米国のITリサーチ・アドバイザリ企業Gartner(ガートナー)は2026年1月、2025年の世界半導体売上高が7,930億米ドル(前年比21%増)に拡大したと公表した。伸びを牽引したのはAI向けプロセッサ、高帯域幅メモリ(HBM)、ネットワーク部品であり、AI関連半導体(プロセッサ、HBM、ネットワーク部品)は2025年売上の約3分の1を占めたという。
市場全体が伸びる局面でも、需要の強弱は「AI」と「非AI」で割れやすい。PC・スマホ・車載・産業など“非AI”の需要局面は必ずしも同時に回復しないためである。
この需給のズレが顕在化しやすいのが、成熟ノード(例:28nm以上)で生産されるアナログ/ディスクリート/マイコン(MCU)といった「レガシー半導体」である。レガシー市場は、①過剰投資の波で価格が崩れやすい領域と、②車載認定の壁で供給が硬直しやすい領域に分かれつつある。同じ成熟ノードでも、価格形成と供給の弾力性が大きく異なる局面に入ったのだ。
本稿は「レガシー半導体」のこの2つの局面を考察する。
なぜレガシー半導体にも投資が向かったのか

AI以外の市場が弱含む局面でも、各国の産業政策やサプライチェーン分断への備えから、成熟ノードの内製・地産地消は投資テーマになりやすい。加えて、車載・産業向けは製品寿命が長く、1回の設計採用(デザインイン)で長期売上が見込めるため、供給側は「将来の取り分」を取りに行きやすい構造にある。
Deloitte(デロイト)は2026年の見通しとして、AI需要が拡大する一方で需要修正のリスクに備えたリスク低減や「バランスの取れた投資」を論点に挙げた。成長が一方向に見えるほど、投資判断を外した際の痛みは大きくなる。結果として、先端だけでなく成熟ノードにも投資の矛先が向かいやすい。
過剰投資の波が作る「値崩れ」と稼働率リスク

問題は、投資が需要より先に立ち上がると、同一ノード・同一カテゴリで“値段勝負”が始まりやすい点にある。英国の市場調査会社Omdia(オムディア)は2026年に向けて、ウエハ能力増強がロジック/メモリにとどまらず、ディスクリート、アナログ、マイクロコンポーネントへと広がり、業界全体の能力増加サイクルになり得ると整理している。供給増が広い品目に及ぶほど、需要の弱いカテゴリでは稼働率と単価が同時に傷みやすい。
具体例としてパワー半導体では、TechInsights(テックインサイツ)は、車載(特にEV)需要の弱さや産業用途の減速などが意識される局面で能力増強投資が進み、稼働率と収益性への懸念が強まったと指摘している。需要減速局面での増産競争は、在庫・稼働率・単価の三重苦を招きやすい。
政策・貿易摩擦が“レガシーの過剰感”を増幅する

需給の緩みは、政策や貿易摩擦によって見え方が増幅されることがある。世界的なBig4の一員であるKPMG(ケーピーエムジー)は、米国通商代表部(USTR)が中国の半導体産業支配を巡るSection 301調査を受け、中国からの半導体に対する関税措置を段階的に進める方針(初期税率0%、2027年6月23日に引き上げ、税率は事前公表)をまとめている。
関税は需要を直接増やすものではないが、取引条件や販売先の選別を通じて、供給を左右する。販売が難しくなった分が別市場へ向かえば、需給が緩い市場では価格競争の圧力が強まり得る。加えてオムディアは、中国で成熟プロセスのファウンドリ能力拡大が続き、2026年以降に一定量の成熟プロセス生産能力が市場へ放出され始めるとの見通しも示している。需給が緩む局面で供給の放出が重なれば、汎用品レガシーは“投資→供給増→価格下落”の循環に入りやすい。
車載向けは認定が「製造プロセス変更」まで含めて合意形成を要する

同じ成熟ノードでも、車載向けは別のルールで動く。車載ICはAEC-Q100などの信頼性規格に基づく試験・評価が前提となり、新製品だけでなく重大変更時の認定要求・手順が規定される。温度グレードに応じてストレス条件が変わる点も、商用品との差を生む。
量産移行ではPPAP(生産部品承認プロセス)の資料提出が求められる。TIは、要求レベルによってPPAP資料が最大18要素になり得るとしている。
日清紡マイクロデバイスは、AEC-Q100要求に基づくQualification Test Plan(QTP)シートが試験計画・結果を体系的に示す文書であり、顧客へ提出して承認を得ることで「合意されたAEC-Q100適合製品」として取り扱う運用を説明する。OKIエンジニアリングも、環境ストレス、加速寿命、パッケージ関連などAEC-Q100対応試験の具体例を提示している。
ここで重要なのは、認定が「製品そのもの」だけでなく「製造プロセス変更」まで含めて合意形成を要する点である。資料・試験・変更管理が実質的に供給能力の一部となり、短期で“別工場・別ベンダーに振り替える”ことが難しくなる。価格が下がったからといって即座に置換が進む汎用品とは、同じ成熟ノードでも市場の弾力性が異なる。
二極化が意味する「勝ち筋」の変化
レガシーの勝負は、単なるウエハ枚数ではなく、①汎用品でのコスト・稼働率マネジメントと、②車載での品質インフラ(試験、トレーサビリティ、変更管理、資料整備)という二つの“別能力”に分解される。
独Infineon Technologies(インフィニオン・テクノロジーズ)は、2024年の車載半導体市場規模を684億米ドルとし、自社が車載半導体で首位を維持し、車載マイコンで強いポジションを持つことを示した。車載の強者は製品群だけでなく、認定運用の蓄積が供給の信頼性として評価されやすい。
勝負は“製造能力”から“運用能力”へ

装置・材料・後工程サービスにとっても、二極化は提案軸を変える。汎用品レガシーでは、コストダウン、歩留まり改善、省人化など“稼働率を落とさない”提案が効く。一方、車載レガシーでは、AEC-Q試験に必要な評価インフラ、試験治具や測定系、変更管理(PCN)に耐えるデータ整備、ロットトレーサビリティ、資料整備といった品質保証の運用を丸ごと支えるサービスが差別化になり得る。
設備増強が減速しても、「認定を通すための投資」は残りやすい。成熟ノードの勝負が“製造能力”から“運用能力”へ移るほど、周辺産業が入り込める余地は広がる。
投資が先行する汎用品と認定が先行する車載品に二極化

2025〜2026年のレガシー半導体は、「投資が先行しやすい汎用品」と「認定が先行しやすい車載品」に二極化し、同じ成熟ノードでも価格形成と供給の柔軟性が大きく異なる局面に入った。過剰投資の波では、需要の谷で稼働率が落ちるほど値崩れが加速しやすい。さらに政策・貿易摩擦は、供給の行き先を変えることで、緩い市場での価格競争圧力を強め得る。
一方、車載では認定・資料・試験・変更管理という工程が供給の弾力性を奪い、既存サプライヤーの優位を補強する。レガシーの収益性は、設備の新設よりも「どの市場のルールで戦うか」を先に定め、必要な運用能力へ投資できるかで左右される。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- Gartner Says Worldwide Semiconductor Revenue Grew 21% in 2025
- 2026 Global Semiconductor Industry Outlook | Deloitte Insights
- Five Key Trends for Power Semiconductors in 2025 | TechInsights
- 2026 Trends to Watch: Semiconductors(Omdia, PDF)
- USTR announces tariffs following Section 301 investigation into China’s semiconductor industry practices | KPMG
- Infineon bolsters global lead in automotive semiconductors with number one position in microcontrollers driving this success
- Qualification summary FAQs | TI
- 車載 PPAP (生産部品承認プロセス) | TI
- AEC-Q100 / Qualification Test Plan(QTP)シート | 日清紡マイクロデバイス
- AEC-Q100試験 | OKIエンジニアリング
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