite発表(Oryon CPU採用)
- Qualcomm:X85 5G Modem-RF発表(5G-Advanced/AI最適化)
- Qualcomm:MWC 2025での接続・AI関連アップデート
- MediaTek:Dimensity 9400発表(エッジAI最適化)
- Rohde & Schwarz×Qualcomm:FR3(13GHz)での実証(MWC25)
- Ericsson:高性能プログラマブルネットワーク(RAN Connect等)発表(MWC25)
- TSMC:2025年Q2決算発表(先端ノード売上構成含む)
- Skyworks:2025年度Q2決算リリース
- Qorvo:2025年度Q4決算リリース
- Cadence:LPDDR6/5X 14.4GbpsメモリIP発表(JEDEC準拠)
信頼性の高い報道機関
- Reuters:世界スマホ市場Q2 2025は+1.0%(IDC速報の要旨)
- Reuters:中国スマホ市場Q1 2025の動向(Appleの出荷減含む)
- Reuters:Skyworksが強含み見通し(モバイル需要の底打ち示唆)
コンサル・調査機関