自民党総裁選の政策シグナル:為替・金利・市場評価が装置投資にどう効くか

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2025年10月4日、自民党総裁選は高市早苗氏の新体制で決着した。その後、10月10日には公明党の連立離脱が表面化し、与党運営は再編を迫られている。このように政治イベントは単なる「政局」にとどまらない。

一方半導体装置・材料に目を向けると、その大半はドルやユーロ建てで調達され、資本コスト(WACC:加重平均資本コスト)は日本国債利回りや社債スプレッドを通じて変動する。さらに株式市場の評価は、投資回収の見立てやエクイティ調達の難易度に直結する。

本稿は、①新総裁体制の政策バイアス(財政・金融・産業政策)、②円相場・金利・株価の連動が装置投資の実効コストに与える影響、③素材・電力・規制の継続性が海外サプライヤの「対日立地判断」に及ぼす影響を直近1年の一次情報に基づき整理する。

新総裁体制の「財政×金融」バイアスと政治リスク

新総裁は「責任ある積極財政」を掲げ、家計支援と供給力投資を同時に進める構えを示した。一方で金融政策は日銀の専権であり、政府は方向性を示しつつも手段は日銀に委ねるという方策が繰り返されている。

実際、日銀は2025年1月に政策金利を0.5%へ引き上げた後、追加利上げの是非を巡って理事会内で見解が分かれている。この「緩やかな正常化」路線は、急激な金利上昇による設備投資・住宅ローンへの悪影響を回避しつつ、持続的な2%インフレの定着を狙う姿勢だ。

他方、10月10日に公明党が連立を離脱。与党は法案形成で新たな協力関係を模索しており、財政パッケージや税制、成長投資のスピード・規模には国会力学が影響する。半導体企業にとっては、補正予算や特定基金の執行確度(年度内の採択・交付決定)を見極める「政治イベント・リスク管理」が当面の課題となる。

短期的な円の為替価値は高まることがリスク低減の基本

円相場は政治の不確実性と日銀の利上げ期待、米金利の動向、そして当局の口先介入・実弾介入観測に左右される。為替はP/Lだけでなく、発注時の支払通貨・支払いサイト・与信条件を通じて設備投資の実効コストを直撃する。

実務上のポイントは次の3点である。

(1) 通貨マッピング:装置はUSD、部材・ケミカルはUSD/EUR建てが中心。建設・据付・ユーティリティはJPY比率が高い。
(2) 受渡し条件:CIF/FOBや据付完了時検収など支払い発生点の通貨・タイミング。
(3) ヘッジ設計:為替予約・ナチュラルヘッジ(輸出収入)・通貨建て借入の組み合わせ。

米ドル建て2億USDの前工程装置パッケージを想定すると、USD/JPY=150で見積もれば300億円、160なら320億円で+6.7%、145に戻れば290億円で-3.3%となる。1ライン複合導入では差額が数十億円に達し、付帯工事・薬液ガス初期充填・予備部材を含めるとインパクトはさらに膨らむ。政策コミュニケーション次第で短期的な円の為替価値は高まることがリスク低減の基本となる。

G7会合では「過度な為替変動への警戒」が度々確認されており、日本の財務当局もボラティリティ抑制に言及している。足元の相場観では、①日銀の追加利上げ時期・テンポ、②米国の景気・関税動向、③国内政治の連立再編が主要ドライバとなる。

WACCと装置の「資本コスト」をどう読むか

国債利回りの上昇は、社債スプレッドや銀行貸出のプライシングに波及する。金利0.5%への正常化後、超長期ゾーンの変動が目立ち、外国人のJGB需要もカーブの歪みを増幅している。設備投資の評価では、割引率(WACC)上振れがNPV(正味現在価値)と投資回収年数に与える影響を試算に織り込む必要がある。

チェックポイントは以下のとおり。

  • 設備投資KPI:稼働率・歩留まり・タクトの改善でキャッシュ創出を前倒しできるか。
  • 負債ミックス:固定/変動、通貨別のデュレーション管理。
  • 補助金・税制の併用:補助採択で実効調達単価を引き下げ、償却負担を平準化。

日銀は10月下旬の会合を控え、理事会内にタカ派・慎重派の両論が併存している。金融環境が過度に引き締まらず、かつ持続的賃上げが続く条件下では、小刻みな正常化+ボラ抑制がベースシナリオだ。企業側は金利感応度の高い工程(例:EUV露光群、薬液・ガス大量導入)から順にヘッジと資金手当を前倒しするのが合理的である。

AI向け先端ノードと、HBM/DRAM増産が市場評価を下支え

10月上旬、総裁選の帰趨は「株高・円安・長期金利上振れ」の組み合わせを一時的に誘発した。背景には、成長投資や家計支援の強化への期待と、日銀の急激な利上げは回避されるとの見方があった。また、10月16日のTSMC決算・見通し上方修正は、AIインフラ投資の持続性を再確認させ、装置・材料・検査計測の受注期待につながった。

短期の指数変動は政治ヘッドラインで振れるが、AI向け先端ノードとHBM/DRAM増産という世界的ドライバが下支えしている点は、当面の需給環境の支点である。

他方、連立再編・選挙観測・通商リスク(関税・輸出管理)などの政策イベント・リスクは、マルチプルの振れを増幅する。採択済み補助金の執行の確度(年度内交付)とレアアース等の原材料供給不確実性(中国の輸出管理強化)を、投資計画の前提に織り込む必要がある。

データセンター需要の急増により、系統側の接続・増強・調達単価が課題に

経済安保(経済安全保障)とは自国の平和と安全、経済的繁栄といった国益を、経済的措置によって確保すること。日本は2025年3月に輸出管理リストの一部改正を閣議決定し、国際枠組みに沿った管理を強化した。半導体装置・量子関連の扱いは継続的にアップデートされており、対中規制の変化はグローバルな相互作用の中で評価すべきである。

また、ハイミックス/歩留まり立ち上げのボトルネックは現場人材に集中する。国内補助の採択条件には人材育成・国内調達比率が含まれるケースが多く、研究開発・量産移管の同時推進が重要だ。

さらに、データセンター需要の急増により、系統側の接続・増強・調達単価が課題となっている。製造業にとってはPPA(電力購入契約)・自己託送・需要家側蓄電の組み合わせが、CO2/原単位と安定供給の両立を促進するだろう。

9月にはマイクロン広島向けの大型支援が企業発表として示され、国内生産能力の強化とR&Dが政策の柱として継続している。装置・材料側は、補助/税制×為替×金利の三点セットで実効コストを管理する段階に入った。

経営企画・財務・渉外が同じテーブルで「三点同時の最適化」を目指せ

2025年10月の総裁選と連立再編は、財政・金融・産業政策の組み合わせを再配置し、為替・金利・株価の三変数に同時に揺さぶりをかけた。半導体の装置投資は、通貨・支払いタイミング・資金手当て・補助採択という意思決定の分岐点が多く、政治・政策シグナルを財務パラメータへ即時に写像する体制が競争力を分ける。

実務のポイントとしては、①為替の実効感応度(USD/EUR建て比率、検収・据付のタイミング)を見える化し、②金利前提のバリアンス(0.25%刻みでNPV/IRR感応度)を役員会資料に標準装備し、③補助・税制・輸出管理・電力の継続方針を年度執行確度でウォッチする。

さらに、TSMCを起点とするAI関連の世界的投資循環が装置・材料の受注曲線を押し上げる一方、中国のレアアース輸出管理拡大などサプライリスクがコストとリードタイムの不確実性を高める。経営企画・財務・渉外が同じテーブルで、「補助/税制×為替×金利」の三点同時の最適化を目指す——それが、2025年度下期〜2026年度の装置投資における日本企業の勝ち筋である。

*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
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