ASML 2Q26決算深堀記事(2026年7月15日公開) 通期見通しを€43〜45B-大幅上方修正。ーだが本当に読むべきは、「受注」が消えた後の需要シグナルだ

SEMICON.TODAY
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ASMLの2Q26は、売上高€9.33B・粗利率54.0%といずれも会社ガイダンスを上回った。

さらに通期見通しを€43〜45Bへと引き上げ、これで3四半期連続の上方修正となった。露光装置を独占的に供給する同社の増収は、AI投資が半導体設備投資へと着実に波及していることの証左だ。ただし読み解きは以前より難しくなっている。最良の先行指標だった四半期受注(net bookings)を、ASMLは2026年から公表しなくなったからだ。数字が消えたいま、市場は何を手がかりに需要の強さを測るのか——本稿の主題はそこにある。

売上高
€9.33B
YoY +21.2%
QoQ +6.4%
粗利率
54.0%
ガイダンス上振れ
Q3見込 55–57%
純利益 / EPS
€2.92B
EPS €7.59
YoY 約+27%
通期見通し
€43–45B
3期連続 上方修正
粗利率 54–56%
Q3見通し
€11–12B
前四半期比で加速
R&D 約€1.2B

1.  上振れの「質」——売上も利益率も、ガイダンス超え

まず数字から。2Q26の売上高は€9.33B(前年同期比+21.2%、前四半期比+6.4%)、粗利率は54.0%。いずれも会社ガイダンスの上限を超えた。純利益は€2.92B、希薄化前EPSは€7.59で、前年同期の€5.90から+28.6%伸びている。

見落とせないのは、上振れの「出どころ」だ。

会社は上振れの主因を、想定を上回ったInstalled Base Management(保守サービス+フィールドオプション)売上€2,762百万だと説明している。新規装置の販売増ではなく、既に世界に据え付けられた装置群からの収益——つまり稼働率の高さとアップグレード需要——が効いた。景気の谷では真っ先に細るこの領域が伸びていること自体が、現場が動いている証拠だ。

Bar and line chart of quarterly sales and gross margin. Blue bars show actual sales (≈7.69B, 8.77B, 9.33B) and orange bar shows 11.5B forecast for 3Q26; line with markers gives gross margin (53.7%, 53.0%, 54.0%, 56.0%).

図1:四半期売上高と粗利率。Q3は€11〜12Bへ一段の加速が見込まれる(会社公表値・見通し中央値)。

そして、次の四半期見通しがさらに強い。Q3 2026は売上€11.0〜12.0B、粗利率55〜57%。前四半期比で二桁の伸びを見込む、明確な加速局面のガイダンスである。

2.  通期€43〜45Bへ——3四半期連続の上方修正が意味するもの

今回の目玉は、四半期実績よりむしろ通期見通しの引き上げ幅にある。

ASMLは2026年通期の売上見通しを€43〜45B(粗利率54〜56%)へ上方修正した。この数字は、2026年1月の当初€34〜39B、4月の€36〜40Bに続く、3四半期連続かつ最大の引き上げだ。

2026年通期売上見通しは3回連続の上方修正を示すグラフ。青い棒はQ4'25とQ1'26、オレンジ棒はQ2'26の値を示す。最終的に€43–45Bへ調整。

図2:2026年通期売上ガイダンスの推移。開示のたびにレンジが切り上がっている。

文脈を添えると重みが分かる。2025年通期の売上は€32.7B(前年比約+15%)だった。今回の中央値€44Bは、これに対して約+35%の成長を意味する。減速どころか、成長が再加速するという会社の宣言に近い。

3.  消えた「受注」——市場は何を手がかりに需要を測るのか

ここからが本題だ。ASMLの決算で長年もっとも注目されてきた数字は、実は売上ではなく net bookings(新規受注額)だった。

ASMLは装置の据付・検収時点で初めて売上を計上するため、売上は受注に12〜18か月遅れる。だからこそ受注は、顧客が「生産能力を本当に増やす」と手を挙げた最も早いシグナルとして機能してきた。ところが同社は2026年(Q1)から、四半期ごとの受注開示をやめた。大型受注は不規則に到来し、四半期の“ならし”読みを歪めるというのが理由で、受注残(バックログ)は事実上、年次開示になった。

最後に開示された四半期受注は2025年Q4の€13.2B(うちEUV €7.4B)、2025年末のバックログは€38.8B——当時の年間売上を上回る水準だった。この“見えていた強さ”のアップデートが、いま四半期ごとには得られない。

上半期の受注(order intake)は、きわめて堅調に推移した。
— ASML CEO クリストフ・フーケ(2Q26プレスリリース)

数字が消えた代わりに、経営陣は言葉と行動で需要を語る。フーケCEOは、上半期の受注が極めて堅調だったと述べ、AI関連投資が先端ロジック・メモリの需要を押し上げ、顧客が能力増強を前倒ししていると説明した。だが「堅調」という形容だけでは、市場は満腹にならない。より雄弁なのは、次章の数字だ。

4.  増産計画こそ、新しい「先行指標」だ

受注額の代わりに、いま需要の深さを映すのは「自社の増産計画」である

ASMLは、2027年に向けてLow-NA EUVの生産能力を約65台から+30%、DUV液浸を約130台から+30%引き上げる計画を示した。さらに2028年に、それぞれもう+30%上乗せする可能性を検討中だという。供給を握る独占企業が能力を3割増やすということは、埋められる見込みのない枠は作らない以上、それ自体が需要の裏づけになる。

グラフ:Low-NA EUVは2026年65、2027年計画85、DUV液浸は2026年130、2027年169。+30%の成長を示す緑の矢印。

図3:ASMLが示した生産能力の増強計画。2027年に+30%、2028年にさらに+30%を検討。

受注→売上の12〜18か月ラグを思い出せば、2027〜2028年に向けた能力増強は、単年の景気ではなく複数年の需要に対する確信の表明にほかならない。受注額という一枚の写真を失った市場は、いまこの“設備投資の設備投資”を読むことで、サイクルの持続力を推し量っている。

5.  需要の源泉:AIと、メモリの露光強度

需要の正体は、これまでSEMICON.TODAYが追ってきたAIメモリの構図と地続きだ。

AIサーバー向けの先端ロジックと、HBM・DRAMを中心とするメモリ——この二つが露光需要を牽引している。特にメモリは微細化の再加速で1ウエハあたりの露光工程数(露光強度)が増え、同じウエハ枚数でも必要な露光装置が増える構造にある。AIインフラ投資の拡大が、ロジックとメモリの双方からASMLの装置需要へと二重に効いている。

ASML自身は、半導体市場が2030年に1兆ドルを超えるとの業界見通しを掲げ、露光がその技術革新の中心に居続けると位置づける。前章の増産計画は、この長期像に自社の生産能力を合わせにいく動きでもある。

6.  死角と「答え合わせ」:中国・後半偏重・そしてTSMC

強気の見通しには、確かめるべき前提がある。

▪  後半偏重の実行リスク:上半期売上は約€18.1B。通期€43〜45Bの中央値に届くには下半期に約€26Bが必要で、Q3€11〜12B+Q4の一段の積み上げを前提とする。据付・検収のタイミングや製品構成のズレが、着地を上下させ得る。

▪  中国・輸出規制:対中輸出規制の動向は、ASMLの出荷可能な顧客と地域を左右する最大の外的変数。規制強化は受注残の一部の実現時期にも影響し得ると、会社もリスク要因に挙げている。

▪  翌日のTSMC:ASMLの翌7月16日にはTSMCが決算を発表する。最大級の先端顧客であるTSMCの設備投資コメントは、ASMLの下半期想定を直接検証する“答え合わせ”になる。

周辺の温度感も強気を支える。アプライドマテリアルズは直近四半期に過去最高の売上(約79億ドル、前年比+11%)を計上し、2026年の半導体製造装置事業の伸びを「20%超」から「30%超」へ引き上げた。装置業界全体が上方修正の局面にある。

競合・市場コンセンサス・地政学に関する記述は各種報道・調査会社データに基づくもので、会社公表の確定値ではない。

7.  株主還元:買い戻しと増配は継続

資本還元も途切れていない。当四半期は2026〜2028年プログラムに基づき約€1.1Bの自社株買いを実施。2026年の中間配当は€1.88/株(8月5日支払予定)で、前年の中間配当€1.60から増配となる。記録的なキャッシュ創出を、成長投資(増産)と還元の両輪に回している姿勢がうかがえる。

8.  読者への示唆:この決算をどう使うか

▪  装置サイクルは“複数年”に入った可能性:2027〜2028年を睨んだ+30%×2段の増産計画は、単年の反発ではなく構造的な需要拡大への賭けを示す。設備・部材・人材のサプライチェーン各層に、中期の追い風が波及し得る。

▪  “受注”から“ガイダンス+能力”へ、読み筋の転換:四半期受注が消えた以上、今後ASMLを読むときは、通期ガイダンスの改定方向と増産計画・稼働率(IBM売上)を主指標に据えるのが実務的だ。

▪  メモリ・スーパーサイクルの“川上”受益:HBM/DRAMの露光強度上昇は、メモリ各社の記録的利益(例:サムスン2Q26)と同じ潮流の川上側。メモリ好況の持続性を見るうえで、ASMLの装置需要は先行的な検証材料になる。

▪  次の確認ポイント:翌日のTSMC設備投資、下半期の据付進捗、そして中国・輸出規制の動向。これらが通期€43〜45Bの実現度を左右する。

9.  主要データ一覧

Japanese financial table of indicators with quarterly figures and year-over-year changes (売上高, 粗利率, 純利益, IBM売上, 新規装置(台)). Columns include 2Q25, 1Q26, 2Q26, YoY and QoQ.

会社ガイダンス

財務テーブル: Q3 2026と2026年通期、株主情報を表示。売上高・粗利率・R&D・SG&Aなどを列記。

10.  出典・免責

▪  ASML Holding N.V., “ASML reports €9.3 billion total net sales and €2.9 billion net income in Q2 2026”(US GAAP・英文), 2026年7月15日。売上・粗利率・純利益・EPS・IBM売上・装置台数・Q3および通期ガイダンス・CEO発言・増産計画・還元は同リリースの一次情報。

▪  前年同期・前四半期の比較値、2025年通期・バックログ・過去の受注額(2025年Q4 €13.2B/EUV €7.4B、2025年末バックログ €38.8B)はASML各四半期・通期リリースによる。

▪  四半期受注の非開示化、市場コンセンサス、株価反応、競合(アプライドマテリアルズ)、TSMC決算日程、対中輸出規制、2030年市場見通しは各種報道・調査会社データによる。会社公表の確定値ではない。

本記事はASML公式プレスリリース(US GAAP)および各種報道・調査会社データに基づく情報整理であり、投資勧誘または投資助言を目的としたものではない。四半期財務諸表は未監査であり、ガイダンスは将来見通しで実績と異なり得る。競合動向・市場コンセンサス・地政学など報道ベースの情報は会社確定値ではない。金額はユーロ建て(€1B=10億ユーロ、EPSは基本・ユーロ)。数値は丸め処理により端数が一致しない場合がある。
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