「電力ガバナンス」が左右する、これからの半導体工場新設の競争力

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昨今のインテリジェント化・DX推進により、半導体の需要は世界的に再熱・急増している。SEMI(国際半導体製造装置材料協会)によれば、世界の半導体生産能力は、2025年第1四半期には四半期あたり4,250万枚(300mmウエハ換算)を超えると予測され、これは前四半期比2%増、前年同期比7%増となる。

一方で、大規模な電力消費を伴う半導体製造拠点の新設が相次ぐ中で、「電力容量不足」や「価格高騰」が深刻化している。

本記事では、半導体工場が電力問題にどう対応すべきかを、考察する。

国内外の電力逼迫のリアル

日本では、電力需要は長らく停滞してきたが、DXインフラや半導体工場の新規建設により、再び増加傾向へ転じている。経産省資料では、半導体・データセンター・EV充電を含む注目施設の2040年度の電力需要は2023年度比2.8倍の約1,377億kWhに達する見込みと予測している。

また、需給対策としては、「脱炭素電源の拡大」「原子力再稼働・革新炉」「火力脱炭素化投資」が重要テーマとなっている。

台湾では、TSMCが国全体の電力の約6.4%を消費する中、再エネを短期間に確保する難しさが浮き彫りとなっている。政府支援制度や土地制約が供給を制限し、財務負担や競争力維持に影響を及ぼしているからだ。

これらは、単なる国内の「需給逼迫」ではなく、グローバルで電力をめぐる戦略シフトが起こっている証左である。

電気料金の差が、投資判断を左右する時代に

また、電気料金も大きな課題である。今や電力料金の差が、投資判断を左右する時代に突入している。

たとえば、TSMC熊本拠点(九州電力管内)の家庭用電力単価は約28.8円/kWhと安価なのに対し、北海道電力管内では約47.3円/kWhと約1.6倍の差があると報告されている。仮に年間70億kWhを消費する規模の工場なら、年間電力コスト差は約1,300億円にもなり、製品競争力や長期投資効率に大きく影響することになる。

さらに、九州地域は原子力・再エネ・火力がほぼ均等である一方、北海道は火力依存度が高く電力価格の変動リスクにさらされやすい。こうした「地理的・電源構成の違い」が、半導体拠点能力に直結している。

PPAの導入状況

世界的に太陽光発電設備を設置する際、初期費用を負担せずに再生可能エネルギーを導入できる仕組みであるPower Purchase Agreement(PPA)を活用した再エネ調達が進展している。IntelやTexas Instrumentsなどは2030年までに100%再エネ電力への切り替えを計画している。

日本でも、キオクシア四日市や岩手工場、TSMC熊本などが、太陽光パネル設置や再エネ証書購入による部分的な再エネ導入を進めている。キオクシアでは2040年までに再エネ比率100%、2050年にネットゼロを目指すと表明している。

しかしながら、政府主導の制度整備やインフラ拡充が不十分な現状では、PPAへの移行は「制度・価格リスク」がつきまとう。台湾でも風力PPAが政府補助終了により停滞し、再エネ単価が上昇する兆しがある。

電力ガバナンスで競争力を上げる3つの視点

電源・電力価格構造の理解

立地地域の電源構成と、電気料金の長期トレンドを把握することが大切だ。加えて、原子力再稼働や再エネ拡大による電源構成の変化も踏まえることも必要である。

PPA戦略の明確な設計

グローバル・国内を問わず、PPA案件への契約交渉力を高めることが大切。オフサイトPPAや地元電力会社、自治体との連携による複合調達を検討する。

短期安定性の確保と中長期脱炭素の両立

必要な稼働時期に合わせた火力+蓄電池による安定性の確保と、再エネ導入・PPA切り替えによる脱炭素目標の達成。補助金や制度を活用したCAPEX調整も重要である。

「電力ガバナンス」は半導体業界の新たな戦略軸に

脱炭素社会の実現、半導体の旺盛な需要、そして電力逼迫リスク。これら複雑な要因の中で、立地選択と電力戦略が工場新設や量産開始までの「スピードとコスト効率」を左右することはいうまでもない。

PPAや再エネ導入、そして地理的電源構成の違いを読み解く「電力ガバナンス」は半導体業界の新たな戦略軸なのだ。

※この記事は以下を参考に執筆しました。

出典一覧

(参考:SEMI「World Fab Forecast Q1 2025」
(参考:富士経済「2025年 電力需要動向調査」
(参考:GEPR「TSMC熊本 vs ラピダス北海道 電力比較」
(参考:経産省「電力システムの直面課題と対応」
(参考:Reuters「Taiwan’s green power deficit threatens tech sector」
(参考:Intel「Renewable Electricity White Paper」
(参考:Texas Instruments「Commitment to 100% renewable electricity」
(参考:6sense Science Talk「国内半導体工場の再エネ・省エネ事例」

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