生成AIの熱気に隠れがちだが、自動車の電源IC、センサ信号処理、ディスプレイ駆動(DDIC)を支える主戦場は、28/22nm世代の特殊CMOSである。特殊CMOSとは、高耐圧(eHV)や組込み不揮発メモリ(eNVM)を備えた量産プロセスの総称で、IP再利用が効き、歩留まりとウエハ単価(WSP)のバランスを取りやすい。同時にパワー半導体は、国内外で300mm(12インチ)量産が進み、供給形態(ベア/ディスクリート/モジュール)も複線化している。この状況からみえてくるのは、中国は量産を推し進めひたすら数で勝負、一方日本は技術力と安定供給で対応、という構図である。
本稿は、特殊CMOSについて、中国ファウンドリの戦略と日本の対応策を考察する。
中国ファウンドリは“量”で押しすすめる

中国勢は成熟ノードの“定常需要”を確実に捉え、供給の安定感で顧客を引きつける。SMIC(中芯国際集成電路製造)の2025年4–6月期は、売上22億900万米ドル(US$2,209mn)、粗利益率20.4%、稼働率92.5%である。稼働率90%超は空き枠が小さい=短期のスポット確保が難しい水準を意味し、長期供給契約(LTSA)による数量・期間の先行確定が納期確保に直結する。
華虹半導体の2025年4–6月期でも、売上5億6,610万米ドル(US$566.1mn)、粗利益率10.9%を開示している。12インチラインの寄与拡大と稼働の持ち直しが示され、28/22nm帯の“安定供給先”としての地位を強める。調達側の実務としては、(1)数量レンジとフォーキャスト精度、(2)テスト仕様の凍結レベル、(3)価格スライド条件、(4)優先枠の定義——の4点をLTSAに明記すると、高稼働局面でのライン確保が現実的になる。
日本の前工程は“波形合わせ”でコストリスクを抑える

日本勢の前工程は、投資継続と量産切り出しタイミングの慎重制御を両立させている。ルネサスエレクロニクスは、2025年4月24日、甲府工場(パワー半導体用300mmライン)の量産開始時期について「非常に需要不透明なので、特に期限を定めずに限界まで慎重目線を維持する」と表明した。先行投資は減価償却負担が重いが、需要の谷とカットオーバーを重ねない運用により、WSP(卸価格)上昇と在庫リスクを抑制できる。
一方、国内即応枠の確保も進んでいる。三菱電機は2024年9月30日、福山拠点での12インチSiパワー半導体チップの大口供給開始を発表した。SiCへの全面置換が進まない用途が相当量残る現実に対し、国内Siキャパを手元に持つことは、輸送・通関の変動に対するBCPとして有効である。結果として、前工程の“波形合わせ”(需要の山谷と量産切替の同調)がコスト合理性の源泉となる。
後工程は“自動化+トレーサビリティ”でCTを直線的に削る
前工程の増強が段階的であるのに対し、後工程(組立・検査)は短期間で処理能力を伸ばしやすい。東芝デバイス&ストレージは2025年3月5日、姫路の新バックエンド棟完成を発表した。2022年度比で生産能力2倍超、2025年度上期から本格生産である。ポイントは、(1)製造自動化、(2)在庫・工程を結ぶRFIDトレーサビリティ、(3)工程内滞留の削減である。一般に、トレーサビリティ導入と搬送自動化の組み合わせにより、工程内滞留を2桁%レンジで圧縮し、CT(サイクルタイム)を日単位で短縮できる。再エネ電力の活用は電力面のBCPとしても機能する。
試作→量産切替や多品種同時立上げの局面では、後工程のボトルネック解消が総リードタイム短縮に直結する。結果として、前工程の慎重運用×後工程の即効施策という日本型の“二段構え”が、需給の波を平坦にする。
CMOSの“もう一つの主役”——ソニーの積層型イメージセンサ

CMOSを語るとき、ロジックや電源ICだけでなく、イメージセンサという大きなアプリケーションは外せない。ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)は、産業・車載・モバイルまでをカバーする積層型(スタックド)CMOSで世界を牽引している。同社は2025年9月29日に、有効約1億500万画素/毎秒100フレームのグローバルシャッター方式CMOSを発表した。裏面照射型画素構造と積層アーキテクチャの組み合わせにより、高解像・高速を両立し、検査や外観認識といった産業用途での適用範囲を広げる内容である。
この発表に先立ち、2024年11月19日にもグローバルシャッターの積層型CMOS(IMX925)を公表している。連続する新製品の投入は、同社が画素(センサ面)とロジック(信号処理)を積層で最適化する開発軸を強化していることに他ならない。
SiCは“世代前倒し×供給形態の複線化”で設計自由度が上がる

SiCは高耐圧・高温で損失が少ない次世代パワー半導体である。ロームは2025年6月23日のIRで、第5世代SiC MOSFETの生産ラインを2025年に構築完了目標とし、第6・第7世代の市場投入も前倒しすると明記した。ベアチップ/ディスクリート/モジュールの供給形態を併存させることで、車載インバータなど用途要件(電圧階級、熱設計、ゲートドライブ条件)に段階的に適合させやすい。世代移行ではオン抵抗(mΩ)とスイッチング損失(%)が改善し、冷却要件(W/℃)や効率設計の余地が広がる。設計側は評価ボード/ゲート抵抗/スナバの条件出しを先行し、立上げ初期の初回合格率(FR)と歩留まりを引き上げるのが定石である。
用途ごとに「数量・時期・形態」を組み合わせろ

28/22nm特殊CMOSは性能・歩留まり・コストの均衡が取れる実利の主戦場であり、中国は高稼働のラインで量を供給する。日本は前工程の切り出し時期を慎重に制御しつつ、後工程の自動化とトレーサビリティでCTを直線的に削る。SiCは世代前倒しと供給形態の複線化で設計自由度を押し広げる。
用途ごとに「数量・時期・形態」を組み合わせ、四半期KPI(稼働率/歩留まり/CT/初回合格率)で運用を点検するだけで、2025〜2026年の需給変動下でも、性能・コスト・納期のバランスは維持できるはずである。
*この記事は以下のサイトを参考に執筆しました。
参考リンク
- SMIC Reports 2025 Second Quarter Results
- Hua Hong Semiconductor 2025 Second Quarter Results(PDF)
- ルネサス社長、甲府工場の量産開始時期は「慎重目線を維持」
- Mitsubishi Electric Begins Supplying Power Semiconductor Chips Made from 12-inch Wafers(PDF)
- Toshiba Celebrates Completion of New Back-End Production Facility in Himeji
- ローム IRニュース(SiC採用・次世代投入の前倒し、PDF)